表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/65

第58話 いざドームの中へ

 目の前に佇む巨大な建築物「ドーム」。前世において人間の居住可能だった建築物。


 光一の目の前にあるドームは随分と小さいが、それでも数万人は収容し、不自由しない程度の生活を送らせることができるだろう。




「さて、と……」




 光一は慎重に座標計算し、「回廊」を開く。視界内であれば座標計算は簡単だが、ドームの中の状態が分からない以上、賭けの要素も絡んでくる。


 光一は深呼吸を行い、「回廊」へと踏み入る。




「暗い……? いや、少し明かりが……」




 瞬時に通り抜けた先は、所々に蛍のような仄かな明かりだけが灯された空間だった。足の裏には固い感触があり、少なくとも高所に出て落ちているわけではないようだ。


 万が一に備え、「黒龍の鎧」を纏い、「察知」スキルと風の魔力による索敵を行う。いつでも剣を引き抜く準備をし、盾を進行方向に構える。


 風の魔力での索敵には何の反応は無く、「察知」スキルでも特に危険を感じない。暗闇に目が慣れてくると、うっすらと前の光景が見えてきた。




「ここは……倉庫……?」




 雑多に段ボールが積まれている。人が通れる程度の通路はあり、光一が立っているのはその通路のようだ。仄かな明かりは火災報知器の明かりだ。僅かに見えたドアノブに手を伸ばし、ゆっくりと回す。


 鍵はかかっていないようで、ゆっくりとドアを押し開く。


 非常電源は生きいているのか、薄っすらと黄色がかった明かりに照らされ、左右に廊下が伸びている。


 光一は目印に剣で壁に傷を付け、右手側へと歩を進める。


 廊下は前世では珍しくもないビルのような味気ないものだが、人気が無いこともあってどこか不気味な雰囲気が滲み出ている。




「……足音が響くな……」




 光一は足音が響くのを嫌い、「黒龍の鎧」を収納する。盾までも収納されるのは惜しいが、即座に「回避」スキルが使えるように備え、ナイフに手を添えておく。


 足音を立てないように進み、幾つかの角を曲がる。二手に分かれていたら、進む方向の壁に傷を刻む。


 そうやって進んでいると、一つのドアに辿り着いた。


 意を決して、光一はドアノブを回そうとするが、鍵がかかっているようでビクともしない。仕方なく、光一はナイフを引き抜き、それに「鎌鼬」を纏わせ、壁とドアの隙間を斬り裂く。バキッと音がして、鍵が壊れた。




「非常ベルくらい鳴るかと思ったが、そこまでの電力は残っていないのか?」




 或いは罠でもあるかと警戒しながらも、ドアを押す。重苦しい音とともにドアは開く。


 中に入ると、そこはだだっ広い空間になっていた。




「なんだ……? ここは……」




 巨大な筒のようなものが部屋の外周を周っている。


 初めて見る光景に、光一が呆気に取られているが、複数のコードが繋がっているパソコンを発見する。机の上のパソコンへ歩み寄ってみると、埃が積もっていて、随分と長く放置されていることが分かる。


 光一は適当なキーを押してみるが、ディスプレイは何の反応も示さない。




「えーっと、確かコレだっけ?」




 あまりパソコンに詳しくない光一なりの知識を総動員して、電源ボタンを押す。


 ピピッと電子音がして、ディスプレイに明かりが灯る。パソコンの製造会社や、OSのバージョンが映し出される。




「……パスワードか……」




 八文字のパスワードの入力を求める画面になり、光一は頭を悩ませる。ハッキングするような技術も知識も無い。




「あ、そうだ」




 光一はものは試しとばかりに「黒龍の鎧」を纏い、「察知」スキルを使ってみる。脳裏に浮かんできた数字やアルファベットを入力してみると、ファンファーレが流れて、無事に突破できたようだ。


 様々なアプリが埋め尽くすホーム画面を見た光一は、思わず溜息を吐いた。




「使っていたのは男だな」




 ホーム画面の壁紙は、やたらと布面積が小さい衣装を纏った女性が、無駄にセクシャルなポーズをしている。扇情的な表情もしているが、生憎と光一の好みではない。


 アプリのタイトルを一つずつ見ていくと、どうやら、この部屋はドームの中でも六割くらいを誇る面積のようだ。目の前の巨大な筒は「粒子加速器」らしい。




「……タキオン粒子……? 宇宙から飛来した惑星外粒子……。……科学者の言うことは分からんな……」




 小難しいものは適当に流し、色々なページを開いていく。


 すると、「研究日誌」と題したファイルを発見した。開いていみると、様々な研究に関する私的考察や愚痴が羅列してある。日によって文章量が変わり、短い時は数文字の日もある。


 他の場所を探そうかと思い始めたとき、光一は一つのページに釘付けとなる。




「『我々は粒子加速による光速の再現実験において〝異世界〟としか思えない空間を発見してしまった。我々の世界には無い物質、創作世界ではお馴染みの〝魔力〟とでも呼ぶべきエネルギー。世界の〝壁〟に穴を開けた罪悪感もあるものの、捕らえることに成功した新種生物の研究には好奇心をくすぐられる』……コイツは何を書いているんだ……?」




