33.作戦会議
「あ、キキ、やっぱり来てたね」
「ゼン、それにケイ・・・、テスト期間じゃなかったのか?」
「そうだがお前が茂木田つぶ子の協力で課題をクリア出来ると言ってたからな、だったら定期ですらないただの実力テストよりもデビューライブの方が優先されるようになるというだけの話さ、ま、テストで赤点取ったらゴールデンウィークに補習になると言っていたが、アイドルデビュー出来るなら中卒でもいい話だからな」
「・・・ケイ、お前、日本でもトップクラスの名門校に通ってるのに、その地位を捨てるのは勿体無くないか、高学歴アイドルとか希少性クソ高いし、アイドルで成功出来るとも限らないのに」
ケイは日本の俊英たちが集まる、金持ちエリート育成の由緒正しきガチの名門校に通っている。
それは高い倍率と家柄の審査に通った人間だけが入学出来る、下手したら東大よりも狭き門であり、その学歴を捨てるのは客観的に見たらかなり惜しいと思うが、ケイはなんて事ない風にさらりとそう言った。
「別に名門校なんてただの肩書きだからな、俺は肩書きが嫌いだ、天才とかエリートとか、そういう下民の物差しで俺を測るな、別に俺は名門校に通わなくても俺だし、バカ校に通いながらでも東大くらいなら入れる、そもそもアイドルに学歴なんて要らないし、今の時代には学歴だって大した付加価値にならないだろう」
〝超高度人工知能〟の登場で、世の中にある多くの頭脳労働は既に淘汰されており、クリエイティブの分野ですらAIにお株を奪われつつある。
そんな世の中に於けるインテリの役割とは、既得権益という前時代に積み重ねた資産を運用したり分配する権力を得る為の補助輪、つまり官僚の出世と政治に携わるの為の道具でしかない。
今はまだAIに完全に社会や福祉を乗っ取られてないから学歴にも意味はあるが、あと数年のうちにAIが政治を管理するようになれば経営者や官僚も不要となり〝完全なる社会主義の管理社会〟となり、学歴は婚活くらいでしか役に立たなくなる見通しである。
だから数10年前ほどの前時代ほどには学歴に執着する理由が無いというのも確かなのだが。
「それはそうだけど、でも、名門校に入る為に受験とか学費とか色々と努力してきた訳だし、やっぱり勿体なくないか、そんな簡単に捨てられるような努力じゃないだろ」
少なくとも偏差値76の超名門校なんて、俺が演劇に幼少期を費やしたように勉強に打ち込まなければ到達出来ない領域だろう。
俺は母さんの自己顕示欲の為に中学受験をやらされたから多少は分かるが、中学受験の過酷さは高校受験の比じゃないくらい過酷で苦しいものだった。
志望校に受かる為に塾で机にかじりつくライバル達の気迫を今でも思い出せるくらい、中学受験は俺のトラウマだ、そんな子供達の頂点に立つような学歴をやすやすと捨てるのは理解し難い事だった。
だがケイは面倒くさそうな顔でこう言う。
「はぁ、別に俺からしたら大した努力じゃないし、〝学ぶべき事〟はもう学んだからな、だから学歴にはもうしがみつく理由も無いんだよ」
「学ぶべき事・・・?、なんだよそれ」
「世の中には東大や藝大をひと月足らずで中退する人間がいるだろう、あれと似たようなもんだ」
「・・・天才の箔付けだろあんなの、って事はケイは天才なのか?」
「俺は凡人だ、いや、凡人って事を理解させられた凡人って言った方が正しいか、それだけだ、おいキキ、無駄口はいいだろ、さっさとレッスンするぞ」
凡人って事を理解させられた凡人、ケイのその言葉は実感を持って理解出来る。
世の中には逆立ちしても、人生100週目で戦っても勝てないような才能を持った奴がいる。
そういう連中と同じ土俵で戦えば、食われるか脇役になるしかない。
だからケイはケイの持ち味を活かすためにアイドルになった、という事だろうか。
そう考えたら10年続けて人気もあった役者の道を捨ててアイドルになる俺もケイと似たようなものなのかもしれない。
