第23話 栄枯盛衰
人間に囚われていた同胞たちを解放し、人間たちが使っていた家を接収して、それを家族単位で使うことにした。親を失った子らは私のように独り身の者や、子を失った者らが引き取ることにした。
明くる日、私が住むことにした一際大きな邸宅(元は役場)のドアを幼体たちが叩き始めた。笑顔を浮かべたまま、でも、焦ったように跳び跳ね、背伸びをしてドアノブに手を伸ばしている。
「プッユ! プユー!」
「ピココ! ピキー!」
「どうしたの? お外で遊びたいの?」
「ピココ! ピココ!」
「プキー! プキキ!」
私の問い掛けに、幼体たちは首を横に振る。
それでも、焦った様子はより一層深刻になり、涙が流れ出した。笑顔のまましゃくり上げ、嗚咽を漏らしながら、それでも、ドアを開けようとする。
「ピッキィ、ピキィィ」
「プキッィィ、プッキ」
「ピュキィィ……」
何故、外に行きたいのか分からないが、とりあえず、ドアを開けてみた。
幼体たちは飛び出すような勢いで外に出て行く。辺りを見渡せば、他の家に住んでいるナキウの幼体も同様で、揃いも揃って同じ方向へ走っていく。
私は、他の成体らと顔を見合わせながらも、幼体たちの後を追う。
幼体たちが向かった先は、あの劇場だった。
そこがどんな所かを知っている私たちは、嫌な予感が走り、中へと入っていく。
廊下を進み、客席に出るドアを潜り、扇状に広がる客席へと入っていくと、それを見計らったように、
『ププユーーーー―♡』
と、四匹の幼体が笑顔を浮かべて、舞台上に登場した。幼体たちだけが知る通路でもあったのだろう。
『プユーーーーーー♡』
そう鳴きながら、扇状の舞台の縁に沿うように、等間隔に並ぶ。この光景を見ると、婆さんに連れられて見たショーを思い出す。だからこそ、この後のことが分かる。
幼体たちは腰に両手を当て、踵を上下させながらリズムを刻む。
『プーユーユ!』
合わせて、奥から他の幼体たちが行進しながら現れた。
『ピキピッキ!』
片手を腰に当て、もう片方の手はリズムに合わせて振りながら行進し、舞台上に広がっていく。
『プーユーユ!』
『ピキピッキ!』
『プーユーユ!』
『ピキピッキ!』
全員が定位置に達すると、全員が同じポーズを取り、
『プユーーーー♡』
と、愛想を振りまくように笑顔。
ゾッとした。幼体たちの笑顔は、てっきり人間から解放された喜びからだと思っていた。
違う。
人間たちから、常に笑顔を浮かべるように強要されていたのだ。笑顔を浮かべていないと、酷い目に遭っていたのかもしれない。
他の成体や、親たちもそのことを察したのか、目尻に涙が浮かび、漏れる嗚咽を隠すように口を手で隠す。
『プユユプユプユププユプユー♡』
『プッユ、プッユ、プッユ、プッユ』
『プククプクプクププクプクー♡』
『プック、プック、プック、プック』
『プリリプリプリププリプリー♡』
『プッリ、プッリ、プッリ、プッリ』
『ププユーーーーー♡』
揃った動きで足踏みし、手を羽ばたくように上下させ、膨らませた頬を捏ねるように揉み、プリッとした尻を客席に向けて左右に振る。最後は、皆が揃って同じポーズ。
あの時に見たショーと同じ内容。
しかし、今度は皆が腰を突き出すようなポーズを取る。股間を強調するような形だ。
『ププユゥ? プユプユ、プユリン〜♡』
何か、扇情的なことを言いながら、股間を前後左右に振る。まるで、股間の生殖器を振り回すように。ソレを笑いものにするかのような振り付けは、幼体たちを見世物にするために人間たちが仕込んだのだろう。
もう、私は、いや、周囲の親たちも我慢できなくなり、舞台へと駆け寄る。
