42.最初からクライマックス
「出てきたぞ!!」
「えーと、グループ名は、『STAMPofVenus』・・・スタンプオブヴィーナスか、女神の判子!」
「変わった名前だけど、まぁ普通にジョリボーイズっぽい名前でもあるか、略称はスタヴィとか?」
「アンタがつぶ子ちゃんを殺した、この人でなし!!」
「乾拭キキ以外のメンバーも普通にかっこいい、やば、みんな超イケメンじゃん!」
「つぶ子ちゃんを返して!!」
「やば、私さっちん推しだけど、真ん中の子私の好みドンピシャなんですけど、アラフォー女子の子宮がキュンキュンするくらいどストライクなんですけど!!」
「つぶ子様が死んだって嘘ですよね、ドッキリですよね、つぶ子様の誕生日の今日に、ネタバレするんですね!、答えてください!!」
見た感じ、つぶ子のファンが半分、その他の興味本位で来た人達が半分、と言った所か。
控え室では3万人くらいと言っていたが、今は公園が埋まるレベルで人が集まっている事から恐らくその倍はいるし、これからもっと人は集まる事になるだろう。
俺は軍勢のような人並みに圧倒されつつも、手筈通りに自己紹介から始める事にした。
「初めまして『STAMPofVenus』の伽羅蕗稀樹です、この度芸名から本名に改名する事にしましたが、どうぞこれまで通りキキと呼んでください、みんなよろしく!!」
「キャー!!、キキくんかっこいいー!!」
「アイドルでもずっとファンでいるからね!!」
「この人殺し!!」
俺の自己紹介には若干のアンチが付属しているようだったが、それはつぶ子の知名度を利用する事の代償のようなものだろう、極力中指を立ててる人間を視線に入れないようにして、全体に満遍なく笑顔を振りまく。
そして続くようにゼンとケイが自己紹介をする。
「どうも、時任善です、よろしく」
「小田切慶だ、よろしく」
「──────────え?」
台本ではもっと行儀よく挨拶する流れだった筈なのに、二人は台本無視で塩対応な素っ気無い態度で簡潔に自己紹介を済ませた。
そして俺がアドリブでどうフォローしようか考えるより先に、ケイは観客に向かって言い放った。
「さて、ここに来た諸君は別に俺たちの歌や踊りを見に来た訳では無いだろう、なので早速、台本には無いが質問タイムを開始する」
「「「う、うおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
「え、まじ、これ生放送だよね?」
「緊急記者会見ってコト!?」
ケイのその発言で、最初からクライマックスというくらい観客たちは盛り上がりを見せた。
そしてすかさず善はスマホを取り出して、観客達に告げたのである。
「それじゃ質問タイム始めるよ、ルールは簡単、SNSで#STAMPofVenusと付けて、質問したい内容を投稿してね、今から30分間、1万RTを超えた投稿には全部答えるから、みんなどしどし投稿してRTしちゃって、はい、よういスタート!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
配信はそこで同接が一気に増える盛り上がりを見せた、僅か3分でネット上には1万を超える#STAMPofVenusの投稿がなされ、SNSのトレンドにSTAMPofVenusの名前が一気に浮上する事となったのである。
こいつらの狙いは理解出来たが、何故俺に相談無しにこんな事をしたのかと、問いつめるように質問した。
「お前ら・・・、なんで、こんな事を・・・、台本通りやるんじゃなかったのかよ!!」
「?、台本通りだろ、キキがアドリブで盛り上げる、観客が求めているものを提供する、それだけの話だ」
「そそ、キキ、世の中は需要を無視した押し売りなんて流行らないんだよ、だから茂木田つぶ子の話題に惹かれて集まってきた観客を楽しませるのに必要なのは僕らのパフォーマンスじゃない、君も役者やってるなら、舞台を盛り上げるのは主役の役目だって事くらい分かるよね」
「それに、この空気の中で俺たちが楽しく歌って踊っても、温度差で顰蹙を買うだけだからな、もしちゃんとしたライブをやりたいなら、最初に膿は出し切っておくべきだ」
「・・・っ、だからって、こんな不意打ちみたいなやり方っ」
「ま、打ち合わせしてたらライブ感が損なわれて、キキがお行儀のいい演技で乗り切ろうとするかもしれないからね、ここでは演技なんて誰も求めていないから、だから仕方ないよ、それが今日の君の役目だ・・・っと、それじゃあ最初に1万RT行った質問から行くよ、えーと、「ジョリーさんに舐められてるって本当ですか?」、だって、あはは、まさかこの質問が最初に来るなんてね、でも僕も気になるな、本当の所はどうなの?」
いきなりとんでもない質問だが、やはり、世の中の人間はこういう下世話な話題をアイドルに求めているという事なのだろうか。
でも、俺はまだ未成年なので、当然そういうスキャンダルが許される身分でも無い、全くの潔白なので、即答で答えた。