その後俺たちは三人でレッスン室を借りてデビューに向けたレッスンをした。
いつものダンストレーニングの後、つぶ子との契約について俺は説明した。
「・・・なるほど、茂木田つぶ子のいう事なんでも聞く代わりに茂木田つぶ子に協力してもらえるって事ね、ふうん、土下座外交か、ちなみにどこまで協力して貰える予定なの?、動画出演は?、フェミニストツイートして炎上するのはアリ?」
「・・・まぁ交換条件だから、俺がつぶ子の足をぺろぺろしたり3回回ってワンと鳴けば並大抵の事は叶えてくれると思うが、俺としては俺たちのデビューライブを〝つぶ子との合同ライブ〟にして、つぶ子の付加価値で1万枚売り抜けばいいと思うんだが……」
「なんでもあり?、って事は俺たちのチャンネルを開設して、茂木田つぶ子にバニーガールで出演して貰って登録者稼ぐのもありって事か?、日和るなキキ、ここは限界まで俺たちに協力を引き出して、万全の状態でデビューするべき場面だろうが」
「そうだよキキ、僕たちの目的はデビューする事じゃない、トップアイドルになる事だ、茂木田つぶ子が踏み台になってくれると言うなら、限界まで踏み台にして僕らは羽ばたくべきなんだ、だから脱がそう、そして死ぬほど注目される為に茂木田つぶ子が僕らと三股してる事にして自分で証拠捏造して今すぐフラ〇デーに持ち込もう、そしたら僕らは被害者補正でほぼノーダメで、つぶ子を踏み台にして一気に有名になれる」
「名案だ、『大人気女優茂木田つぶ子、三股か!?』って、絶対ニュースになるだろう、あいつはおそらく将来は海外に行くからほぼノーダメだ、誰も損しない、現状における最高の作戦だろう」
「いや、待ってくれ、流石に炎上とかスキャンダルとか、そういうのは著しく迷惑かけるというか、向こうも断るだろうし無理というか」
いきなりとんでもない提案をしてきた二人を諌めるようにそういうが、二人は馬鹿を見るような目で俺に言う。
「あのね、普通に茂木田つぶ子が僕らを宣伝して、何人の人が僕らのライブに行こうと思うと思う?」
「え?、えーと、多分1万人は行くくらいじゃないのか?」
俺がそう言うと二人は鼻で笑ってから、諭すように答えた。
「そんな訳ないじゃん、茂木田つぶ子のファンは茂木田つぶ子が好きなのであって、茂木田つぶ子以外のものには興味無いからね、じゃあ例えばキキは、茂木田つぶ子でも桜梅桃華でもいい、彼女達が島根に旅行に行くと宣伝したとして、じゃあ俺も行こうってなるかな?」
「・・・いや、ならないけど、でも気にはなるんじゃないのか?」
「キキ、もっと深く考えろ、茂木田つぶ子が「何も無いけど島根はいい所です」と発言した所で、島根がラウンド〇ンすらない田舎という事実は揺るがない、だが仮に「島根に行く時はいつもプライベートビーチで全裸で遊んでます」と発言したらどうなると思う?」
「!?、いや、待て、それはつまり──────────俺たちをつぶ子と関連性の強いコンテンツにする、って事なのかよ!?」
確かにそうすれば、普通にデビューするよりも何倍も何倍も注目を浴びるのは間違いない。
本当に付き合っているのか、誰が本命なのか、どちらから関係を持ったのか、そんな話題で俺たちは注目を浴び続けられる事になるだろう。
「キキ、芸能界なんてしょせんスキャンダルが一番の飯の種になる、偽りの愛を売って金を稼ぐだけの虚構の世界だ、だったら最も高くなる方法で愛を売る、じゃないとお互いに損って話だよね、僕らはビジネスをしてるんだから」
「・・・っ、それは、そうかもしれないが、でも、俺は、つぶちゃんにそんな事は・・・」
たとえつぶ子の事を嫌いになったとしても、つぶ子から受けた恩義は絶対に裏切る事は出来ない。
だからつぶ子を騙すような事は、つぶ子の好意を利用するような事は出来ない、出来ないのだが。
───────でもあいつは、つぶ子の本体である筑前魅乃李は、別に俺の事を愛していない。
