36.覚悟の決別
「・・・なんで、あんな事したの、別に、順番譲ってもよかったよね、また来れば良かったんだから」
閉園時間となり出口に向かう道すがら、俺はつぶ子が何をしたかったを聞いた。
あの一瞬でつぶ子から見えた魂の色は怒りや悪意では無い、むしろ好意を示す好奇心の色だ、だからこそなんでつぶ子があんな事をしたのか俺は知りたかった。
俺の問いかけにつぶ子は屈託の無い笑みを浮かべながら答える。
「だって、キキくんがあんまりにもアイドルに向いてないなって思ってさ。・・・キキくんは〝譲る〟人間だよね、舞台で一番輝く主役の座も、舞台がよく見える一番いい席も、自分と仲のいい友達も、全部全部、独り占めせずに、譲ってしまう人間、この世は自分の思い通りに出来る人間以外に居場所なんて無い、それなのに譲る側のキキくんがトップアイドルになりたいなんておかしいと思って、だからちょっとだけ、意地悪したくなったんだ」
芸能界は椅子取りゲームだ、だから俺みたいな我欲の薄い人間には向いていないのは自覚している、つまりつぶ子は俺を試したかったという事か。
自分を取るか取らないかという二者択一があの時のつぶ子の行為の意味という事か。
「・・・確かに俺はアイドルなんて向いてない、誰かを蹴落としたり、奪ったり、そういう事をする覚悟なんて無い、つぶちゃんみたいに演技でなんでも手に入れられる人間とは違うのは分かってる、でも」
俺は昔、ゴリ押しで天使くん役を強奪した事を今でも負い目に思うくらいには不正や反則に抵抗感を持っている。
誰が天使くん役に元々内定していたのかは知らないけど、誰かから役を奪ったという罪悪感だけはどれだけ時間が経っても消えないものだったからだ。
世の中には絶対評価、自分の物差しだけで物事を判断出来る人間もいるし、そんな風にストイックに自分を磨き続けられる人間が出世するんだろうと、漠然と俺は思っているが。
だが幼い頃より熾烈で過酷な競走の中で生きて、相対評価を嫌という程身に染み込まされた負け犬だった俺には。
誰かの不幸の上に成り立つ幸せなんて、受け入れられる訳も無かったのである。
誰よりも負け犬の苦労を、苦しみを、悲しみを、悲劇を、魂に刻み込まれた俺だからこそ、他人を蹴落とす痛みを知っているのだから。
だからつぶ子のような、生まれた時から恵まれて、何の苦労も知らない天才だけがこの世界の上に立つべきという考えも、矛盾するようだが俺は持っていた。
だから俺は、今自分の中にある迷いが、自分の道理に反するような〝夢〟に人生を懸ける事の無謀に対する恐れなのだと理解して、もう一度、何故俺がアイドルをするのかを自問した。
アイドルには人を幸せにする力があると思った。
でも、俺にそんな力は無い。
アイドルになれば父親に近づけると思った。
でも、俺は父親を尊敬しているが、母さんほど愛してはいない。
アイドルは俺と母さん、二人の夢だった。
でも、俺も母さんも、アイドルと釣り合うような立派な人間では無い。
だからこの夢は、俺には分不相応な儚すぎる夢物語だ。
それを望んでいる人間がいるのだとしても、乾拭キキの物語がそれを望んでいるのだとしても、伽羅蕗稀樹の魂はそれを否定している。
俺はきっと、人間と関わらない仕事を社会の片隅で黙々と続けるのが一番向いている人間だ。
動物なら貝とかイソギンチャクとか、そんな受動的な生活が俺の性格には合っているだろう。
そんな俺が誰かと競って、自分より才能のある奴を蹴落として、屍の上で踊り続けるアイドルなんて、出来るはずも無い。
だからここでアイドルの夢を諦めて、つぶ子の望む〝役〟を演じても、それは伽羅蕗稀樹にとっては、救いとなる生き方になるだろう。
