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第24話 因果応報①

 『なるほど。それは興味深い。花畑ですね? 今から向かうので捕獲しておいて下さい』


「承知しましたー」




 連絡用の人型を通してフハ・フ・フフハへの報告を済ませ、待機させていた団長も手招きして呼び寄せる。


 手招きという失礼な呼ばれ方をされたことは気にも留めず、団長は浮いているナキウの幼体を興味深く観察する。




「これは……突然変異か……? まさか、人体に近い体型のナキウがいたなんて……」


「フハ先生が欲しがってるので、売れませんよ」


「残念。機会を窺うとしよう」


「単純な数ですが、町に沢山のナキウがいますよ。数えるのも面倒臭いくらい」


「ふむ。今はそちらで満足しておこう。コレを持ち帰っても、また、何か怒られそうな気がするしね」




 変異種の幼体には興味津々のようだが、部下からトラウマになるくらい怒られたためか、意外な程にあっさりと諦めた。




「お、おい! お前!」


「僕たちにこんなことしていいと思っているのか!」


「僕たちのパパは強いんだぞ!」


「泣かされたくないなら、僕らを降ろせ!」


「謝れよ!」




 フハ・フ・フフハの到着を待っていたら、空中の幼体たちが強気に言ってきた。体が震えているから、恐怖心が無くなったわけではないようだ。


 光一と団長は無視していたが、今度はメス個体たちも鳴き声を上げ始めた。




「ブキー! ブキキ!」


「フゴフゴ! フゴオ」


「フニュー! フニュル!」


「ブニュエル! ブニュー!」


「ブーキ! ブーキ!」




 上から幼体たちが喚き、下ではメス個体たちが騒ぐ。


 元々、養生のために来たのに邪魔されて、ただでさえイライラしていた光一が上下のナキウをそれぞれ睨み付けて、




「うるさい、黙れ」




 そう言うと、ナキウたちは怯んだ。少なくとも、幼体の方は体の震えをより一層激しくし、涙をダラダラと流し始めた。


 それが、メス個体の怒りを買ったようだ。懸命に目付きを鋭くし、




『フゴォォ! ブキー! フゴォォォォ!』




 と、怒声らしき鳴き声を上げ始める。


 光一は、「チッ」と舌打ちをする。団長もイライラとし始め、




「まあ、一匹くらいいなくなってもいいか」


「そうですね。腐る程いますし」




 こうなって、光一は剣を引き抜いて、鳴き喚くメス個体の一匹を斬首した。




『ビキィィイィィィィィィィィィィッ!』


「ママァァァァァァァァァッ!」


「ん? こいつ、お前の母か。ほれ」




 光一は斬り落とした首を浮かせ、「ママ」と泣き叫ぶ幼体の元へと届けてあげた。幼体は、血が滴る生首を怖がり、距離を取ろうとする。


 しかし、体は拘束されており、身動きは取れない。容赦無く生首を顔に擦り付けられ、気が狂ったように泣き叫ぶ。




「どうした、喜べよ。ママなんだろ、お前の」


「きゃぁぁぁぁっ、やめ、やめて、やめてぇぇぇぇぇぇっ!」


「酷い奴だな。母親を拒絶するなんて」




 そうやって相手をしていたら、こちらに向かってくる足音が聞こえてきた。


 そちらを見れば、囚われている幼体をそのまま大きくしたような成体のナキウが走り寄ってくる。何故か、屹立している股間のイチモツを振り乱し、怒気に満ちた雰囲気を醸している。




