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第63話 お父さん参上!

 子猫の暴走に巻き込まて以来、光一はすっかり子猫に懐かれた。ルビエラと修行していても絡まれるくらいに懐かれた。しかも、木刀によるものとは言え、光一が一切の手加減無しに放った一撃を受けても、かすり傷一つ付かない。打撲のような怪我さえ負わない。これには、本来ならその一撃を受けるはずだったルビエラでさえも驚いた。




「んー。流石は上位個体の子ね。幼いながらも基礎能力が高いわ」




 どこか呆れ気味に言うルビエラ。


 ひたすら、じゃれつこうとする子猫から逃げ惑う光一。もう、「助けてくれ」と叫ぶ余裕も無い。


 子猫にとっては遊びでも、光一は「黒龍の鎧」を纏ってようやく耐えられる一撃なのだ。


 しかし、ルビエラは思った。




(これはこれで修行になるのでは?)




 そこで、ルビエラは危うい状況になるまでは見守ることにした。




「た……助け……!」


「頑張って、光一! 今行くわ!」




 動く素振りだけは示しつつ、慎重に光一の限界を見極めるルビエラ。そのルビエラは気付いていた。光一が「黒龍の鎧」を纏える時間が伸びている。「身体強化」や「武装強化」も高いレベルで扱えるようになってきている。


 確実に強くなりつつある息子に、ルビエラは満足する。


 その目の前で子猫から逃げたり、じゃれつきを躱したりしつつ、光一は思った。




(助けろや!)








 午前の修行を終わらせ、ルビエラと光一は村に戻り、昼休憩を取る。子猫は不満そうにしているが、舎弟頭に睨まれては我慢するしかない。怒鳴られてからは、ある程度は言う事を聞くようになったのだ。




「腹は減ってるけど……食欲無い……」


「頑張ったもんね。少し休んでから食事にしましょうか」


「……お母さん、見てるだけだったね?」


「えっ。えー……いやいや……頑張って追いかけていたわよ?」


「ふーん? 『察知』スキルだと」


「あ、たまたま、疲れて休憩していた時かな」


「へーえ? 風の魔力で動きは感じていたけどさ」


「あ、あー! 足首を捻挫しちゃって!」


「その割には帰るときは普通だったね?」


「か回復力には自信あるのよ!」


「……………………」


「……………………」


「……………………」


「修行に丁度いいって思っちゃった」


「ほらー! もー! ヤバい時は助けるって言ったのに微動だにしないんだもんなー!」


「いやいや! 傍から見る分には全然大丈夫だったわよ?」


「ギリギリだったよ!」


「そこで耐えるのが修行なのよ」


「言うのは簡単だけどさ! もー! ご飯!」


「はいはい」




 空いた腹にお昼ご飯を詰め込む光一。


 そんな光一を微笑ましく見守りながら、昼食を食べるルビエラ。


 その最中に海側から、何やら騒ぐ声が聞こえてくる。




「…………?」


「……………」




 それでも、二人の食事の手は止まらない。


 今の二人にとって、外の騒ぎよりも空腹を解消するのが何よりも大事なのだ。








 村にはちょっとした砂浜がある。子供らが遊ぶには丁度いい広さの砂浜は、泥遊びも好きな子供らに大人気だ。


 そんな砂浜を大きな波が襲った。


 強風や突風があったわけじゃない。地震が起きたわけでもない。


 突然の大波が砂浜を覆ったわけだが、引率役の大人がパンチ一発で波を割り、子供らに被害が出ることは無かった。




「何だ急に!」


「村長呼んでくる!」


「ほら、君らは家に帰るよ」


『えー』




 村に人を呼びに行く人、子供らを家に帰そうと悪戦苦闘する人、海を警戒して臨戦態勢を取る人。子供とは言え、村の大人たちに鍛えられていて生半可な力業では動かせない。


 騒ぎを聞きつけた大人たちが砂浜に駆け付け、騒ぎが大きくなってきた時、海から旗を持った『魚人』が複数人現れる。


 魚人たちは砂浜を挟むように海から現れ、それぞれが旗を持っている。


 その旗を見て、村人たちは事態を察した。警戒心が僅かに緩みつつ、子供らを肩に抱えて家に帰る。




「突然の来訪! 失礼する!」




 最後に堂々と現れる、王冠を被った一際大きい魚人。筋骨隆々で、筋肉に背鰭が生えているように見える。




「我が愛しい家族に会いに来たよ!」


「ええい、いちいち叫ぶな。家にいるから普通に行け」


「教えてくれて感謝する! では!」


「……やかましいと言うに……」




 大声で叫ぶその王冠を被った魚人に、村長は辟易したように呟く。これまでにも、何度も注意してきたのに、全く効果が無い。




「もう! お父様、お声が大きいです。我が愛しの弟が怖がりますわ」


「え! いや、そんなつもりは! んんっ! これくらいでいいかな?」


「はい、それくらいでお願いしますね」




 その魚人の背からひょっこり顔を出したのは、絵本に出てきそうな「人魚姫」のような女の子。二本の足が生えているから、地上でも問題なく動けるようだ。


 こうして海から現れた魚人たちは、村へと足を踏み入れた。








 この魚人の一団は定期的にタカラベ村を訪れているようで、気軽に村人と挨拶を交わす。人魚姫も、村の子供らと仲が良いようだ。


 時には談笑を交わしながら、一団はルビエラと光一の家の前で足を止める。




「では、行くぞ!」


「普通に行きましょう、お父様」


「うむ! 入るぞ!」




 有無を言わさぬ勢いで声をかけておきながら、普通に三回ノックをする。一応、礼儀は弁えているようだ。


 ドアの向こう側からパタパタと足音がして、ドアが開かれる。




「おん?」




 どこか間抜けな声を出したのは、金髪を美しく靡かせる見目麗しい人。声はやや低いが、見た目だけで言えば女性に見間違える。


 しかし、魚人たちは間違えない。後方に控えている一団は即座に跪く。




「光一ではないか! すっかり大きくなったではないか!」


「お父さん! いつ来たの。言ってくれれば浜まで迎えに行ったのに」


「ふはははははははは! 構わん! サプライズというものだ!」


「それはいいや。降ろしてよ」


「む? 分かった。ふふふ、会う度に可愛らしくなるな!」


「煩いよ」




 唐突な抱っこから解放された光一に、人魚姫が歩み寄る。




「光一。お化粧の仕方を教えようか」


「余計なお世話だよ、姉さん」


「えー、素材は良いんだから生かさないと!」


「俺はあちこちを冒険するの。お化粧なんて要らないよ」


「もう、勿体ない!」




 王冠を被った魚人は光一の父親、人魚姫は光一の姉らしい。


 そこへ、食器を洗い終えたルビエラが姿を見せる。王冠を被った魚人を見て、ルビエラは喜色満面の表情を浮かべる。




「バハ! サリ! いらっしゃい!」


「うむ! 来たぞ! ルビエラ!」


「お母様、会いたかったです!」




 飛び掛かるルビエラを軽々と受け取る王冠の魚人「バハ」。そのルビエラに横から抱き着く人魚姫「サリ」。


 傍から見れば仲良し家族。微笑ましくあるだろう。


 しかし、そのハグに巻き込まれ、窒息の危機を迎えている光一にしてみれば、ひたすらにいい迷惑でしかなかった。

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