私は、奇しくも人間に近い体型であるため、すんなりと舞台へと上がれたが、他の者らは苦戦している。それでも、舞台へと這い上がり、幼体へと駆け寄り、がっしりと抱き締めた。
「もういい! もういいんだ! こんなことしなくても、もう、酷いことする人間はいないんだよ!」
「プキィ? プユユ?」
「あぁ! もう、誰も君らを殴らないし、蹴ったりしないよ!」
「プユ、プユ……プ、プキィィィィィィィ!」
私の言葉や、親の言葉により、ようやく、幼体たちから作られた笑顔が剥がれ落ちる。安堵からか、大声で泣き始めた。抱き着いてくる幼体たちを受け止め、しゃくり上げながら泣くのを優しく撫でながら慰める。
そして、落ち着いた頃合いを見計らって、幼体たちを家に連れて帰った。
それからは、怒涛の日々だった。
農場を任せていたナキウらは頑張ってくれていたが、作物が十分な量が賄えるわけもなく、皆で手分けして落ち葉や雑草を掻き集め、食料を確保する。近場を通る人間の集団を見つけ、私の土の鎧や槍で武装したナキウたちで襲撃し、持っていた食料を略奪することに成功。人間の死体さえも食料になることを知り、食料問題は解決した。
武装した集団を作り上げ、皆を守る仕組みを作り上げた。その集団を人間に倣って「ナキウ軍」と名付けた。町を囲うように作った土の壁を利用し、町の上を覆うように梁を作った。これで、空から襲い来る怪鳥からも皆を守れる。
安全を確保しつつ、周囲のナキウたちを引き入れ、魔獣や人間に襲われていたら救出する。ガルーダやナキウモドキに襲われていた群れも救出し、この町へと誘導した。
新たな夫婦も増え、幼少体が次々と産まれてくる。
加速度的に群れの数は増え続け、壁を広げて、土を盛り上げるようにして新しい家を作る。そこへ、増えたナキウたちが続々と入居していく。
そんな中で、私にも妻ができた。五人の愛おしい妻。その妻との間にも、愛おしい息子ができた。私の身体特徴を受け継ぐ息子たち。
気付けば、町を人間から解放してから五年の月日が経っていた。幼体だった子供らも成体になり、家を出て、新しい家族を作った。
幼少体から育てるのは大変だったが、私を真似したのか、人間の言葉を話すようになった息子たちも町へと繰り出して遊ぶようになった。
「パパ! 遊ぼう!」
「公園に行こう! 追いかけっこしたい!」
「パパの腕にぶら下がりたい! 前よりも長くぶら下がれるよ」
「僕はね、僕はね」
「パパ、パパ! 抱っこ!」
五人の息子たちが甘えてくる。
私は又隠し(元は帽子)を股間に被せながら、息子たちの頬を撫でる。
「すまないな、パパはお仕事だ。今日はママたちが花畑に連れて行ってくれるよ」
「えー、パパ遊べないの?」
「また、お仕事? ずっとお仕事!」
「遊びたいよ!」
「遊ぼうよ!」
「今日だけいいでしょ?」
口々に不満を述べる。気持ちは分かる。私も幼い頃は両親に構ってほしかったものだし。
後ろから妻たちが歩み寄り、息子たちを優しく抱き寄せる。
「プーユ! プユプユ」
「プユユ? プユリン!」
「ピココ。ピコピコ!」
「プクプク、プクー!」
「プユプユ、プユユ」
優しく「花畑に行こう」と誘われ、息子たちは項垂れながらも、頷いた。
そのいじらしい姿に胸が締め付けられるが、軍の訓練の視察や、農場の状況確認はしっかりとしなければならない仕事だ。
妻らは「分かってます」と言うように笑顔で頷き、息子たちの手を引いて出掛けていく。表には、予め頼んでおいた護衛の部隊が待機している。脅威となる魔獣や人間はもういないが、念の為だ。
何時か、遊ぶ時間を作らなければならないな。