「えーと、俺はそういう事とはまだ縁が無いかな、芸能人で未成年だし、その、恋愛経験ほぼゼロというか、ほぼ未経験みたいなものです、一応」
つぶ子とのキスも1/60秒くらいの経験値なので、実質0と換算してもいいだろう、なので俺は今後も堂々と、彼女いない歴=年齢の童貞売りアイドルを貫く予定である。
「ふーん、ま、清純派を売りにしてるアイドルほど裏ではエグいイメージあるけど、キキは雰囲気が童貞っぽいもんね、・・・だそうです、それじゃあ次の質問、「つぶ子ちゃんとはどこまでいきましたか?」だって、これも気になるね、動画でキスしていたとは言ってたけど、童貞っぽいし、流石にまだキス止まりなのかな?」
拒否したい所だし、言えば俺とつぶ子のイメージダウンになるかもしれないが、でも、これは、俺が犯した罪の証でもある、だから正直でいたいと思い、俺は正直に答えた。
「・・・アイドルになる前に、二人の〝恋の物語〟のその終わりと始まりを象徴する物として、乾拭キキとして茂木田つぶ子に、一回だけキスをしました、乾拭キキとしてのキスです、以上です」
「ふーん、て事は何かの撮影だったって事?、後から実はキキとつぶ子ちゃんが主演の映画が出てきたり?」
「・・・いえ、つぶちゃんに望まれて、キキとして応えた、そういう意味です、お互いに演じていた恋人という役で行ったキスです」
「なんか煮え切らない答えだなぁ、ま、いいや、質問はどこまでやったかって話だからね、えーと次の質問は・・・」
そこから俺は「いつから付き合っていたのか」「どっちが告白したのか」「不謹慎だやめろ」「つぶ子ちゃんを返して」「ジョリーさんの隠し子って本当?」と言った数々の質問を、30分かけて答えた。
30分経つ頃には会場の熱気もだいぶ落ち着いて、つぶ子のファンらしき当初はいきり立っていた人間も態度を和らげて、そして会見が終わった事により、つぶ子の話題を求めてやって来た何割かの人間は退散し、それに釣られるようにその他の人間も退散して行った。
この30分の間で、初ライブは予期せぬ形ではあるが、プロデュースという観点では文句なしに成功したと言えるだろう。
少なくとも、つぶ子との接点を小出しにして厄介なアンチに付き纏われるより、つぶ子とは健全な関係で、純粋に応援されていると示した方が、ここに来たつぶ子のファンも味方に出来てプラスになるのは間違いない。
少なくとも、今日ここに来た人間を満足させて、更に多くの人間に俺たちの存在を宣伝するという目論見は十分以上に成功している。
──────────それが俺の望むアイドルの姿では無いという一点を除けば。
「さて、それじゃあ話すべき事も話したし、これで解散にしよっか、別に僕らの歌なんて、誰も求めてないって話だしね」
「ま、初ライブにしては大成功と言った所か、今の所俺たちのファンクラブ会員証は最安で250万だが、今日の盛り上がり方なら500万も狙える、この市場価値なら今後1年は物珍しさでどこのライブでも満席になるだろう、これ以上の継続は無駄骨という話だ」
そう言って二人はお疲れ様とで言うように控え室に帰ろうとする。
確かに、ここで下手なパフォーマンスを見せたら、それは250万という値段がついた俺たちの価値を毀損する結果になるだろう。
折角勝ち逃げ出来る状況なのだから、利確して逃げ切るのは最も合理的な判断だと言えるが。
「──────────待てよ」
「・・・どうしたキキ、怒ってるのか?、別にその怒りをここでぶつけるのは自由だが、それで損するのはお前自身だぞ」
「そーそー、僕らは生放送やってるんだからさ、綱渡りだ、だったら危険なリスクは追わずに、成功する確率の高い勝負で勝つ、これが道理だし、僕らはもう勝ったんだ、だったらこれ以上戦うのは破滅を自ら招く愚策だよ」
確かに、ここでオリジナル曲でも無い、『TempeStars』の曲を歌っても、比較されて馬鹿にされるのがオチだろう。
だから分の悪い勝負はやらない、その合理性は理解出来るし、観客達も物足りなさを感じているものの、質問タイムよりも盛り上がるとは誰も思っていないので、納得している事だろう。
エンターテイナーとは、自分のやりたい事をやり通す者では無く、観客が求める物だけを効率よく提供する者だと、役者だった俺が理解出来ない訳も無い。
少なくとも今日のメインディッシュは完璧な形で提供された、だからこれ以上は何をやっても蛇足になると、俺も理解していた、だが。
「ここには、〝アイドル〟を求めてやってきた人間だって来てるんだよ、他人の不幸をネタにして喜んでるようなカスバエじゃなくて、純粋に、単純に、ただ楽しくて幸せな気持ちにしてくれる〝アイドル〟を求めてやって来てる人間だってここにはいるんだよ、お前らは正しいよ、利益や損得、そういうのが無いとやっていけない世界だっていうのは分かってる、でも俺は、伽羅蕗稀樹は〝アイドル〟だ、だから人を笑わせて楽しませる為じゃない、幸せな夢を見るように幸せにする為に生きる、それが理解出来ないお前らはアイドルなんかじゃねぇ、一生の他人の不幸に群がって醜く生きてろ────────俺は一人でも歌う、皆さん、お待たせしました、先ずは俺の大好きな曲から行きます先輩の『TempeStars』さんの曲で『AngelV』、聞いてください」
