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第52話 タカラベ村よ俺は帰ってきた!

 丸々五日間マーケットを楽しんだルビエラと光一は、ホクホクとした気持ちのまま、マーケットを後にする。


 タカラベ村への旅に戻ろう。


 そう思っていると、目の前にはフハ・フ・フフハが立っている。手には鎖が握られており、その鎖は変異幼体の首輪に繋がっている。


 変異幼体は光一の姿を見ると、目尻に涙を浮かべ、握り拳を作って光一に駆け寄ってくる。


 容赦無く、フハ・フ・フフハに鎖を引かれ、動きを制止される。




「なんで……! なんで、帰ってこなかった!? あの夜に! なんで帰ってこなかったの!?」


「は? 帰るって言ったか?」


「だって」


「〝帰って来るまで待て〟とは言ったが、その日の内に帰るとは言ってない」




 光一の答えを聞き、変異幼体の目尻からは涙が溢れる。




「殺されたんだぞ!」


「へぇ?」


「弟も! 小さい子たちも! とても……! とても酷い方法で……! お前が帰ってきたら殺されなかったのに!」


「知るかよ。どうでもいい。〝外敵からは守らない〟と言ったし、お前はそれを分かった上で連れ回したんだろうが」


「でも!」


「その場に俺やお母さんがいても守ることは無かったよ」


「…………っ! そんな」


「それに、お前が俺を責めれるのか? 生きてるってことは、お前だけ隠れるなり、逃げるなりしたってことだろ?」


「僕も! 僕も殺されたんだ!」


「あっそ」




 フハ・フ・フフハが笑みを零しながら、変異幼体に言う。




「言ったでしょう。お前の境遇に同情する人間はいないと。お前にはそんな価値は無いんですよ」


「それはそうとフハ先生」


「はい。コレが生きている理由ですか?」


「その点は気になりまして」


「簡単ですよ。予備の体です。複製体の一つを脳とリンクさせたのです。コレにとって体など生死には関係ないのですよ」


「そう言えば、そんなことを言ってましたね」




 そう会話しながら、フハ・フ・フフハは光一に鎖を手渡す。魔力制御の修行は続く。


 その時、変異幼体が鎖を引っ張って抵抗する。




「嫌だ! 離せ! もうお前たちは嫌いだ! 僕はお城に戻る!」




 無視する光一。


 変異幼体は光一の足を蹴り、徹底抗戦の意を示す。




「ちっ。面倒ですね」




 フハ・フ・フフハはそう言って、指をパチンと鳴らした。空間が歪み、フハ・フ・フフハの手に一つの瓶が現れた。中には、血の気が失せたイチモツが入っている。


 それを見た変異幼体の顔から血の気が引く。


 見てみると、変異幼体の股間にはイチモツが無く、縫合され、焼き固められた跡がある。




「あ、そ、それは」


「彼らに従わないのであれば、これは処分しないといけませんね」


「や、やめて! やめてフハ様!」


「そのためにはどうすべきか、分かりますか?」




 フハ・フ・フフハに言われ、変異幼体は唇を噛み締め、光一に向かって土下座する。額を地面に擦り付け、




「ごめんなさい。もう、逆らいません。何でも従います。僕も、僕も……旅に連れて行って下さい」




 と、謝罪と服従の言葉を述べる。




「じゃ、条件を付ける。俺やお母さんに逆らえば首輪は自動で外れる。それを合図に、あの瓶は処分される。いいな?」


「……っ! ま、待っ」


「首輪と瓶にそのように術式を書き込みました。逆らうなら、それなりの覚悟を持ちなさい」




 フハ・フ・フフハの行動の早さに、変異幼体は口を噤むしかなかった。ただ、黙って頷くしかなかった。


 改めて、光一は鎖を引っ張る。変異幼体は逆らうことができず、引かれるままに足を動かす。


 そこへ、フハ・フ・フフハが声をかける。




「質問があります。あなた達がマーケットに行っている間、一度も戻らなかったのは本当ですか?」


「え、はい」


「その気にもならなかったわね」




 光一とルビエラの返答を聞き、フハ・フ・フフハは首を傾げる。




「いえ、大した理由ではないのですが、コレの前の体のバイタルが停止したので、突然変異のサンプルとして回収しようとしたのです。しかし、死体は無かったのですよ。首輪と鎖だけでした。てっきり、あなた方が処分したのかと思ったのですが」


