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第18話 王都への旅路①

 木刀を振り下ろし、ナキウの脳天をかち割る。半分に割れた頭から噴水のように血が噴き出す。


 巣の中にいた全てのナキウを殺し尽くし、光一はすっきりとした表情で巣から出てくる。




「あー、スッとした」




 言いながら、王都へ向かう一団へと戻る。


 退院し、王都への旅を再開した光一は、新たに旅に加わったルビエラからの修行を課せられることになった。筋トレと、ルビエラ相手の打ち合い稽古。筋トレは村にいた時よりも厳しくなったし、打ち合い稽古は容赦無くふっ飛ばされる。


 普段のルビエラは光一にダダ甘の母親だが、修行となれば様子がガラリと変わる。筋トレに課せられたノルマは厳しいし、打ち合い稽古になれば「察知」と「回避」を駆使していてもルビエラからの攻撃を捌けない。攻撃のルートを先読みできているのに、ルビエラの一撃の速さが尋常ではなく、「回避」が間に合わない。これでも、魔獣(猿)よりも少し強い程度には手加減してくれているらしい。




「さ、スッキリできた? 今日の修行を始めようか」




 戻って来た光一を出迎えたのは、木刀を構えているルビエラ。


 光一も木刀を構える。


 先に仕掛けたのはルビエラ。振り下ろされる木刀を、光一は後ろへ跳んで躱す。ルビエラは即座に追撃を仕掛けてくる。下から打ち上げるように逆袈裟斬りを繰り出され、着地して間もない光一は身動き取れないため、仕方なく木刀で受ける。




「く、クッソ……!」




 容赦無く光一はふっ飛ばされ、体勢を崩す。


 着地して、崩れた体勢を速やかに整えようとするが、ルビエラがそんな隙を与えるわけがない。一瞬で間合いを詰めて、突きを繰り出す。それを「察知」で知っていた光一は「回避」で突きを躱しつつ、木刀で突きの軌道を逸らす。


 それでも、紙一重の回避しかできず、突きによって発生した突風が頬を撫でる。回避していなかったら、確実に喉を潰されていた。




「ヤバい!」




 突きはフェイントだ。


 木刀が、光一へ向かって横薙ぎの一撃となって襲い掛かる。


 崩れた体勢を整える暇もなく、次々と光一へ木刀での攻撃が繰り出される。そのどれもが、「察知」と「回避」では捌ききれない。しかも、手加減された攻撃でこれだ。魔獣(猿)よりも少し強い程度。




「マジかよ」




 光一の防御が間に合わなくなり、遂に、ルビエラの木刀が光一の首元に突き付けられる。




「……ま、参りました……」




 降参しかなくなる光一。


 ルビエラは一息吐いて、木刀を納める。


 足から力が抜けて座り込む光一。対して、攻め続けていたルビエラは息が乱れている様子はない。


 剣術は勿論、スタミナでも光一はルビエラの足下にも及ばない。


 そこへ、2人のやり取りを眺めていた領主が拍手しながら歩み寄ってくる。




「いやはや、流石ですな。訓練と分かっていても、息もつかせぬ迫力でしたよ」


「すみません、修行の時間を頂いて」


「いいんですよ。大人の都合で光一くんを王都へ送ることになったのですから。これくらいの我儘は許されましょう」


「助かります」




 和やかな会話をするルビエラと領主。その横で、ゼーゼーと息を切らしている光一。


 魔獣(猿)に襲撃された地点を過ぎ、ルビエラの修行を交えつつ、王都への旅はゆったりと進む。森や山の麓を通る際に、ナキウを見つけると、光一は嬉々として襲い掛かる。ルビエラに負けてばかりでストレスが溜まっているのだ。ナキウの巣を襲撃して、遊び交じりに全滅させるのは、ストレス発散に丁度良い。神からのお告げでもあるし。


 回復した光一が立ち上がると、ルビエラは感心したように言う。




「回復が早くなってきたね。基礎体力が上がってきたおかげね」


「筋トレ頑張っているからね」




 言いながら、食事の準備ができた食卓へ向かう。


 昼食を終えれば、日が沈むまでひたすら旅路を進む。


 その間も、光一には修行の時間だ。


 ルビエラはあまり魔術を使わないようで、魔術方面の修行はからっきしらしい。気付いたら、初歩的な魔術を使えるようになっていたとか。


 だから、魔術関連の修行は領主の役目となった。


 魔獣(猿)との戦いの最中に魔力の「感知」ができるようになった光一。ただ、それは「察知」スキルで自分の魔力を感じ取れるようになった裏技みたいなもの。自分の魔力は感じ取れるが、他人の魔力は感じ取れない。


 そのため、今は「感知」を正常に修得するための修行をしている。


 魔術を使うためには、「感知」で魔力を知覚し、「操作」で魔力を操れるようになり、「現出」で体外に魔力を放出できるようになり、「練り上げ」で大気中の魔力を取り込みつつ、自身の魔力を補強する。


 この段階を経て、魔術を行使できる。光一が行っている「感知」は初歩的なものだが、一番重要なものだ。魔力を「感知」できないのは、目隠しして戦うようなもの。正しく魔術を行使するためにも、「感知」を完璧に修得しなければならない。




「……2番?」


「それでいいかい?」


「はい。……たぶん」




 領主は「2」と記された紙コップを上げる。その下には何もない。




「外れ」




 そう言って「1」と書かれた紙コップを上げると、そこには石が鎮座していた。


 光一には見えないよう、3つの紙コップの中の1つに、魔力を込めた石を隠す。光一は、石に込められた魔力を感じ取って、どの紙コップに石が隠されているのかを当てる。


 魔力の「感知」を修得する修行なのだが、光一の的中率はまだまだ低い。5回連続で当てられたら、次の「操作」に進めるという話だが、かなり先の話になりそうだ。




「そっちかー……やっぱりかー……」


「本当かい?」


「あ、いやー……はは……」


「少し休もうか」




 領主の言葉で、光一は緊張を解く。自分の魔力は感じ取れたのだから、簡単にクリアできるだろうと思ったら、意外と難しい。何とか、コツのようなものを掴めないかと思案するが、全く掴めそうにない。




「んー、あれ?」


「どうした?」




 光一の脳裏に疑問が浮かぶ。




「魔術とスキルってどう違うの?」




 光一は魔術は何一つ使えない。魔力を使えないのだから当たり前だ。


 しかし、スキルは覚醒してから苦も無く使えている。魔獣(猿)に紙一重で勝てたのも、スキルを使えていたからだ。


 光一の疑問に、領主とルビエラは顔を見合わせる。ルビエラは苦い表情で笑みを浮かべる。少なくとも、ルビエラは分からないようだ。


 領主は、光一へと向き直り、




「簡単に言えば、先天的に持っているか、後天的に身に付けるかの違いですよ。先天的に持っていれば『スキル』であり、後天的に身に付ければ『魔術』となります。他に『魔法』がありますが、今は気にしなくて大丈夫」




 と、簡単に教えてくれた。




「一応、転校前の授業の範囲で習っていたように記憶しているけど。クロンギが復習していたよ?」




 光一の背中に冷や汗が流れる。


 問い詰めるような視線が、ルビエラから注がれる。


 基本的に、授業中は「隠遁」を使って居眠りしているなんて言えない。




「あ、そう言えばそうだった!」


「明日から、筋トレ増やそうか。打ち合い稽古もね」


「え、そんな」


「それで、成績のことは目を瞑るわ」


「……はい」




 誤魔化すのは無理だった。


 ほのぼのとした雰囲気で、ゆったりと王都へ向かうのだった。



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