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恋が人を食う〜天使くんと恋愛頭脳戦する怪物の子〜  作者: くびつりのこびと
エピソードI 【フィクションの恋】
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5.当座の目標

「オーディション、ですか・・・」


 結成から1ヶ月後、レッスンの終わり際に事務所でマネージャーから受けた通達にゼンは驚きつつそう返した。

 それに対してマネージャー、元ジョリボーイズのアイドルの男、森田は体育会系のノリで元気よく答える。


「ああ!!、君たちにはこの、『劇団花狂魔(はぐるま)』の入団オーディションを受けてもらう、所属すれば君たちのスターダムは確実だし、そうでなくても客演として舞台に参加して爪痕を残すだけでも十分な宣伝になるだろう、新人アイドルの君たちにとって、これはとても大きな出世のチャンスだ、期間は来週だが、それまでに準備してなんとしてでも全員、せめて補欠に入れるように努力して欲しい!!」


「なるほど、流石ジョリーさん!!、いきなりこんな大仕事を任せてくれるなんてやっぱ俺たち期待されてるって事か!!、森田さん!!ありがとうございます!!」


 ケイは森田の体育会系のノリに合わせるように勢いよく挨拶するものの、『劇団花狂魔』がどういうものかを知っているゼンは驚き(おのの)くように冷や汗をかきつつ森田に質問する。


「あ、あの、花狂魔って、あの所属する団員全員が演技の天才しかいない、真の演技の天才しかいないような怪物の巣窟(そうくつ)ですよね、僕たちアイドルで、演技のレッスンなんてまともに受けた事無いんですけど、受かるんですかね・・・?、あ、もしかして、事務所のコネで内定は確定してるとかですか・・・?」


「いいや、花狂魔の座長とジョリーさんは旧知の仲で、たまに()()()()()で内定を貰う事もあるが」


 そこで森田はよく知っているだろうという顔で俺を見る。


 花狂魔の座長、茂木田おでん、本名筑前田楽は俺の出世作、実写映画版『天使くんと天使ちゃん』の監督でもあり、その節で俺は世話になっていたが、故に俺は彼がどういう人間かをよく知っていた。


 森田に代わって俺はケイに答えてやる。


「花狂魔は、座長の()()で運営されている劇団だ、趣味だから適当でもいいかもと思うのが普通だが、だが、座長にとっての趣味とは、〝妥協を許さない真の芸術の追求〟なんだ、だから、俺たちが演技の天才に交じれるような才能を見せない限り、オーディションに受かる事は無いだろう」


 映画は〝仕事〟だからコネや身内採用もまかり通るが、〝本気の趣味〟には妥協は許さない、それが茂木田おでんのポリシーだった。


「・・・え、じゃあ今からたった1週間で、演技の天才に負けないくらいの演技力を身につけろって事か!?、そんなの無理だろ」


 ここでケイはこのオーディションがただの無茶振りだと気づいて声を上げる、常識的に考えたら100%無理な話だし、お付き合いのコネで新人の俺たちがオーディションに参加させて貰えるだけで御の字という話であり、おそらくは最初に無茶振りのハードルの高いオーディションを受ける事で、それをバネにして頑張らせる目的なのだろうと俺は予想するが。


 だが森田は既に諦め終戦ムードの俺たちに対して、こう言ったのである。


「確かに現実的に考えたら不可能な挑戦だろ、でもケイ、お前のアイドルとしての目標を言ってみろ」


「日本一のアイドルになる事です!!」


 ケイは事務所に響くくらい威勢よくそう口にする。

 ただのビッグマウスでも、ここまで堂々と口に出来るならば言霊(ことだま)は宿るかもしれないと、そんな気概を感じさせるケイの宣言だった。


 森田は続けざまににゼンと俺にも同じ質問を尋ねる。


「ゼン、君は」


「ぼ、僕は、その・・・、〝世界〟中の人を幸せに出来るような人間・・・アイドルになる事、、です・・・」


「キキのはもう皆知ってるだろうけど、もう一度言ってくれ」




「──────────俺は、『TempeSters』を超えるアイドルになる事、です」


 『TempeSters』それが父親の所属するアイドルのグループであり、今の俺の目標だった。


 つまり俺たちは3人とも、普通では無い壮大な夢を持っているという事だった。

 そんな俺たちだからこそ、最初に無茶ぶりをさせるという事だろうか。

 森田は俺たちの宣誓に頷いて答える。



「ま、全員どこまで本気かは分からないけどな、でもそんなデカイ目標持ってるなら、この程度のオーディションくらい、軽く受かって貰わないと困るって話じゃないか?」


「・・・それもそうっすね!!、分かりました森田さん、全身全霊で頑張らせてもらいます!!、それで、演技指導のプロ講師とかのレッスンって受けられるんですか?」


 ケイはこのやり取りだけでテンションを180度変えて前向きにそう言う。

 こいつのエネルギッシュで前向きな所はとことんリーダー向きだとか思いつつも、俺はそれに対しても特にケイに肩入れする気持ちは無かった。


 そして森田は申し訳なさそうに俺を見ながらこう言うのだ。


「オーディションに向けたレッスンは・・・各自でやってくれ、()()()()はキキがいるからな、分からない事や傾向や対策なんかは全部、キキに聞いてくれ、俺からは以上だ。じゃあ俺は他のグループへの通達があるからこれで失礼する、応援してる、頑張れ!!」


 森田は爽やかにそう言って退出する。


 そしてレッスン室に取り残された俺たちはそのまま俺主導でオーディションに向けたレッスンを開始するのであった。

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