「パパ!」


「パパだ!」




 口々に幼体たちが叫びだした。




「んだよ。養生に来たらナキウいるし。最悪なんだけど」




 心底辟易とした様子で、光一が吐き捨てる。


 そのナキウは怒りに満ちた表情で、光一を睨み付けている。




「貴様……! よくも……!」


「お前も喋るのか。体が人間だと、人間の言葉を使えるようになるのか?」


「息子と妻を解放しろ!」


「やなこった」


「解放すれば痛い目に遭わなくて済むぞ」


「やれるもんならやってみな。言うだけなら誰にでもできる」


「貴様!」




 そのナキウの足元から魔力が流れ、地面が盛り上がる。太い槍のように鋭く尖った土が光一に向かって伸びる。


 そのナキウ、リュウヤが得意とする攻撃技は光一を驚かせるには至らない。魔軍の隊長格との戦いで同様の攻撃を見たし、その練度も速度も比較できないほど低い。


 光一は指をクイッと動かし、メス個体を引き寄せる。




「なっ!」


「プユ?」




 リュウヤが放った攻撃は、光一に引き寄せられたメス個体の体を貫いた。


 メス個体は「信じられない」と言いたげな視線をリュウヤに送り、大量の血を吐き出し、息絶えた。




「ママァァァァァァ、あ、あぁぁぁぁ、パパ何でママを、ママをぉぉぉぉぉぉ」


「ち、違う! 私は!」




 目の前で母を父に殺された幼体が泣き叫び、父を責める。リュウヤは弁明しようとするが、そこへ光一の笑い声が割って入る。




「酷い父親だな? このチビどもとメス個体どもは俺の支配下にあることくらい、魔力を感じ取れば分かるだろ? 別に、隠そうとはしてないんだしな。それなのに、攻撃するとか」




 吹き出し、腹を抱えて笑う光一。




「ママとやらを殺そうとしたとしか思えないよなぁ!?」




 団長も吹き出し、笑いを噛み殺すように肩を震わせる。




「き、貴様……っ!」


「また、攻撃するのか? あと、八匹くらい盾あるけど? 八回攻撃するか?」


「…………っ! クソッ……!」




 憎々しげに歯噛みするリュウヤ。


 その後ろから駆け付けてきた武装したナキウたちが、猛々しく雄叫びを上げ、槍を構えて光一へ突撃しようとする。


 余裕の態度を崩さない光一は、メス個体を突撃進路に引き出そうとする。




「待てっ! 止まれ!」




 気付いたリュウヤが、慌ててナキウたちを押し留める。




「学習はできるか。意外と頭がいいじゃないか」


「何が……」


「あ?」


「……何が目的だ? どうすれば、息子と妻を解放してくれる?」


「……目的? あー、団長?」




 光一に話を振られ、団長が前に進み出る。




「では、あの町にいる全てのナキウは我が劇団の管理下に入ること。この事に対して反対しないこと。劇団の指示や命令には絶対服従し、見返りを求めないこと。ショーの内容によっては死ぬかもしれないが、それでも笑顔を絶やさず、笑顔のまま死ぬこと。これら全てを了承すれば」