そう決意しつつ、又隠しの角度を調整する。この使い方が正しいのかは分からないが、私が成体になってから常に屹立した状態となった生殖器を隠すのには丁度いい。ヘコみに生殖器を引っ掛けて、歩くぐらないなら問題ない。
婆さんから貰った服を返すのは、正直、気が進まなかったが、あの動きにくいのは頂けなかった。
澄み渡る青空の下、空を飛び回りながら見下ろしてくるガルーダを意にも介さず、視察へと向かう。
本当に、平和な町になった。
激戦だったと、光一は語るが、怪我の度合いは入院の必要が無いくらいの軽傷だった。通じなかったとは言え、「察知」と「回避」と「隠遁」は優秀なスキルだ。これらが無ければ、命を落としていた可能性だって大いにあった。
元を正せば「ナキウの巣の調査」だったのに、いきなり魔軍の襲撃を受けたにしては、この程度で済んだのは不幸中の幸いだろう。
その調査を頼んだ張本人であるハッシュヴァルトは、国王からこっ酷く叱られたらしく、今まで後回しにしていた書類仕事に埋もれている。元々は、騎士団に下された調査命令を寄りにも寄って外部の人間にぶん投げたのが不味かったようだ。
「新人教育、部隊の再編、訓練内容の吟味と軍事訓練の日程調整その他諸々の雑事に追われててな。手が回らなくてつい、お前に投げちまった。すまん」
国王に散々叱られて、ハッシュヴァルトがシュンとなった姿で謝罪してきた。
光一としては、奇襲を受けた上に負けたことが悔しいと思っていても、怪我したことについては誰かに責任を求めるつもりは無かった。負けた、と言うには審議したい結末ではあったが、光一にとっては「負け」という認識だ。
だから、光一は快くハッシュヴァルトを許し、これからも剣の修業を付けてくれるように頼んだが、
「いやぁ、俺もそのつもりなんだが、陛下からのお達しでな。反省の意を示すために、しばらくは書類仕事に専念することになっちまった」
こういうことで、ハッシュヴァルトは書類仕事に埋もれることになったのだった。
そこへ、喜色満面でやってきたのがフハ・フ・フフハである。ハッシュヴァルトに独占され、思うように進んでいない魔術の修業ができると思っているようだ。
「さ、こんなところにいたら君まで筋肉ダルマになる。養生も兼ねて、少し王都から離れようか」
そう言って、手早く手続きを済ませ、光一を連れて王都から出て行くことになった。一応、数名の護衛の騎士もいるが、あまりの手際の良さに驚きを隠せない。
「君を襲撃したと思われる魔軍は、現場に残留していた魔力を検分する限りでは『隊長』クラスでね。まあ、割と手強い部類だね。おかげで軍部はてんやわんやしてるよ」
「フハ先生のところは?」
「てんやわんやしてるよ?」
「え?」
「ん?」
深く考えるのは止めた。
「停戦協定が破られる危険性が高まって、君に回す護衛に余裕が無くなってね。王都から離れた所へ移送しようと」
「あー、なるほど」
「私がゴネて今回の許可を取ったわけだ」
「仕事が嫌なだけじゃ」
「君の修業だって私の趣、役目さ」
「あれ? 今」
「さ、目的地まで二週間。魔術の修業を始めようか」
基礎である「練り上げ」を徹底して行い、より精密に魔力を扱えるように練り上げた魔力を体を覆うようにコントロールする。体の周囲を涼やかな風が覆う。
風属性の魔力は、空気や大気にまで影響を与える。数歩離れた位置に置いた石を、空気を操作し、空中に浮かせる。
空気を操作する技術を更に発展させ、小さいものの、竜巻のような暴風の塊を作り出す。
移動の馬車の中では「練り上げ」の訓練、食事や休憩のために馬車から降りれば、応用技術の訓練。
訓練ばかりの道中で、光一は珍しい人物に出会った。
「やあ、久し振りだね」
マルキヤ劇団の団長だ。