 もっと読みたいと思う光一だったが、経年劣化によるものか、データが破損していて、文字化けしていて読むことはできない。やがて、画面表示自体が割れたように滅茶苦茶になり、微動だにしなくなった。キーボードを知る限り操作するが、一切の反応を示さない。強制終了させて、再起動を試みるが、電源は入るが画面はバグったままだ。内部に溜まっていた埃が、回路に焦げ付いたのだろうか。


 光一はパソコンを諦め、部屋の中の捜索を再開する。このドームの中の大半を占める空間を〝部屋〟と称するのは正しいのだろうか。


 このドームに来たのは、光一の中に『この世界は〝異世界〟ではなく、前世と同じ世界じゃないのか』という疑惑があったからだ。そう断言するには科学技術水準の低下や、魔力や魔族、魔獣の存在や、国の在り方など、光一が知る世界となかけ離れた要素が多過ぎた。


 その疑問を解決する情報を求めてここへ来たわけだが、日誌に書かれていた〝異世界〟という表示に、光一の疑惑はグラグラと揺れている。




「ここはやはり、異世界なのか……? でも、あのパソコンにはアルファベットが使われていた……。……どういうことだ……?」




 自分を含めた人間や魔族が使う言葉も文字も日本語だし、ドームが存在している。


 だからこそ、光一は〝ここは異世界ではないのだろう〟と思っていた。


 新しい情報はないかと探し回るが、ここは粒子加速器による〝光速の再現実験〟に特化しているようで、あのパソコン以外には情報を得られそうなものは無い。


 この実験室から出て、別の方向へ進む。


 そうして『保管庫』と刻まれたプレートがかけられた部屋に辿り着く。手早く鍵を壊し、ドアを押し開けて、中へと入り込む。


 全体的に緑色の光に染まっている。




「……どういうことだ……」




 この部屋も広く、一般的な体育館くらいはあるだろうか。


 そんな広い部屋に成人男性を収めることができそうなくらいに大きなカプセルが綺麗に立てて並べられている。カプセルの下からは白色の明かりに照らされ、中身がはっきりと見える。


 オスとメス、卵袋から成体までのナキウが一匹ずつ収められている。当然、全てが死んでいるのだが、カプセルに詰まっている薬液によるものか、その死体は腐ることなく、形を保っている。




「あの日誌にあった〝異世界の生物〟ってのはナキウのことだったのか。コイツらが異世界の生物なら、ここは異世界……? でも、ドームは俺の前世のものだし、書いている文字も日本語だ……」




 無意識に疑問を口にしながら、部屋の中を見て回るが、パソコンや研究ノートの類は見当たらない。本当に、ただの保管庫のようだ。


 保管されているものの中には、五体をバラバラにされているものや、体を切り開かれて内臓を抉り出されているもの、その取り出された内臓もある。どうやらナキウの脳味噌は、人間の脳味噌よりも随分と小さいようだ。半分も無いだろう。




「ナキウが異世界の生物なら、魔族や魔獣も異世界の……? どういう歴史を辿れば、世界はこうなったんだ……?」




 このナキウがどれ程昔の死体かは分からないが、設備から考えても、光一の前世とそう変わらないくらいの時代のものかもしれない。


 保管庫を後にして、他の部屋も探ってみるが、これといった収穫物は無い。このドームを放棄する際に処分したのか、持ち出したのか。パソコンやナキウのサンプルが置き去りになっているし、何らかの不具合があって完全に持ち出せる余裕は無かったのかもしれない。