全部演技だ、おそらく何かしらの目的があって、俺を利用する為に俺に取り入った。
だからつぶ子の善意と恩義は裏切れないと思いつつも、交換条件ならば利用してもいいのかもしれないと、そんな気持ちも少なからずあった。
「なぁキキ、どうせ茂木田つぶ子の人気だって長続きはしない、永遠に咲き続ける花が無いように全盛期を迎えた花は枯れるだけだからな、だから今俺たちが輝く為につぶ子を糧にするのは、茂木田つぶ子の為にもなるって話だ」
「つぶちゃんの為・・・?」
「ああ、女なんて所詮若いうちだけが花で、若さを売って結婚して利確するだけの人生だからな、だが男は違う、50になっても60になっても〝アイドル〟を続けられるし、その影響力を利用すれば政治活動や起業など、あらゆる面でも人生を切り開ける。茂木田つぶ子が女優として稼げる生涯賃金なんて所詮数十億、外国で活躍して数百億程度の話だが、俺たちがトップアイドルになれば数千億稼ぐ可能性だってある、そうなれば茂木田つぶ子がババアになっても女優として雇う事も出来るって話だろ」
「・・・そんなの、理想論じゃないのか、そもそもつぶちゃんは金とかモノに執着は無さそうだし、もしかしたら女優続ける事にだってそんなに執着は無いかもしれないのに」
「まぁ何がその人にとっての幸せかなんて、他人に分かる物じゃないだろうが、でも、このままズルズルと年老いて女優として斜陽の人生を送るくらいなら、どこかで花火を打ち上げて、強烈に人々の記憶に残る人生の方が幸せだと思うぞ、女優に執着が無いなら尚更な、だってそうだろう、100回モブ役を演じて1億稼ぐのと1回ヒロインを演じて1億稼ぐの、どっちが楽しいかなんて明白なんだからな」
「──────────っ」
つぶ子は嘘じゃない本当の恋をしたいと言っていた。
それはつまり、フィクションの恋を100回するよりも、俺と芸能人人生を賭けた一度きりの本気の恋をしたいという気持ちの表れ、なのかもしれない。
なのだとしたら俺という人間と恋をした後のつぶ子は女優を引退してもおかしくない。
なら仮にありのままに全部話したとしても、つぶ子は俺たちの依頼を受けて、役を演じてくれるかもしれないと、俺はそう思った。
「・・・ま、ケイのフェミニストが発狂しそうな理屈は置いといて、現実問題として、茂木田つぶ子を一番有効活用するならスキャンダルしかないし、それに普通にデビューしても桜梅桃華のいる今のアイドル業界に風穴を開けるなんて無理だよね、だから何かしらの手を打つ必要がある。もし仮にキキが茂木田つぶ子を利用するのが嫌だと言っても、だったら僕らは他の女優やアイドル相手にスキャンダルを出しまくるだけの話だし、身内で女優の茂木田つぶ子とそれ以外の芸能人、どっちとスキャンダルした方が得かは明らかだよね」
「・・・っ、得とか損とか、お前らそればっかだな。・・・確かに損得で考えないと〝上〟には行けないのがしれないけど、でもアイドルって、・・・っアイドルだけは、そういう社会の残酷なルールとは違う存在であるべきじゃないのかよっ!!」
アイドルという〝夢〟だけはこの世で最も美しく綺麗なものでありたいと、そんな風に崇高に思う憧れだけは理屈だけでは無くせないものだった。
そんな俺にケイは失望し、ゼンは冷たい目で、冷めた声で死を宣告するように言った。
「・・・別にキキがどんなアイドルを目指してどんなアイドルになっても僕はそれを否定しないよ、でも僕もケイもこういう生き方しか出来ないし、トップアイドルになれないならアイドルやる意味も無い人間だ、だからキキ、あとは頼んだよ、茂木田つぶ子の靴でもケツの穴でもしゃぶって僕らと三股するように交渉して。それが出来ないなら僕らはアイドルを降りるから」
「なっ──────────」
そう言ってゼンとケイはレッスン室から出ていく。
結局俺はその日は家に帰る気にもなれず、事務所に宿泊したのであった。




