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第59話 別れは意外とあっさりと 

 子供は唐突に飽きるものである。


 散々に引き摺り回し、ボール代わりに蹴り回し、投げ飛ばした後、




「なんか、飽きたな」




 そう言って、口々に「飽きた」と連呼し、子供らは広場から出て行った。




「あ、そのチビどもの死体は積んどけよ」




 去り際に言い残された言葉に、変異幼体はヨロヨロと立ち上がりながら、




「はい…………分かり……ました……」




 と、非常に弱々しく応えた。


 光一に片目を潰されて以来、変異幼体の威勢はすっかり削がれてしまった。


 広場のあちこちで死んでいる幼体の死体を引き摺り、檻の隣に積み上げる。頭が破裂していたり、腹が裂けて内臓が漏れ出ていたり、体のあちこちが拗じられていたり。様々な形で幼体は遊ばれ、その役目を全うしている。


 夜を迎え、檻の中の雰囲気は暗く沈んでいる。幼体たちは雑草や落ち葉を力無く咀嚼し、時には嗚咽を漏らす。明日には終わる命かもしれないのだから、明るくはなれない。


 変異幼体は幼少体たちに食事を与えつつ、その幼体たちの様子を見て、覚悟を固めた。


 左手は腰に当て、右手を上から下へ振りつつ、太腿を上げて行進を始める。




「おーいーで! ピキピッピ! おーいーで! ピキピッピ! おーいーで! ピキピッピ!」




 努めて明るい声色で行進し、幼体たちの注目を集める。


 幼体たちの前まで進み出て、皆が注目しているのを確認すると、両手を腰に当てて、体を上下させてリズムを取る。




「泣いてるアナタは見ていって! プッユ、プッユ、プッユ、プッユ♪」




 両手で頬を挟み、頬を揉む。




「楽しいショーが始まるよ! プック、プック、プック、プック♪」




 クルッと背を向け、顔だけ幼体たちに向け、尻を左右に振る。




「泣いてる気持ちも笑い出す! プッリ、プッリ、プッリ、プッリ♪」




 改めて幼体たちに向き直り、両手を上げる。




「ジャーン♪」




 歌いきった。嫌な思い出しかない歌だが、兎に角、皆を元気付けようと思った。


 幼体たちは笑顔でこそないが、変異幼体に注目している。


 変異幼体は歌ったり、踊ったり、変な顔をしてみたり、様々な芸を見せる。


 最初こそ暗い表情だったが、次第に笑顔を浮かべるようになり、笑い声を上げるようになった。変異幼体の歌や踊りに手拍子をするようになり、一緒に踊る個体も現れた。


 笑顔の時間は眠気とともに終わり、幼体たちは眠りについた。幼少体たちも眠っている。一度の食事量が増え、回数が減っていく。もう少しで二本の足で立ち上がるようになるだろう。