かつての(三年くらいしか経ってないが)イケオジ的な雰囲気はどこへやら、かなりやつれた姿になっている。
「疲れてますね? どうしたんです?」
「はは、は……分かるかね……」
「見るからに、その、やつれてますし」
「それは、だね」
団長が言うには、「ナキウが欲しい」という気前良い太客からの言葉を受け、少しばかり足元を見た金額を提示したところ、それが大繁盛してしまった。
これに驚天動地となったのが、劇団の養殖部門だ。演目に必要な数のナキウだけを各地の劇団に出荷し、不必要なナキウを増やさないようにコントロールしていた。そこに、唐突に必要数を大幅に増量されたため、現場はてんてこ舞いとなるのは当たり前だ。
次いで怒髪天衝しているのが、経理部門だ。ナキウの餌代をきっちり管理して、余計なコストがかからないようにしていたのに、急な増産に伴うコストの増加で予算管理が滅茶苦茶になり、予算の再編に残業続き。餌代だけじゃなく、出荷の為の輸送費増加も怒髪天衝に拍車をかけまくっている。
マルキヤ劇団を支えるぶっとい二本の屋台骨に散々に叱られた団長は、せめて、ナキウの数だけでもどうにかしようと、ナキウ捕獲の旅に出てきたらしい。
檻馬車がやたらと多いのはそのためだったのか、と光一は一人納得した。
「はは、思いつきで何かをするのは辞め給えよ……。凄く、後悔する」
「あなた、なんとなく、ハッシュヴァルトに似てますね。思いつきで行動するところが特に」
呆れたようにフハ・フ・フフハが呟く。
「え、そ、そうですか? ……そうですか……」
「え、いや、何もそこまで落ち込まなくても」
「私、理知的な人間だと思っていたもので」
「理知的な人間は思い付きで行動しませんよ」
「そ……そうですね……」
叱られたのが相当に効いていたところへ、フハ・フ・フフハの何気ない言葉が団長の心へ深々と突き刺さった。
団長も特に行く宛があるわけでもないようで、団長も暫くは行動を共にすることにした。
団長にも見守られながら、光一の修業は続く。
「はー、凄い。確か、彼は十三歳くらいでしたな。それなのに、ここまで魔力を操れるとは」
「いずれは、高名な魔術師になってもらおうと思ってますからね。徹底して基礎を固めている最中です」
マルキヤ劇団のナキウ捕獲隊も交えての旅路は、目的地である「ジパン町」に辿り着いて、一旦の終わりとなった。
ジパン町は綺麗な花畑が有名で、色とりどりの花束が特産品だ。だからこそ、光一の養生になるとフハ・フ・フフハは判断したのだが、
「なんだ、コレは……!」
珍しく、フハ・フ・フフハが動揺している。
何せ、ジパン町があった辺りが土の壁で覆われてしまって、記憶にあるものとは様相が変わってしまっているのだ。様変わりしたという話も聞いていないし、誰でも動揺するだろう。
「様子が変ですな。ここまで来たのも縁ですし、調査に私たちも協力しますよ」
団長の言葉を受け、周囲を調査することになった。念の為、馬車の一団は離れた位置に移動させ、護衛の騎士も交えた調査班を編成し、それぞれ分かれて調査を開始する。
光一はフハ・フ・フフハから連絡用の式神の型紙を預かり、団長と共に行動することになった。フハ・フ・フフハは単独。魔王でもない限りはフハ・フ・フフハに勝てる者はいない。シルネイアやシルヴィは規格外だし、ルビエラは敵じゃないし対応外。
光一と団長は壁伝いに周囲を調査する。
ここで役に立つのが、「察知」スキル。当然、光一は発動させた。
「これは……。団長、貴方の問題が解決するかもしれませんよ」
「それは……まさか……」
壁の内側に、大量のナキウがいることを判明した。となれば、この事態もナキウが起こしたということになるが、にわかには信じられない。