「ふざけるな! 誰が、そんなこと!」


「嫌ですかな?」


「当たり前だ! 我々はずっと、そうやって虐げられてきた! 五年前、あの町にあった劇場でどんなことがあったと思う!? 見るに堪えない酷いものだった!」


「それが何か?」


「それを私が終わらせた! 人間の魔の手からあの町と同胞たるナキウたちを解放したのだ!」


「町を作ったのは人間。〝奪った〟の間違いだね」


「うるさい! ようやく、ナキウとして誇りを持って生きられるようになったのに、それを失うようなマネはできない!」




 団長は拍手を贈る。




「ご立派ですな! 家族よりも誇りが大事と! いや、見上げたものですぞ!」




 そこへ、ようやく到着したフハ・フ・フフハが言葉を続ける。




「では、その誇りを大事になさい。彼の要求を突っ撥ねるということは、この八匹のナキウは私らが貰い受けても良いということですね?」


「だ、誰だ!? い、いや、そういうことではない!」


「いえ、交渉というのはそういうことですよ。相手の要求を飲めば、貴方の要求が通る。撥ね退ければ、貴方の要求は通らない。簡単でしょう?」


「わ、私は……」


「はい?」




 見れば、リュウヤの目元には涙が浮かんでいる。光一にしても、団長にしても、フハ・フ・フフハにしても、泣き落としが通じる相手ではない。これは、演技ではないのだろう。


 声が震えそうになるのを抑えながら、リュウヤは話す。




「私は幼少の頃、親に無視されていた。仲良くなろうとしたが、親も仲間も人間に殺された。私も酷い目にあった。分かるか、生殖器を千切られる痛みが!」


「ソコを攻撃されて痛みを感じるのはナキウ程度のものですよ。人間と魔族はとうの昔に克服して、弱点ではなくなりましたので。だから、ソコを痛めつけられてリアクションを取るナキウが面白いのですよ」


「…………っ! 情は無いのか! 我らにとっては弱点なんだぞ!」


「ソコを千切られようと、痛みほどのダメージはありませんよ。千切っても、人間や魔族ほど早くはなくても再生することが、実験で証明されていますから」




 フハ・フ・フフハの冷静なツッコミは意にも介さず、リュウヤは続ける。




「そうやって見下すお前らに復讐するために、魔術を学び、あの町を襲撃し、ナキウたちを救い出した。お前たちが殺した二人も合わせて、私の大事な家族なんだ。ようやくできた、掛け替えの無い大事な家族。もう、もう二人も殺したんだ。残りは解放してくれてもいいだろう!?」


「二匹の内一匹はお前が殺したんだろ」




 光一の言葉に、リュウヤは憎しみに満ちた視線を向ける。すかさず光一は一匹のメス個体を浮かせる。体を抑制している縛りを強め、メス個体は窒息の苦しみに藻掻き苦しむ。




「や、やめてくれ! もう、これ以上殺さなくてもいいだろう!」


「光一、緩めてあげなさい」




 フハ・フ・フフハに言われ、光一は縛りを緩める。メス個体は涙と涎を垂らし、荒々しい呼吸をする。




「では、最後の警告です。この八匹は預かります。明日の昼までに町を包囲している壁を解除しなさい。そして、ここに、町にいる全てのナキウを連れてきなさい。全てのナキウが町からいなくなり、劇団への移送が完了したら、八匹は返してあげます。少しでも遅れたら、この八匹を見捨てたと見做し、二度と会えないと覚悟しなさい。いいですね?」


「ま、待ってくれ。いくらなんでも、それは」


「見せしめが足りませんか。メス個体で効果が薄いなら、子供でも」


「や、やめろ! ま、ま町の皆と……話し合う」


「明日の昼までです。遅れないように」




 フハ・フ・フフハの言葉に、リュウヤはがっくりと項垂れていたが、ここでの時間を無駄に費やすべきではないと判断し、町へと引き返していく。その後を、ナキウの兵隊たちもついて行く。妻や息子には「すまない」と言い残して、何度も振り返りながら。


 その後、三匹のメス個体と、五匹の変異種の幼体はマルキヤ劇団の檻馬車にそれぞれ一匹ずつ収監された。産まれて初めて一匹だけになった幼体は心細さか、寂しさからか、シクシクと涙を流して泣いている。


 そんなナキウの様子は気にもかけず、檻馬車は走り始めた。目的地は勿論、王都の劇団本部である。


 ナキウたちは予想もしていない事態に困惑し、戸惑うように辺りを見渡す。リュウヤが約束を守り、町へと帰れると思っていたのだろう。




「ね、ねぇ! どうして動くの!? 約束が違うよ!」


「約束? 守るわけないだろ。お前の父親は約束を破るに決まってる」


「そんなことない! 止まってよ!」


「バーカ」




 幼体が勇気を出して、涙を流しながら抗議するが、光一が小馬鹿にするようにあしらう。ナキウの涙などで動くほど、未熟な心は持っていないのだ。


 檻馬車を見送った後は、フハ・フ・フフハからの指導を受けつつ、光一の修業は順調に進む。


 修行には丁度よい、静かな夜だ。

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