「今度こそ、この子らこそ……!」




 変異幼体の脳裏には片目の幼体と、弟のように思っていた五匹の幼少体が蘇る。とても大事にしていたが、心ない子供に殺された。


 ここにいる幼体たちも、山から連れてこられてから半分にまで減ってしまった。幼少体だって、光一に殺された。


 幼少体は一抹の覚悟を胸に秘め、ゆっくりと眠りについた。








「ピキィィィィィィィ!」


「ピコォォォォォォォォォ!」




 幼体の悲鳴で、幼少体は目を覚ました。


 目の前で幼体たちが縄で縛られ、檻から運び出されている。荒々しく縛られているようで、幼体の縛られている箇所から流血している。




「な、何をしているんだ! やめろ!」




 立ち向かおうとする変異幼体の背中を、村の男性が蹴り飛ばした。




「きゃぁ!」


「うわ、なんだ。喋る奴か」


「な、何を……! やめろ! 返せ!」




 変異幼体を蹴っ飛ばした男性は、幼少体を入れている木箱を運び出している最中だ。檻の外には、既に三箱が運び出されている。




「ピョキュゥゥゥゥゥ!」


「ピャキョォォォォォォォ!」




 口々に幼少体が悲鳴を上げている。


 変異幼体は何とかして木箱を取り返そうとするが、その背中を蹴り飛ばされ、踏みつけられた。




「大人しくしろー!」




 子供らが飛び乗り、縄で足を縛る。




「や、やめて!」




 抵抗するが、子供らは一顧だにしない。


 子供らが背中から降りると、変異幼体は足の縄を解こうとするが、その腕も抑えられ、上半身も縄で縛られた。


 全く身動きが取れなくなった変異幼体は、足を持って逆様にされ、檻の外に積んである幼体の山に放り込まれた。他にも、縄で縛られている幼体が山積みされている。




「何するんだよ! これはどんな遊びなの!」




 変異幼体が呼び掛けるが、答える人間はいない。見渡してみても、作業している人間の中には光一はいない。


 全ての幼体が縛られ、今度は海側へと運搬される。荷車に積まれ、舗装されていない路面からの振動で気持ち悪くなり、幼体たちは嘔吐を繰り返す。


 運ばれた先は港の一部であり、見るからにボロボロの小舟が数隻並んでいる。




『せーの!』




 男らは幼少体を詰め込んだ木箱を小舟に乗せ、乗せた舟から沖に向かって押し出す。潮の流れもあり、順調に舟は沖に向かう。




「ピャァァァァァァァァ!」


「ピョォォォォォォォ!」




 と、幼少体の泣き声は遠く離れていく。


 山積みにされていた幼体の死体も舟に積まれて、沖へと流される。


 縛られた幼体も舟の中に積まれていく。一番下の幼体は呼吸ができず、助けを求める声を上げることもできない。




「や、やめてくれ! 僕らは、僕らは子供たちの玩具だろ! こんなことしたら、子供らが怒るんじゃないか!?」




 助命嘆願する変異幼体の言葉に、ケラケラと笑い声を上げるのは、その村の子供たちだ。




「もう要らねーよ」


「飽きたし」


「臭いし、煩いし」




 子供らは口々に言い、変異幼体に絶望を突きつける。




「あ、あいつは!? こ、光一って呼ばれている……アイツが怒るぞ!」


「要らんから好きにしてって言っていたぞ」


「……! そんな……! ぼ、僕はお城のフハ様からアイツに預けられているんだぞ!」


「フハ・フ・フフハか? 別にいいよ、あの程度の小僧はどうとでもできるし」




 変異幼体の反論は潰され、最後の船に変異幼体も乗せられ、舟は沖に向かって押し出される。


 陸から離れることを不安に思い、変異幼体は何とか起こした体を捻って陸を見る。何人かの大人がこちらを見ている。




「助けて! お願い! 助けて!」




 その声は陸まで届かない。届いたとしても、大人たちが助けることは無いだろう。


 その時だ。




「ブギュッ! ブギュブブブブブ!」




 乗っている舟が沈み始めた。


 見回すと、他の舟も沈んでいる。最初に沖に流された、幼少体たちが乗っている舟は既に沈んでいる。何匹かの幼少体は手足をバタつかせて、




「ピョォォォォ! ピョォォォォ!」


「ピャァァ! ピャッ! ピャァァァァァ!」




 と、助けを求めているが、一匹、また、一匹と沈んでいく。幼少体は縛らなくても、陸までは泳げないと分かっていたのだろう。


 他の舟の幼体たちは縛られていることもあって、顔を水面に出すこともできない。




「ピィィィィィィィ!」


「ピコォォォォォォ!」


「ピキィィィィィィ!」




 次々と、幼体たちは海の中へと沈んでいく。




「助けて! 助けてぇぇぇぇぇぇ!」




 必死に叫ぶ変異幼体の声は、やはり、陸までは届かない。


 変異幼体の体の半分が海の中へ。下にいた幼体たちは先に海の底へと沈んでいく。




「ぶぐっ! ごぼぼぼぼ!」




 変異幼体もとうとう海中へと没し、容赦なく口から海水が流れ込んでくる。


 皆を守ろうと思い、反抗しようと固めていた覚悟は海水に溶け込むように消えていく。反抗の機会さえ無かった。


 窒息の苦しさを味わいながら、ゆっくりと死にゆく恐怖に包まれる。








 全ての舟が沈んだことを確認した村の大人たちは、




「これで漁業も安定するな」


「魚を呼ぶにはナキウがちょうどいいからな」


「漁場を整えるのも楽じゃねぇからな」




 と、話しながら村へと戻っていく。


 ナキウは魚の餌にはならない。でも、小魚でも食い破るには容易いナキウの体は、簡単に巣として使える材料だ。だから、ナキウの体が沈んでくると、その臭いを感じ取った小魚たちが集まってくる。あとは簡単だ。その小魚を狙って大きな魚が、その魚を狙って更に大きな魚がと、次々と魚が集まってくるのだ。


 幼少体を沈める必要は無かったが、世話をする手間を省く為に沈めた。どうせ、ナキウは放っておいても村の周辺にまでやってくる。ナキウとはそういうものだ。








 その頃、光一は山の広場で必死になって全力ダッシュしている。


 その光一を、一頭の「山の獣」が追い回している。ただし、光一よりも一回り大きい程度であり、光一とルビエラの前に現れたような〝カシラ補佐〟のような圧迫感は無い。




「ニャァァァァァァ!」




 むしろ、どこか可愛らしさがある。


 一撃で光一を吹き飛ばす程度には強いことを除けば。




「ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ」


「のぉぉぉぉわぁぁぁぁぁ!」


「ゴロニャン!」


「ギャース!」




 ピョンと跳び上がった「山の獣」(赤ちゃん)は、正確に光一の背中を捉え、跳び乗った。


 光一は咄嗟に「黒龍の鎧」を纏い、致命的なダメージを負うことは無かったが、油断すれば気絶しそうな衝撃がある。




「ぐ、くっ……何故、こんなことに……」




 そう言って、光一は気絶した。

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