茂木田つぶ子を影から支えて、茂木田つぶ子という万人が認める天才を手助けする人生、それにやりがいを感じない人間なんている訳も無いし、凡人でも天才の糧になれるのであれば、それは生産的で有意義な人生であると言える。
だから無謀なアイドルという夢なんて諦めて、つぶ子の望む人間になればいい。
それが最適解だと、俺にとって一番幸せな人生だと、理解していた。
──────────でも、踏み出せない。
今まで生きてきた乾拭キキとしての蓄積が、積み上げてきたキャリアが、俺を縛り付けて、芸能界という暗黒に魂を引き摺りこんでいるからだ。
「・・・私じゃ、不満?、キキくんの恋人として、役不足かな?」
「・・・そんな事無い、つぶちゃんの事は、母さんの次に好きだ、つぶちゃんの為なら並大抵の事はしてあげられるし、つぶちゃんに必要とされて嬉しいよ、・・・でも、俺は空っぽな人間だから、きっと、本当の俺を知ったらつぶちゃんは俺を好きにならないと知ってるから、だから・・・怖いんだ」
俺とつぶ子の間には大きな溝がある、それはただ憧れているだけの凡人と本物の芸能人という種族の差という溝だ、それを埋められるものを、俺は持ってはいない。
だから近づきたいと思っても、手を伸ばす事さえ気が引けた。
「・・・そっか、やっぱり私と同じだね、だからこんなにも惹かれてるのかな」
「え?」
「ねぇ、キキくん、〝イメージゲーム〟をしよう、目を瞑って、そして想像して。──────ここは地獄です、キキくんは生前に悪い事をいっぱいしたので地獄行きが確定してしまいました、ここから永遠に地獄で罪を償えと閻魔様は言っています」
イメージゲーム、監督が子役の演技力を鍛える為によくやっていた遊びであり、つまりは演技力の訓練である。
俺もよくやっていたものなので、唐突な無茶ぶりだったが、役者として行っていた訓練の習慣が残っていたので直ちに演技のスイッチには切り替わった
ここは地獄、罪人が落とされる、日の届かない奈落の底に存在する劣悪で過酷な流刑地。
目の前には大鬼のように厳しく大魔神のように威圧感のある閻魔様が、俺を玉座の高みから見下ろしていていた。
俺が役に入り込んだのを確認したのち、つぶ子は朗々と澄んだ声で続けた。
「閻魔様は言いました、「お前はこれから先、何の娯楽も幸せもない虚無の世界で、未来永劫たった一人で生きていく、それが沢山の人間を騙し、欺いたお前に相応しい罰だ」と」
つまりは5億年ボタンみたいなものか、正直、自分が5億年ボタンを押したらどうなるかなど全く想像もつかないが、少なくとも人類に与えられる苦痛の中でも、それが頂点に位置するような拷問なのは違いない。
それを聞かされた俺はきっと絶望するだろう、許してくれと懇願するだろう、そして裁決が覆らないと知って諦めの境地で項垂れるだろう。
ここまでは想像出来た、すんなりと心情は想像出来て役にのめり込めた、それが出来るのは俺がどこまでも内省的で、地獄に落ちる事に理不尽を感じない人間性だからだろう。
「しかしそこで閻魔様は言いました、「もしお前が望むのであれば、たった一人だけ道連れを連れて行ってもいい、天国にいる者でも、既に地獄に落ちたものでも、たった一人だけお前の地獄に道連れする事を許す、誰をお供にするか、10秒以内に決めろ」と、はい、それじゃゲームスタート、キキくんは誰を〝道連れ〟に選ぶかな」
「道連れ、か・・・」
選択肢はほぼ二つだけ。
でも俺は母さんともつぶ子とも、即答出来るような人間では無かった。
かと言って、見知らぬ誰かや関係性の薄い誰かを巻き込めるような人間でも無かった。
だけどだった一人で、未来永劫の孤独なんて耐えられる訳が無い、だからこれはどちらか一人を選ぶというゲームなのだろう。
アイドルか役者か、どちらかを選ぶ二者択一という事なのだろう。
演技の中でなら、乾拭キキという役の中でなら、この答えはすんなり出せるに違いない、恐らくつぶ子はそう思ってこの質問をしたのだろう。
