40.ライブ当日
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん・・・114万!?、11倍って、マジかよおい!?」
つぶ子の死から1週間と少し。
俺はマスコミに追われる立場となり、事務所、そしてケイとゼンのアドバイスから、デビューの日まで身を隠す事を指示された訳だが、その結果として俺たちのデビューライブには、〝茂木田つぶ子の死の取材〟と〝茂木田つぶ子が命を懸けて応援した乾拭キキのデビュー〟という、二つの付加価値が付く事となった。
謎の多い茂木田つぶ子の死と、彼女が命懸けで愛した男という背景ストーリー。
それは俺が元トップアイドルの甘露子颯稀の息子というドラマより遥かに人々の注目を集めるものであり、俺は一躍時の人として注目される事となった訳である。
それによって事務所の意向でライブの日付は当初予定されていた『TempeStars』のライブ、その当日に近くの公園で特設ステージを作ってそこで行われる事に変更となった。
理由はつぶ子の告白によって俺の注目度が一般的なアイドルを遥かに上回り、武道館の1万人を容易く上回るような需要が見込まれたので、その需要を満たす為にライブは生放送する事となり、場所と日時もそれに相応しい場所へと変更した訳である。
そしてライブ当日の今日、ライブチケットの代わりにファンクラブ会員証付き握手券が販売された訳だが、それは1枚10万円、1000枚という中々に攻めた価格にも関わらずに、販売から1分待たずに即完売となり、ネットでは早くも転売されていた訳である。
ライブ当日、俺たちは事務所のレッスン室で最後のリハーサルをしていた。
そしてリハーサルの休憩中に俺はケイとゼンとともに転売されているチケットの値段を確認していたのであった。
「10万でもぼったくりなのに、100万とか、世の中に富豪多過ぎるだろ、こんなん本当に買う奴とかいるのかよ」
「甘いなキキ、世の中は需要の先読みをした奴が勝つ、茂木田つぶ子という天才の物語は、その完璧過ぎる最期を飾った事によって今後10年に於いては人々の記憶に残り続けるだろう、ならばそれと関連性の深いコンテンツになったお前の価値は100万でも下らない、ライブチケットが優先的に買えるようになる会員証なら余裕で100万の価値はある、トップアイドルのライブチケットだって売値は2万でも転売では余裕で10万になるからな、初回限定年会費無料の会員証ならばそれは余裕で100万の価値になるって話だ」
確かにトップアイドルの引退ライブのチケットが100万とかで転売された話もあるし、富豪なら100万ははした金なのかもしれないが、一般人の俺からしたら金銭感覚がおかしいとしか言えないような値段だ。
「ま、このデビューライブで成功しなかったら、ただの恋愛脳メンヘラ女がゴリ押ししただけの一発屋で終わっちゃうかもだけどね、頼むよキキ、僕らがどれだけ完璧なパフォーマンスをしてもセンターのキキがしょぼかったらお遊戯だと思われるんだからさ」
「・・・分かってるよ、せめて今日だけは、俺も命を懸けて本気で取り組むつもりだ」
何も背負いたくない俺に背負わされたつぶ子の命。
それは今日のライブに注ぎ込まれた広告・設営費の約1億よりも遥かに重いものであり、この1週間、悩みに悩み抜いたが、そのおかげでつぶ子の命を背負ったという自覚で静かに闘志は燃えていて、情けないパフォーマンスをする気は無かった。
今日のライブを最高の物にして、天国のつぶ子と、そしてどこかで見ているかもしれない母さんと、多くの人達に最高の感動と体験を届ける。
その気迫は今までどこか冷めていた俺をアイドルへの情熱で燃え上がらせて、絶対に成功させるという挑戦に夢中にさせてくれた。
つぶ子の事を本気で愛する事は出来なかったけれど、つぶ子の事は好きだったし、もっと一緒にいたいという気持ちは本物だった。
だからつぶ子を失った悲しみは俺を絶望に叩き落としたが、つぶ子を失った悲しみは俺を強くしてくれたのだ。
つぶ子の願いが俺をこの腐った世界で輝かせる〝お星様〟にしたいというのであれば、俺はその期待に応えるだけだ。
つぶ子の投稿した動画は僅か一週間で1億再生を記録するものだったが、それはつぶ子の動画は悲劇的でありながらも、見た人に幸せな気持ちをくれる、優しい動画だったからだろう。
だからその動画を見る度に俺はつぶ子の死を受け止めて、その死を背負って生きていく覚悟を深めたのだ。
茂木田つぶ子は優しくて健気で純粋な女の子だ。
だからつぶ子は皆を幸せにする為に、皆が生きる何気無い日常を生きる事に意味を与える為の、日常的で特別な物語を紡いだのだろうと、誰もがそう思った事だろう。
だからつぶ子の一番の理解者である俺が、つぶ子の物語を冒涜するような猿芝居をする訳にはいかない、つぶ子が俺に望むものが何かを理解してそれを演じる。
結局それが、凡人である俺に出来る全てなのだと、俺は悟ったのである。