「とにかく、進んでみよう」
団長の言葉を受け、進んでいくと、目の前に見事な色とりどりの花畑が見えてきた。
「これがジパン町の名物だよ。これが無事なのは喜ばしいことだが」
「ん?」
「どうした、光一くん」
「団長、少し、ここで待っていてもらえます? 面白い物を見つけたかもしれない」
光一に言われ、団長はそれを了承した。
光一は「隠遁」スキルを使い、花畑の中を突き進む。
その先には、
「むー、パパと遊びたかった」
「お花! 綺麗だね!」
「でも、花は美味しくない」
「パパ、まだ、お仕事かな」
「パパと遊びたーい!」
人語を喋る、人体に近い体型のナキウの幼体が五匹と、その親らしい通常の体型のメスのナキウが五匹。
殺してしまうのは簡単だが、それでは団長の問題が解決できない。それに、この変わった形のナキウのチビはフハ先生が好みそうだ。研究とか好きだし。
修業の成果を見せる時だ。
空気を操作し、五匹の幼体を持ち上げる。イメージとしては「空気で作った透明の檻」。少なくとも、ナキウ程度の力では抜け出せない。
「え、え、何、これ!」
「わ、わ、高い、怖い!」
「ママ、助けて! 落ちちゃう!」
「うわーん、ママ〜!」
「ママ〜! ママ〜!」
突然浮き上がったことに恐怖し、近くの母親に助けを求めるが、絶妙に手が届かない位置にまで高く上げる。
それでも、母親は助けようと手を伸ばすが、体が何かに抑えつけられる。当然、光一の仕業であり、浮かせることができるなら、抑えつけることもできる。
護衛と思わしきナキウが十匹ほどいるが、体型は通常のものだ。
光一は「隠遁」スキルを解除して、姿を現す。
「だ、誰?」
「え、え、知らない!」
「フゴォォ!」
「ビキィィ!」
囚われた幼体も、抑えつけられているメス個体も困惑の声を上げる。
「フゴフゴ! フゴォォ!」
『フゴォォォォォォォォ!』
十匹の中のリーダー格の掛け声に合わせ、雄叫びを上げながら、十匹のナキウが槍を構えて光一に向かって突撃してくる。
しかしだ。所詮はナキウだ。雄叫びはそこそこのものだが、突撃の速度が遅い。光一が欠伸を噛み締めるくらいの余裕があるくらいには、のんびりとした突撃だ。
それでも、ようやく光一の元にまで辿り着き、槍が光一に突き刺さる。ナキウたちはそう思っていた。空中に浮かされている幼体も、光一が死んだと思ったのか、笑顔を浮かべる。
そんな現実は無い。
ナキウが突き出してきた槍は、リュウヤが創り出して与えた土の槍。鋭い切っ先は人間を簡単に貫く。
ところが、魔力には「属性相性」がある。これに照らし合わせると、土属性は風属性に不利相性。
光一が修業も兼ねて身に纏っている風に阻まれ、土の槍は塵の如く粉々になり、その形は失われる。もしも、ナキウの巣の調査中に襲ってきた魔軍の隊長格くらいの強さなら、光一の風をものともせずに貫いていただろうが、リュウヤが作った槍にそこまでの強度は無い。単純に、魔軍の隊長格の方がリュウヤよりも強いというだけの話だ。
光一は、ゆったりとした動きで剣を引き抜き、光一を取り囲むナキウの兵隊を斬り捨てていく。
「フ、フゴッ!」
「ビキッ!」
斬り捨てられていく仲間に背を向けて、一匹のナキウが逃げていくが、一匹くらい見逃しても大したことにはならないだろう。
光一は剣を鞘に仕舞い、空中に浮かせたままの幼体たちに目を向ける。
ナキウが殺されるところを初めて見たのか、幼体はガタガタと震えながら、小便を漏らしている。ガチガチと歯がぶつかり、恐怖の度合いが凄まじいことを示している。
「さて、どうしてくれようか」
光一はニヤリと笑みを浮かべた。




