38.天に駆ける
翌朝、俺のスマホにはメッセージが来ており、そこにはこう書かれていた。
『私がキキくんをお星様\꧁☆꧂/にしてあげる』
『これが私の愛( ⸍ɞ̴̶̷ ·̫ ɞ̴̶̷⸌ )♡の証だよ』
『これからもずっと見てるからね、大好きだよ( *˘ ³˘*)』
「・・・俺をお星様に?、いったいなんの事だ・・・?」
不穏な文面に俺は胸がザワつくような不安を感じつつも起き上がってリビングに向かう。
朝の支度をして身なりを整えつつテレビでニュースをつけると、そこではいつものニュースではなく特番が放送されていた。
『大人気女優、茂木田つぶ子さん(16)が自宅で自殺をしました、現場には遺書が残されており、それ以外にもSNSでは自殺を仄めかすような投稿がなされております、現在警察は他殺の可能性が無いかを捜査中です』
「は──────────?、嘘・・・、だろ・・・?」
俺はつぶ子の死によって胃液が逆流するような吐き気を飲み込みつつ、息をするのも忘れてニュースに見入っていると、間もなくしてケイとゼンからメッセージが送られてきた。
『お前、やりやがったな』
『これってガチなの?、ドッキリとか台本だよね、現実だったらヤバ過ぎるって!!』
二人は俺がつぶ子を自殺に追い込んでいるかのような反応だが、俺は確かにつぶ子を追い詰めた覚えはあるが、自殺を教唆するような事はしていないので直ちに否定した。
『知らない、俺は何も知らない』
そう返すと二人は驚いたリアクションを送ったのち、こう返答した。
『まじかよ、じゃあこれは、茂木田つぶ子の暴走って事になるのか』
『・・・それが愛、って事なんだろうね、茂木田つぶ子は命を懸けてキキを愛するっていう、その証をこの世に残した訳だ』
「・・・愛?、どういう事だよ」
それが何かを訊ねる前に、特番で組まれていたニュースではつぶ子が遺したとされるビデオメッセージが放送された。
「皆さんこんにちは、茂木田つぶ子です、今日は皆さんに告白したい事があって動画を撮らせて頂きました、是非最後まで見て頂けたら幸いです、私の命を懸けた最後の舞台、どうか見てください」
画面の中のつぶ子は、恐らく一昨日別れて間もない姿で映っていた。
そしてつぶ子はそこで告白した。
自分の命が持病であと1年しか持たない事。
苦しんで死ぬ前に〝恋〟をして、幸せな気持ちで死にたかった事。
最期に好きな人と過ごせて、とても幸せだったという事。
僅か数分の告白だったが、それは清純派大女優茂木田つぶ子がこれまでに演じてきたヒロインの姿に連なるような、つぶ子という女優の集大成とでも言うような、つぶ子という女優のイメージをそのまま物語にした告白であり。
柔らかに自然に、素朴に美しく咲く野薔薇のような語り口にも関わらず、つぶ子が本気で恋をして、本気で幸せだった事を疑わせない、そんな悲劇的でもありながらもこれは喜劇とでも言うように、観客から涙を誘いつつもそれを悲しませないような、そんな茂木田つぶ子の物語だった。
つぶ子の語る無垢な少女の純粋で暖かな恋物語は、大人になったもの達が失った汚れなき黄金色の輝きに満ちていて、その物語に触れているだけでその美しさに心が浄化されるように深い感動に包まれる。
出会った瞬間から全身が雷に打たれるような衝撃。
初めて恋を自覚した時のせつなさ。
想いが通じあって、星空の下でファーストキスをした時の天にも登るような喜びと、世界の主人公になったような幸福。
そして約束された破局にも気丈に振る舞って、夢へと踏み出す彼を笑顔で送り出そうとする一途な健気さ。
それは現実の話でありながらどことなく非日常的なドラマがあって、普遍的なストーリーでありつつも脚本のように筋が通っていて、その全てが大女優茂木田つぶ子の物語に相応しい、劇的で刺激的な物語だった。
画面越しの姿では魂の色は判別出来ない、だからそれが演技なのか本気なのか俺は分からなかったが、でも俺はつぶ子が生きていて幸せだったというその言葉で、つぶ子が自殺したのは決して世を儚んで絶望したからでは無いと、そんな風に思わされた。
そしてその動画の最後に、日本中に向けた動画でつぶ子は言ったのである。
「だからありがとう、──────────キキくん、私はあなたに出会えて幸せでした、あなたの夢が叶う事を願っています、天国からずっと見てるよ、さようなら」
と。
茂木田つぶ子が死に際に放った一言。
自分の紡いだ極上の恋の物語、その相手が乾拭キキであるという告白。
大女優茂木田つぶ子の叶わぬ恋という、この世界で極上の物語の相手役が俺であるという暴露。
それは幸にも不幸にも、俺という人間の運命を大きく狂わせた。
そしてそれによって茂木田つぶ子と並ぶように、検索エンジンのトレンドには乾拭キキの名が並ぶ事となり、俺の名は日本中に知れ渡ったのである。




