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恋が人を食う〜天使くんと恋愛頭脳戦する怪物の子〜  作者: くびつりのこびと
エピソードI 【フィクションの恋】
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44.幕降りて

「・・・ったく、これで分かったよね、キキ、僕らの言う事無視して暴走したらどうなるか、世の中はリスク管理を怠った奴から沈んでいくし、トップアイドル目指す僕らは最短を進まなきゃいけないんだから、余計なリスクは背負い込むなって話」


 ライブ後、握手会の後に俺は控え室にてケイとゼンから叱責されていた。

 俺の行動が完全に悪手だったからそれは当然の結果と受け入れていたが、殊勝(しゅしょう)で素直にしている俺の態度に反省を感じられ無かったのか、二人は中々説教から解放してくれなかった。


「ったく、キキ、お前反省してないだろ、何が「お前らは他人の不幸に群がって醜く生きてろ」だよ、若干図星だからこそ尚更ムカつくぜ、お前にイラつかされる事に更にムカつく、俺を怒らせたんだ、帳消しにする芸でも披露して俺を笑わせろ」


「・・・え?、じゃあえーと、ここにハンカチと500円玉があります、この500円玉をハンカチで包むとあら不思議・・・」


「ちょっとキキ、ふざけてるの?、まだ僕の話が終わってないんだけど、真面目にして!!、ライブの時だってキキだけテンポ遅れてたし、ああいうイキリ発言は、先ず自分がしっかり出来るようになってから言ってよね、ちゃんとしてない奴にイキられても無限にムカつくだけだから」


「はい、ごめんなさい・・・」


「おいキキ、早く笑わせろ、さっきからムカムカが収まらないんだ、このまだとお前をひねり潰してしまうかもな」


「えーと、じゃあ!、ねずみ小僧のものまねで、・・・一反木めェ〜ん!!一反木めェ〜ん!!」


「うーん、0点、やり直し」


「ちょっとキキ、ふざけないで」


「あっあっ・・・」


 そんな調子で俺は二人から1時間にも及ぶお説教を受けてから、無事に帰宅の途についたのである。






「ただいま〜、っと、あ・・・、母さん帰ってきてるのかな?」


 玄関には母さんの靴が無造作に脱ぎ捨てられていた。

 つぶ子の死から約2週間振りの我が家だ。


 マスコミを避けて休学して白月ユキの家に避難していた訳だが、母さんもそのおかげでマスコミを避ける事が出来たのは僥倖(ぎょうこう)と言える。


 今日は記念すべきアイドルデビューの日、そして嫌な偶然でつぶ子の誕生日でもある5月4日のゴールデンウィーク終盤だが、それを記念して俺はケーキを二つ買ってきた。


 母さんの、そして俺の好物のザットハルテ、高級店の品であり、一切れ800円のお高めの品だが、その味は一口で満足できるくらい暴力的に美味な一品だ。


 本当は母さんの好きなシャンパンや焼酎なんかも買ってきたかったけど、俺は未成年なので一人ではお酒を買う事が出来ない故に断念した。


 でも、今はアイドルとしての道を進み始めたし、そして成功が掴めそうなくらいに大きな後押しもして貰った。


 だからこれから先、母さんとお酒を飲んだり、大好きなケーキを食べたり、沢山お話したり、そういう機会はこれから何度でも訪れる事だろう。


 だから俺は今日という特別な日の、その運命に祝福された勇気を持って、長年の軋轢(あつれき)となる茨の城へと一歩踏み出した。




「母さん、俺、アイドルになったよ、見に来てくれたよね、遠目だったけど、一目で母さんだって分かったよ、来てくれて、すごく嬉しかった!、・・・どうだったかな?、俺のライブ、2曲しか歌ってないけど、少しは父さんに近づけたかな・・・?」


 ノックをしてから声をかける。


 もしかしたら寝ているかもしれないし、話しかけられたくなかったかもしれない。


 だから俺は扉の外からそっと、伺うように話しかけた。


 暫く待ってみたけれど、やはり寝ているようであり、返事は無かった。


 俺は反省会の合間にケイとゼンと仕出し弁当を食べた訳だが、母さんが食事をしているかは不明なので、冷凍庫の保存食が減っているようであれば何か料理を作り置きして冷蔵庫に入れておこうか。