 体感時間で大体五時間くらいは捜索しただろうか。


 疑問は解決せず、大した情報も得られなかった光一は、残りのエリアの捜索は後日に回し、光一は村に帰ることにした。


 その瞬間、「回廊」が開く。


 開けたのは光一ではない。


 瞬時に光一は飛び退り、「黒龍の鎧」を身に纏い、警戒心を最大にする。




「やはり、ここへ来ましたか」




 現れたのは淵谷家の女だ。




「いずれは来ると思っていましたけどね」


「……どういう意味だ?」


「あぁ、光一様はご存知ではなかったのですね。ここは〝裏七家〟の管理下にある研究施設ですから。ドームは、ここを参考に拡大設計して建造したのです」


「何故、そこで裏七家が絡む? ドームの管理はコーポのはずだろ」


「コーポは裏七家の表社会での姿ですから。裏七家の序列一位から三位が経営権を握る巨大企業であり、裏社会で絶大な権力を支えていた資金力を産む金の卵だったのですよ」


「そうだったのか。じゃぁ、あの酸の嵐は日本を牛耳るにはお誂えだったわけだ」


「いえ、アレは酸の嵐では」




 その時、ピーピーと電子音が鳴り響く。


 淵谷家の女は「チッ」と舌打ちをし、脇に抱えていたタブレットを操作する。




「このタイミングで……。少し、注入を急ぎ過ぎたか……?」




 そうブツブツ言いながらも操作を中断すると、光一に向き直り、




「光一様、すみませんが、ここは引いてくれませんか。できればここには関わらないでほしいのです」


「何故だ?」


「知る必要はありません。知ってほしくもありませんから」


「……ふん」




 女の口調は丁寧だが、随分と遠慮の無い殺気を光一にとばしてくる。前世であれば無視できたものだが、今の光一には効果的だ。


 光一は戦闘姿勢を解き、光一の「回廊」を開く。




「今は引く」




 そう言って、光一は「回廊」へと入る。


 光一を見送り、淵谷家の女も「回廊」を開いて、その中へと入って行った。








 タカラベ村へと帰り着くと、既に真っ暗になっている。光一の体感時間は正確だったようだ。


 広場の端にある木の檻の中では、ボロボロになった幼体が涙と血を流しながら落ち葉や雑草をムシャムシャと食べている。檻の隣に積んでいる死体の山は高くなっており、また、幾らかの幼体が死んだようだ。




「ねぇ……」




 遠慮気味に声が掛けられる。


 変異幼体だ。


 光一がドームに向かう前までの威勢の良さは鳴りを潜め、随分と大人しい。


 その姿を見ると、身体中に傷があり、皮が捲れている箇所からは血が流れている。




「お願いだよ。ここから出してほしい。あの山に住むのがダメなら、別の場所に行くよ。この村にも、君にも迷惑はかけないよ」


「……………………」


「もう、これ以上、この子らが殺されるのを見たくないんだ。このままだと、あの赤ちゃんたちだって危ないかもしれないし。お願いだ、ここから出して。お願いだよ」




 そう言って、変異幼体は土下座の姿勢をとり、光一に精一杯の嘆願を行う。


 光一は無言のまま檻の中へと入る。土下座している変異幼体を掴み上げ、頭と足を握り、背中を地面に向ける。




「い、痛いよ! いっぱいケガしてるの! そんなに強く握らないで!」




 変異幼体が痛みを訴える。


 しかし、光一は何も言わない。無表情で、何を考えているのかも分からない。足元の、変異幼体と同じように傷だらけの幼体たちも、光一の様子を恐れて遠巻きになっている。


 光一は悲鳴を上げる変異幼体を持ったまま、幼少体を納めている木箱へ行くと、変異幼体を頭よりも高く持ち上げ、木箱に向かって投げ落とした。


 ビチャッという水っぽい音とともに、




「ピャッ!」


「ピョッ!」


「ピュッ!」




 と、複数の幼少体の悲鳴が響く。


 変異幼体は落とされた勢いほどのダメージは受けていない。何せ、落とされた先にはクッションがあったわけだし。


 変異幼体は慌てて立ち上がると、背中から内臓をぶち撒けた幼少体の死体が剥がれ落ちる。


 ざっと二十匹くらいは潰れて死んだだろう。




「あ、ああ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」




 変異幼体は幼少体の死体を手に取り、大粒の涙を流す。




「何するのさ! こんな……こんな酷いこと! この子らは何もしてないのに! 僕らはここから出て行きたいだけだ! お前たちに迷惑をかけないって言っているだろ!」




 光一を睨みながら文句を言う変異幼体に、光一はやはり何も言わず、檻の上に垂れている木の枝を折り、変異幼体の左目に突き刺した。




「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「煩いんだよ。玩具が出て行っていいわけないだろうが。お前らはこの村の子供らの玩具だって言っただろう。立場を弁えろよ」


「いっ! ぎぃっ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ぬっ! 抜い」




 光一は枝を荒々しく抜き取ると、枝の先には変異幼体の目玉が突き刺さったままだ。


 その目玉があった箇所からは滝のように血が流れ出ている。変異幼体はそこを手で押さえながら、地面の上を転がっている。


 光一はその目玉を枝から抜き取ると、適当な幼体を捕まえて、その口の中に無理矢理押し込んだ。




「プミッ!? プッ!」




 何とか抗おうとするが、敵うわけもなく、変異幼体の目玉を食わされた。


 変異幼体はうつ伏せになり、尻を高く上げる姿勢になって目の痛みに苦しんでいる。


 光一はその尻の穴に枝を突き刺し、




「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」




 と、悲鳴を上げる変異幼体を無視して、檻から出る。閂をはめ、家に帰る。


 淵谷家の女に言い包められるように逃げるしかなかったことが、光一を苛つかせていた。変異幼体への仕打ちはその八つ当たりに過ぎないし、普段の生意気な態度で溜まっていたストレスの発露も兼ねている。


 とは言えど、今回の撤退は今後の布石にもなるだろう。


 光一は、自分にそう言い聞かせ、少しばかり気を鎮める。深呼吸も合わせて、気分を落ち着ける。




「明日から修行を頑張ろう」




 そう言いながら、光一は家に入った。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