そして俺も、こんな質問なんて、素直になれば迷う必要なんて無いのだと、そう思っていた。
たった10秒の間に、まるで走馬灯のように、今まで出会ってきた人間、そして俺が過ごした人生という記憶が駆け抜けていく。
「あんたなんて私の子じゃない、・・・なきゃ良かった、あんたさえいなければ私はっ」
あの時俺は、天国に向かう母さんを地獄に引き戻した。
こんな地獄でも、母さんさえいれば乗り越えられると思ったからだ。
だからもう、その先まで巻き込みたくは無い。
母さんには天国に行って欲しかった。
俺が一番そばにいて欲しい人、巻き込んでも心が痛まない人、地獄でも道連れにしたい人、それは世界一大切な母さんにだけは押し付けられない役割だ、世界一大好きな母さんだけは巻き込めない役割だ、だから。
「私を選んで」という
その誘いに応えるだけの話だ。
「10秒だ、答えろ」
「じゃあ俺は──────────つぶ」
「・・・ん、どうした、お前は誰を道連れにするか、はっきりと申せ」
「・・・っ、俺、俺は、茂木田、つぶ・・・」
喉まで言葉は出かかっているのに、吐き出す事が出来ない。
言えば楽になると分かっているのに、胸の中の葛藤や後悔を手放す事が出来ない。
それが正解だと分かっているのに、正解を選ぶ事が出来ない。
──────────ああ、やっぱり俺は負け犬なのだろう。
たった一言でいい、吐き出せば楽になる言葉なのに、それが嘘だと、本気では無いと、そう思っているから、唯一無二の正解だと理解しているにも関わらず、俺はその選択肢を選ぶ事が出来ないのだ。
自分が何者なのか、仮面が剥がれ落ちるように理解した。
弱虫で意気地無しの臆病者だ。
他人を傷付ける勇気も、敵と戦う勇気も、人から愛される勇気すら無い、この世界の全てを恐れている臆病者。
優しくしてくれる人がいるのに、愛してくれるかもしれない人がいるのに、興味を持ってくれる人がいるのに、その全てと真剣に向き合う事が出来ない。
それが、〝良い子〟を演じ続けてきた、伽羅蕗稀樹の本質なのだと、俺は理解した。
生まれて来なければよかった少年、伽羅蕗稀樹の、その心の奥底にあるものがなんなのかを、言葉で理解したのだ。
きっと俺は、この先もずっと、永遠に、誰かを信じ愛する事など出来ない弱者なのだろう。
だから。
「──────────俺は、一人で地獄に行く、一人でいい、一人がいい、誰かを巻き込むくらいなら、俺一人が苦しんで、悲しんで、痛い思いをすればいい、仮に誰かが俺の荷物を肩代わりすると言っても、俺は絶対に譲らない、この身に背負った罪だけは、絶対に誰にも譲らない、それが───────俺の答えだ」
前提が間違っていた。
たとえ誰かに支えて貰わないと辿り着けない夢だとしても。
一人では絶対に届かない夢だとしても。
誰かを踏み台にしないと掴めない夢だとしても。
俺は、俺のやり方で、俺が納得するやり方でしか、その夢を追いかけられない。
だからつぶ子の協力も、ケイとゼンという優秀な仲間も、父親の後継者という最高のドラマも、全部俺には最初から必要の無いものだったのだ。
俺は一人で地獄に行く、誰も信じず、誰も巻き込まず、誰も道連れに選ばず、一人で地獄に行く。
その〝覚悟〟を言葉にした瞬間に、俺の中で渦巻いていた葛藤、不安、懊悩、その全てが消し飛んで、俺がアイドルと役者、伽羅蕗稀樹と乾拭キキ、どっちの道を歩むべきかが明確に示された。
自分にとって譲れないもの、誰にも譲れない自分だけのもの、それがこの身が背負った〝罪〟だとはっきり自覚したから、だから俺は、俺のやりたい事の為に生きると決めたのだ。