スタッフの人はこの完璧な流れで俺が歌おうとした事に困惑した様子だったが、台本ではライブもやる予定だったからだろう、予定通り音楽を流し始めた。
音楽が流れた事で幾人かの人間は足を止めるものの、やはり俺たちのライブには興味が無いのか、それは大衆の流れを止めるには及ばないものであり、多くの人間が振り返る事は無かった。
──────────これが結果だ。
伽羅蕗稀樹の、いや、乾拭キキのファンなんて、ほんの数百人程度の物。
それは大衆の心を掴むには決定的に足りない、俺の実力であり限界だ。
それでも俺はその数百人のファンに向けて歌おうとマイクを握りしめる。
すると。
「ちょっと借りるよ」
「───────え?」
「正規のライブならともかく、無償のゲリラライブなら乱入も醍醐味だろう、頼り無い愚弟に、姉からささやかな恵みの慈愛を与えてやる、すぅ──────────未来の大女優、白月ユキだ、これより最初で最後のスペシャルライブを執り行う、間違いなく二度と無い機会だ、見逃すと後悔する事になると言わせてもらおう」
白月ユキ、俺の姉もどきは俺からマイクを奪ってそう宣言する。
バリバリの私服だが、ステージの背後にはモニターがあるし、正面から映すカメラもある、その姿は観客に余すこと無く披露された。
ノーメイクで普段着でも、そのオーラとタレント性は俺に全く見劣りしない華があった。
そして白月ユキが歌い始めた瞬間に、その場にいたほぼ全員がその類稀なる歌声に聞き惚れて、振り返ったのである。
「白月ユキ!?、あのさっちんの娘の!?」
「すげー歌声だぜこれは、こんなん今すぐプロ歌手になれるレベルだぜ!?」
「やば、実物もめっちゃ美形じゃん、父親と母親のいいとこ取りで、顔面完璧過ぎる、しゅきぃ!!」
「ユキーーー様!!、素敵ーーー!!」
「おいおい、さっちんの娘が登場するとか、サプライズにしても強すぎだろ、どんだけSTAMPofVenusに力入れてるんだよ」
「すごい、人がどんどん戻ってくる、そして歌声もパフォーマンスも完璧だ、これが天才白月ユキの本気、って事かよ・・・」
好まれる者の資質、その本領発揮をするように、白月ユキは人々を次々と魅了して、この場につなぎ止めた。
「す、すごい、会員証の転売価格が500万を超えた、不世出の最強サラブレッド白月ユキが僕らの四人目のメンバーだと思われたからだろう、これが株ならストップ高確実なレベルで暴騰してる・・・ッ!!」
「500、550、600、まだ上がるのか、キキ、・・・お前はやっぱり、とんでもないものを持ってるじゃねぇか・・・!」
「あらら、僕の出番は無かったか、折角リハーサルすっぽかして見学に来たのに、にしてもゆっきー、いい顔で歌うなぁ」
「Hmm……、やはりYouのチルドはタレント抜群の逸材だNEN、今からでもスノウガールの性自認をボーイって事にして『STAMPofVenus』にねじ込めないKANA、スノウガールならきっと、さっCHINCHINにも負けない最強のセンターになれるyoi」
「あはは、ゆっきーはまだこっちの世界に来る気は無いみたいですし、それに、ゆっきーがいなくもきっと、キキならなれますよ、トップアイドルに」
「WOW、それって親foolかい?、流石にスノウガールとキキボーイじゃ生まれ持った器が違い過ぎる気もするけど、まぁ、Meはそんなノーギフテッドなキキボーイが愛おしいんだけどね、LoveforYou」
「いえ、キキは、僕の若い頃によく似ているんです、愛に飢えていて、沢山愛されたいっていうそんな目をしている、だから、その点だけはゆっきーよりも素質があるし、それに僕だって歌もダンスも二流ですからね、だからアイドルに必要な物は才能だけじゃないんだって僕はそう思います」
「確カニ、アイドルに一番必要なモノはGUTS&GRIT──────根性だとMeは思ってるよyoi、汚い事や辛い事だらけの業界だからNEN、アイドルじゃなくてもいい人間にアイドル続けるのは難しいからNYA」
「あはは、それで言ったらゆっきーは根性とか秒で否定するタイプですからね、好きな事はとことんやるけど、嫌いな事はテコでもやらないタイプです、なので多分、絶望的に向いてないですね」
「・・・じゃリザインするしかないPOYOね、にしても本当にいい顔で歌うね、君のチルドレンは」
「ええ、本当に・・・奇跡みたいなデュエットです・・・」
舞台の上で二人の天使は歌った。
その歌声を天国まで届かせるように、地獄を照らすように、鮮烈に響かせた。
だからその歌声の切なさに、人々は心打たれずにはいられなかったのである。




