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恋が人を食う〜天使くんと恋愛頭脳戦する怪物の子〜  作者: くびつりのこびと
エピソードI 【フィクションの恋】
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7.つぶ子の舞台

 週末、俺は『劇団花狂魔(はぐるま)』の不定期開催している舞台劇場に観劇に来ていた。


 『劇団花狂魔』の特徴は台本の無い即興劇であり、演者の表現力を煮詰める為に小道具や演出に頼らないものが大半だ。

 故に、劇団の舞台は不定期に開催され、同じ演目がリピートされることも無く、開催される演目や出演する役者も開演するまで分からないという不確定なものであり事前に目当ての演者や演目を知る事は出来ないが、にも関わらず花狂魔の行うゲリラ開催の舞台は開始の告知から1時間で500席が完売し常に争奪戦になるレベルの大人気舞台なのである。


 しかし俺は今回、『天使くんと天使ちゃん』で共演し、旧知の仲である花狂魔に所属する天才女優、茂木田つぶ子に次の開催はいつになるかと事前に聞いていたのでそれによってチケットを先に確保して貰い、一人で舞台に足を向けていた。


 俺は6年前につぶ子と共演して以来、つぶ子の熱心なファンであり、以降も何度か共演しているし、つぶ子が主演をやる時は可能な限り観劇に来るくらいストーカー的につぶ子の演技を観察していた。


 別につぶ子に対して恋愛感情がある訳でも無い。


 ただ、つぶ子の演技に役者としての人生、そして毒親の道具にされた哀れな子供としての人生を丸ごと〝救われた〟者として、つぶ子の演技を凡人ながらも理解し、それを誰よりも賞賛したいと思っているだけだ。


 きっと、つぶ子の父親を除く世界中の誰よりも俺がつぶ子を理解している自覚がある、だからこそ俺は自分を茂木田つぶ子の1番のファンだと自覚して、ストーカー手前レベルまでつぶ子の存在に執着しているのであった。


 つぶ子がいなければ俺は子役として成功することも無く、そうなれば母親は俺が思春期に入る前に病んで、俺も恐らくジョリーさんに掘られて心を病んでいた事だろう。


 そうならなかったのは全てつぶ子のおかげだった、故に俺は恋愛以外の何かで、強くつぶ子に惹かれていたのであった。





「ああ、ロミオ、どうしてあなたはいつもいつも、私という届かぬ太陽に手を伸ばそうとするのかしら、太陽に近づくものは身を焼かれるというのに・・・っ!」


 今日の演目はつぶ子主演の、『一人芝居版ロミオとジュリエット』だった。


 正直俺はロミオとジリュリエットは敵対する二人がなんやかんや恋に落ちて、なんなかんや死に至るというざっくりとしたあらまししか知らなかったが、つぶ子はたった一人で存在しないロミオ、ジュリエットの婚約者、その他の登場人物の存在を表現して、そして悲恋で終わるかと思いきや、ジュリエットは死んだと見せかけてロミオと二人で幸せに暮らしましたと言って幕を閉じた。


 俺はロミオとジュリエットを詳しくは知らないが間違いなくこれは原作とは違う結末だろう、つまりはこんな風に演者のアドリブで原作の台本を改変して行うのが花狂魔の演目という訳である。


 そしてつぶ子が生きていた事を知って、俺を含む全ての観客がスタンディングオベーションでつぶ子に万雷の拍手を浴びせて、舞台は最高の盛り上がりで幕を閉じたのであった。


 それが花狂魔の特徴、観客の要望に合わせるように、泣かせる時に泣かせて、笑わせる時に笑わせる、コメディのウケがいいと判断されたら、悲劇であってもアドリブで強引に喜劇に変えたりするライブ感で行われるのが花狂魔の演目だ。


 俺は人混みに紛れるのを避ける為に少し時間を置いてから、一応元子役のアイドルの卵なので変装用の伊達メガネとニット帽を装着して退出しようとすると。


「お兄ちゃん、一緒に帰ろ」


 ──────────と、〝天使ちゃん役〟の口ぶりで、さっきまで舞台に立っていたつぶ子が俺の腕に抱きついて来たのであった。


「一応俺もアイドルだから、妹役とはいえ少し距離は置いて欲しい、かな」


 そう言って俺はつぶ子を連れて近場のカラオケに向かうのであった。

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