「・・・つぶちゃん、やっぱり俺、アイドルになるよ、一番じゃなくていい、完璧でも究極でも無くてもいい、その代わり誰よりも正直で、誰も不幸にせずに沢山の人を幸せに出来るようなそんなアイドルに、だから、恋人ごっこは出来ないや、アイドルは恋愛禁止だからね」
つぶ子の協力、それが無くてはデビューの条件を満たす事など俺には到底叶わない話だ。
でも俺は、芸能界の権力者の×××を舐めたり舐められたりしてでも、自分の力だけでアイドルを目指すと、覚悟した。
「そう・・・、応援してあげたいけど、キキくんには無理だと思うな。キキくんは役者向き、人から望まれる姿を演じるのがその本質なんだから、だから人から好まれる姿を演じるアイドルは、きっと向いてないよ」
望まれる姿と好まれる姿、言葉遊びのような微妙な違いだが、俺にははっきりと分かる。
望まれる姿とは、大人にとって都合のいい演技の事であり、つまりは脇役の演技の事。
凡人や秀才が努力して後天的に身につける、椅子取りゲームで奪い合うような脇役の地位の事だ。
だが好まれる姿とは、アイドルに興味ない人間すら興味を持ってしまうような、演技に興味の無い人間すらその芸術性を理解してしまうような、スポンサーの方から主役になってくださいと頼み込む、世界の主役になる事が出来る演技の事だ。
天才と呼ばれる圧倒的なカリスマとタレントの持ち主だけが持つ、真似出来ない圧倒的なオリジナリティ、歴史に名を残すような偉人の資質、〝万人から好まれる存在感〟。
トップアイドルとは芸能界の、ルッキズムに支配された現代の人類の歴史の中心に存在する者であるが故に、ただの凡人である俺が追いかけるには分不相応というのも分かっている。
「でも俺は、他には何も無い、・・・本当に、何も無いんだ、生まれた時から背負ったこの罪だけが俺をこの世界に縛るものだ、だから届かない夢でもいい、叶わない夢でもいい、燃え尽きるまで、俺の胸を燃やす理想を追いかけ続けるよ」
アイドルをやり遂げる覚悟なんて、俺には無いと思っていた。
でも、父親が示してくれていた、「面白そうだから始めて、楽しかったから続けた」と。
きっかけなんて、それくらいでいいのだ。
きっと、進み続ければ、どこかには辿り着く。
行き先が地獄でも一人で進むのならこれ以上何も失う事は無いのだから後悔はしないだろう。
だから一人で、誰にも迷惑かけないやり方で、俺は父親の後を追いかけると、ここで決めたのだ。
「・・・キキくんってばかだね、夢なんて現実的な段取りを計画出来ない子供の言葉だよ。世界なんて結局は心を動かしたという感動もお金の金額が単位なんだから、キキくんが生み出せる感動なんて、せいぜい人間一人が限界なのに、それでもアイドルがいいなんて、本当にばか」
「ごめん、つぶちゃんだけを感動させる人生もきっと幸せだろうけど、でも俺は、一人で地獄に行く人間だから、つぶちゃんの事、本気では愛せないから、だからアイドルになるしか無いんだ、だからごめん」
「・・・私は、キキくんが本気になってくれなくれなくても、一生振り向いてくれなくても、それが嘘でも、本気で演じてくれるなら、地獄までついて行くよ、茂木田つぶ子にとってキキくんは、ライバルで、ヒーローで、救いで、この世界でたった一人の王子様なんだから、だから、キキくんが私の王子様を演じてくれるなら、私はその嘘を本気で愛すよ、それでも、ダメ、かな」
つぶ子は瞳に涙を浮かべながら、懇願するように俺に伺う。
その姿の痛々しさに俺は胸を引き裂かれるような錯覚を覚えた。
本当に、別れ話をするにしては切なすぎるくらい綺麗な夜空だ。
街の灯で星は多くは見えないが、それでも夜空の月は狂おしいほどに玲瓏に照る。
この醜い世界を祝福するような夜空だからこそ、俺は一途に答えた。