 そうすれば目覚めた時に食べてくれるだろう。


 母さんの好物のエビチリか酢豚でも作れば喜んでくれるだろうか。


 なんて事を考えながら、俺は扉の前から立ち去ろうとすると。





「──────────稀樹」


「──────────っ、うん・・・っ」





 その声を聞いただけで自然と涙が込み上げてくる。

 母さんから話しかけられたのは二年ぶりだ。

 その月日の長さを噛み締めながら、俺は母さんの言葉を待った。

 褒めてくれなくてもいい、貶されてもいい、そしたら今度は母さんが認めてくれるようにもっともっと頑張るだけだ。

 だから俺は母さんが話かけてくれた、ただそれだけの事に喜びの絶頂を感じて、幸せで胸を詰まらせていたのだった。


「すごく、すごく、かっこよかったわっ、やっぱり稀樹は私の子ねっ、白月ユキよりも、御節えびすよりも、誰よりも舞台の上では光り輝いていたわ、すごく立派になって、私もすごく、誇らしかったわ」


「・・・っ、母さんっ!!、うんっ、うんっ、俺っ、─────ぼく、すごく頑張ったんだ、歌もダンスも、舞台の上の演技もっ、全部、全部全部頑張った、だからいっぱい褒めてくれるよねっ、好きになってくれるよねっ、おかあさん、そっちに行ってもいいかなっ、今日は、今日だけは、一緒に寝ても、いいかな、そしたらまた明日から、たくさん、沢山沢山頑張るからっ」


 10年間演じ続けた乾拭キキの仮面、母さんの前ですら演じるようになった〝良い子〟の人格が、そこで完全に砕け散る。


 やっと、やっと昔の、本当の親子に戻れる日が来ると思って。


 俺は今まで抑圧して来た渇望を晴らすようにと、ずっと欲しかった母さんの温もりに包まれる事を夢見てそう言った。


 けれど。


「・・・稀樹、あなたの〝夢〟はここで終わりなの、ここで私によしよしされて、よく出来ましたえらいえらいされてそれで終わるような安っぽい夢なの、たった一日で完結するような、そんなお手軽な三流娯楽(パルプ・フィクション)なの」


「違う、けど、でも、ぼく、・・・俺の夢は、10年だよ、10年前からずっと願って、今日ようやく叶ったんだ、父さんと同じ舞台に立てるようになったんだよっ、だったら一度くらい、褒めてくれたって・・・、ううん、そうだよね、分かったよ母さん、トップアイドルになる日まで、俺は、母さんに甘えたりなんかしないよ、それで、いいんだよね」


 ・・・結局俺は、乾拭キキで無かったとしても、物分りのいい子をやめる事が出来ない。

 伽羅蕗稀樹のままでも、母さんに我儘(わがまま)を言う事が出来ないのだ。

 それが、伽羅蕗稀樹という人間のどうにもならない本性だった。


「ええ、あなたはトップアイドルになる為に育てたの、こんな所で満足するような普通の子じゃない特別なの、あなたはこの世界を照らす神の子なのよ、だから誰よりも気高くありなさい稀樹、その魂の輝きこそが、あなたが誰よりも優れる証なのだから」


 俺がどれだけ情けなくても、貧弱で凡人でも、母さんだけは俺の才能を信じて、褒めて伸ばしてくれた。

 裏表の無い純粋な気持ちで、俺の夢を真っ直ぐに応援してくれたのだ。

 だからその期待に応えるのは、乾拭キキと伽羅蕗稀樹、どちらにとっても当たり前の事だったのである。


「うん、必ず誰よりも、この世界を照らすアイドルになるよ、だからこれからもずっと、見ててね母さん」


「ええ、稀樹、ずっと、ずっと見てるわよ、あなたの、〝物語〟を、あなたならきっと、この世界を照らすお星様になれるわ」


「うん、だから、ずっと見ててね、おやすみなさい」











 扉の前から男が立ち去るのを感じた後に、女は扉の背に体を預けながら呟く。


「うん、ずっと、ずっと見てるよ、()()()()、お母様の分まで、キキくんがお星様になるのを一番近くでずっと見てるからね、だから最高の物語を一緒に作ろう、キキくん、私の、王子様・・・」







 この恋はフィクションである。


 だから予定調和されるように、一人の男女が結ばれるまでを劇的に、刺激的に描く物語である。


 これは一人の嘘しか愛せない男と、嘘しか生み出せない女の滑稽(こっけい)な愛のお話。


 故に、ここにある愛を真実と呼ぶか、嘘と呼ぶかは、皆様のお心次第と言わせて頂きましょう。


 いずれ最後は結ばれる結末と言えど、結ばれるまでがさぁ大変、試練と波乱、付かず離れずの恋愛喜劇(ラブコメディ)


 どうか次の一幕も追ってご覧あれば、必ず喝采(かっさい)の喜劇をお見せしましょう。

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