「死体が無かった?」


「はい」




 なんとなく気になって、その現場に足を運んでみる光一。ルビエラは面倒臭そうにしている。


 体が潰れて死んでいる幼体、地面に塗り付けられている幼少体。見るも無惨で憐れ。でも、大して珍しいものではない。ナキウの死に方として普遍的なものだ。


 その普遍的な死体の中には、変異幼体のものは無い。


 光一の後ろに立っている変異幼体は、この光景を見て、殺された夜を思い出したのか、ホロホロと涙を流す。拳で涙を拭い、唇を噛んで嗚咽を我慢する。




「仮に、ナキウモドキのようなナキウを好む種族が死体を処理したのなら皮くらいは残るはずですけどね」


「……ちょっと失礼します」




 そう言って、光一は「黒龍の鎧」を纏う。


 そして、「察知」スキルを発動させる。僅かに、残留している魔力を感じ取れた。


 微かに、その魔力には覚えがある。




「これは……『淵谷家』の女……? わざわざここへ何しに来たんだ……?」




 何度かちょっかいを出してきていた「淵谷家」を名乗っていた女性の魔力だ。


 鋭い殺気を感じた。


 振り向くと、ルビエラが殺気立っている。




「あの女ぁ。次に姿を見たら必ず殺す」




 怒りは少しも収まってはいないようだ。


 何にせよ、近くにはその本人はいない。


 光一は「黒龍の鎧」を収納し、鎖を引いて、ルビエラと共に旅路へ戻る。


 フハ・フ・フフハは、第三王子が新たな国王に就任した後の権力基盤固めに忙しいらしく、ルビエラと光一を見送り、城へと帰った。




 結界を張り、ルビエラと光一の旅は平和に続く。徒歩では二人に追いつけず、走っている変異幼体は疲れ果て、光一に引き摺られるかたちになる。


 しかし、変異幼体の体重が軽く、光一にとっては筋トレにもならない。


 ルビエラと光一が休憩のために足を止めると、変異幼体は傷口を舐めて痛みを和らげようとしている。足や胴体には舌が届かず、傷口は生々しいまま放置されている。




「このまま行くと、あとどれくらいだろう?」


「そうねぇ。順調に行けば三ヶ月くらいかしらね。特に困難なポイントは無いし」


「やっぱ遠いなぁ」


「ふふ、楽しみながら行きましょう」




 その後は、本当に順調に旅は進んだ。


 結界は張るだけなら三日は保つようになったし、ルビエラとの実戦修行でも簡単には倒れなくなった。最後には負けるのだが、ルビエラ曰く「四割くらいの力までなら互角に戦えるようになった」とのこと。


 時折の魔獣の襲撃も、フジ山麓の森にいる魔獣に比べれば余裕で対処できる。


 タカラベ村がある領地に到着し、光一が初めて戦った魔獣(猿)の縄張りを通り抜ける。予想通りに襲撃されるが、数が多くて面倒臭いくらいで苦も無く撃退できた。


 いよいよ、タカラベ村が近付き、光一が学校に通っていた町に着いた。色々と見て回りたかったが、光一に三ヶ月もの間引き摺られてボロボロになった変異幼体の事もあり、さっさと通り抜けた。ナキウ養殖場となった元教会では、沢山のナキウが生産されていた。大量の卵袋持ちメスや、幼少体や幼体を出荷する様子を見て、変異幼体は大きなショックを受けているようだった。


 町の外の平原を越え、テルスズ山を越えて、ルビエラと光一はタカラベ村に辿り着いた。


 十歳で村を出た光一は、七年ぶりに帰ってきた。




「おかえり、ルビエラ。あら? そちらは?」


「んー? あれ、もしかして」


「え、あんた、まさか」




『光一!?』




 ルビエラを出迎えた村人たちは、ルビエラの隣に立つ光一を見て、実際に飛び上がるほどに驚いた。




「お久しぶりです」




 光一が会釈しつつ、挨拶すると、あっという間に囲まれた。




「まー、光一くん!? 久し振りねぇ。随分と様変わりしちゃって」


「なんて言うか、成長したっていうか」


「その逞しくはなっているけど」




 皆、光一の成長を認めつつ、実力が上がっていることも認めつつ、それでも何かを言い淀んでいる。




『キレイになったね?』


「は?」




 皆が口を合わせて言った言葉に、光一は疑問を浮かべるばかり。


 ひとまず実家に帰り着き、鏡を覗く。これまで、鏡を見る暇が無く、気付かなかった。


 鏡には、肩辺りまで伸びた金髪、青空のような碧眼、小顔で鼻筋が通った美人が映っていた。


 これでは、村の連中から「キレイになった」と言われるのも無理はない。


 光一はルビエラが適度に掃除してくれていた自室に戻り、懐かしきベッドに身を投げる。




「ま、いっか」




 そのまま、光一の意識は夢の中へと入っていった。


 ちなみに、変異幼体は家の外に放置されている。家の近くの木に鎖を巻き付けられ、身動きが取れずにいる。




「変なナキウ」


「おい、鳴いてみろよ」


「コイツ、チ◯コ千切れてやんの」




 早速、村の子供らの玩具になっていた。

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