「乾拭キキにとって茂木田つぶ子は最愛の初恋の人だけど、伽羅蕗稀樹にとって乾拭キキは、脱ぎ捨てるべき蛹の殻で、踏み台にするべき過去の自分だから、だからつぶちゃんの事も俺は、伽羅蕗稀樹は、特別には思っていない、から」
「──────────っ、ほんとう、に?」
演技とは思えないくらい、つぶ子は涙を溜めた。
悲痛な嗚咽を漏らすつぶ子に俺は傷付けた罪悪感で死にたくなるが、嘘を言っても余計傷付けるだけだと思って、本気で答えた。
「ごめん、伽羅蕗稀樹にとっては母さんだけが、・・・いや、自分だけが大切に思う全てだから、だからつぶちゃんの事も全然意識してないし特別にも見てない、なんで俺なんかを好きなんだろう?っていう、違和感と疑念しか感じてない、女の子なんて、友情の成立しない相手で、最初から恋愛対象として見ていないくらい壁を作ってる存在だから」
生まれた時からのアイドル、伽羅蕗稀樹には、女性とスキャンダルになるような感情は最初から排除されていた。
つぶ子に恋をしたのもきっと、それが〝乾拭キキ〟にとっては演技の為に必要な要素だったからだ。
だから今目の前にいるつぶ子の事も、俺の目には自分の地位を脅かす敵に見えていた。
きっと今、俺は好意を向けているつぶ子に対して、冷たい視線を向けている事だろう。
「うっ、うぅっ、そんな、そんなのって、今までずっとキキくんだけを見てたのにっ、私はこんなにもキキくんの事を好きなのにっ、キキくんは私を見てくれていなかったの、そんなっ、そんなの苦しいっ、苦し過ぎる、死んじゃう、死にたいっ、うっ、うぅっ・・・」
「つぶちゃん・・・」
つぶ子はその場で号泣した。
まだランドの中なので道行く人々の多くがすれ違いざまに俺たちに視線を向けて通り過ぎていく。
別れ話をするにしても場所が悪過ぎる気もしたし、これからランドに来る度につぶ子の泣き顔を思い出すのかと思うと気が滅入るが、どうせランドに来なくても思い出すだろうから場所はそんなに関係無い事だろう。
注目を浴びているのは好ましくないものの、つぶ子は〝舞台の上では完璧に演じる〟という特性であるが故に、ここで別れ話をすれば完璧なフラれた女を演じてくれる事だろう。
俺はつぶ子を家まで送るか迷いつつも、つぶ子ならランド近くのリゾートホテルの最上級のスイートルームに泊まればいいだけの話なので、余計なお節介でつぶ子の一人舞台を邪魔したりせずに、俺は最後に別れの言葉を送って、この舞台を締めくくる事にしたのであった。
「・・・つぶちゃん、さようなら、俺の、〝乾拭キキ〟の物語は今日で終わりになるけど、願わくば、茂木田つぶ子の物語は遥かな未来まで輝き続ける事を、願ってる」
「・・・っ、キキくんっ」
「うん」
「───────大好き、この気持ちは、茂木田つぶ子が生き続ける限りに永遠に消えないものだから、だからありがとう、私に、恋する気持ちを教えてくれて、相手がキキくんだったから、〝私〟はとっても幸せだったよ」
つぶ子は最後に涙混じりの笑みで微笑んだ。
それが演技か本気かは分からないけれど、その微笑んだ顔にもう一度恋出来るくらい、魅力的な笑みだった。
俺はこちらこそと言おうとして、それは嘘になると思い、胸の中で血を吹くように暴れ出す乾拭キキの叫びを押さえつけながら背を向けて去ってゆく。
春風の中にさらわれた涙は、星の雫のように滴って、天の川の如くしきりに流れ落ちた。
「・・・ああ、本当に、キキくんの事────たいな、私の事、こんなにぐちゃぐちゃにしたんだから、責任取って貰わないとね、私はキキくんの全てを手に入れる、キキくんの譲らない気持ちと私の譲らない気持ち、どっちが上か勝負だね、・・・楽しみだなぁ、クライマックスはどんな結末になるだろう、どっちに転んでも、きっと最高の物語になるよね、〝私〟とキキくんの物語ならきっと、この胸がもっとときめくような最高のロマンスになるよね・・・」




