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恋が人を食う〜天使くんと恋愛頭脳戦する怪物の子〜  作者: くびつりのこびと
エピソードI 【フィクションの恋】
33/49

32.父親のあと

「Oh、キキボーイ、今日はホリデイするって聞いてたのに来たんだね、もしかしてMeが恋しくなったのKANA?、HANAZAWA?」


「・・・今日は、その、道に迷って」


 気付けば俺はジョリボーイズの事務所まで来ていた。

 無意識でここに来た理由は分からないが、そんな俺にジョリーさんは上機嫌な笑みを浮かべて歓迎してくれた。

 キテレツなじいさんだが、それでも俺を必要としてくれてるジョリーさんの存在は、今の俺には心地よかった。

 そしてそんな俺にジョリーさんは察した風に首を傾げる。


「POW、何かお悩みのようだNEN、Meはこれから用事があるからキキの話は聞いてあげられないけど、夜はいつでもウェルカムカモーンヌ、じゃあ折角だし、さっちんに話を聞くといいYON、さっCHINCHIN、Heyカモーンヌ、アズサンが困ってるみたいだっCHA、相談にのっTEA」


「OKジョリーさん、任せてください!!。えーと、キキ、君も思春期って事なのかな?、何でも相談してくれていいよ、〝課題〟の事も最低限なら手伝っていいとも言われてるし、僕には何でも言って欲しい」


 さっちん、『TempeStars』のリーダー、甘露子(ちょろぎ)颯稀(さつき)は事務所から出ていくジョリーさんと入れ替わるように俺の前まで歩み寄る。

 今まで来週末のライブに向けてレッスンをしていたのだろう、服が張り付くほどの汗を滲ませながらも、爽やかな笑顔で俺に微笑みかける。

 紛れもないトップアイドルの微笑みだ、それだけでもファンなら飛び上がって失神するほどのサービスだし、それが俺一人だけに向けられたものであるというのは、身に余るような贅沢(ぜいたく)だった。


 俺はその笑顔を見て、その眩しさに視線を逸らしつつも、少しだけ冷静になった頭で父親と話す事にした。


 きっと自分の望む答えは出てこないと思いつつも、父親の裏表のない善意の微笑みを見て、父親に甘えてしまいたいと、心でそう思ったのだ。


 自販機近くのベンチに座って、俺は父親と向き合った。


 第一声は無意識に自然とこぼれた。


「あの、さっちん・・・颯稀さんは、どうしてアイドルになろうと思ったんですか」


 とても踏み込んだ質問だし、アイドルを目指す人間がトップアイドルにする質問としては失礼かもしれないが、今の俺にとってはそれが知りたい事だった。

 父親はその質問に意表を食らったような顔をしながらも、真剣に悩んでから答えてくれた。


「アイドルになろうと思った理由かぁ、なんだったかなぁ。・・・・・確かジョリーさんにスカウトされたから取り敢えず初めて、最初は大変だったけど人気出たからなんとなく続けてる、って感じかな、特に自分からやりたいとか、何か特別やりたいみたいな理由は無かった気がする、僕は知っての通り歌も踊りも演技力も全部大した事無いからね、アイドルとしての才能なんて顔くらいだし、顔だけで飯が食えるからアイドルやってるっていうのが正しいのかな?」


 それはつまり顔だけでトップアイドルになったとでも言うような自惚れにも聞こえるような話だが。

 だが『TempeStars』は過酷なアイドル戦国時代を勝ち抜いた歴戦のアイドルだし、それにさっちんはファンサービスやその愛嬌、天性のトークスキルと愛されるキャラクターで『TempeStars』で一番の人気者だ、努力家で人気者になって当然の人間だから、その発言もさっちんのキャラクターなら謙遜(けんそん)に聞こえるような話だった。


 でも俺の求めている答えでは無いので俺はもっと踏み込んで追求した。


「・・・それだけですか?、芸能界ってもっと大変な所ですよね、気持ちや実力だけじゃどうにもならない世界で、そんなバイトみたいな覚悟でやって行けるんでしょうか?」


 少なくとも俺には真似出来そうにないメンタルなので、反論するように追求してしまうが、父親はそんな俺にも嫌な顔せずに答えてくれた。


「はは、確かにね、きっとこんな軽い気持ちでアイドルやってるなんて知ったらファンはみんな僕に幻滅するんだろうな。・・・でも、こんな事言うと嫌味に聞こえるかもだけど、僕はトップアイドルになりたいとか一度も考えたことなんて無いんだ。有名になりたいとか、お金持ちになりたいとか、そういう気持ちも無い訳じゃないけど、でも何よりもアイドルやってる事が楽しくってさ、僕って元々何の取り柄も無い、いや、顔しか取り柄の無い子供だったんだ、だからモテるにはモテたけど、長続きしなくてフラれてばっかだし、妬まれて虐められた事もあったし、誰も僕を本気で好きになってくれなかったんだ」


「意外ですね、颯稀さんなら子供の頃から人気者だったって、ずっとそう思ってました」


 なんとなくほんの少しだけ、俺は父親の境遇が今の自分に重なったような気がした。

 誰からも好かれないというのは、今の俺には急所と言えるくらい刺さる言葉だったからだ。


「・・・でもアイドルになったら僕の顔が良くてモテるって部分が人から認められるステータスになった、だから天職だったんだろうね、普通の仕事だったらモテる事は他人の利益を横取りするような妬みの対象になるけど、アイドルならモテればモテる程それを評価される、沢山の人を(とりこ)にした分だけ上に行ける、だから僕はアイドルになって楽しかったし、アイドルやってて良かったって、そう思ってるよ、だから始めた理由も続けてる理由も適当だけど、適当だから続けられたって言うのかな」


 確かに、初めから「1番を目指す」とか「トップアイドルの後継者になる」という高過ぎる目標で継続するのは大変だろう、だから父親のその言葉は無責任で適当と思いつつも腑に落ちるものがあった。


 ここで得られた結論とは、俺と父親はやはり、別の生き物であるという事だ。

 だから俺はアイドルになっても父親のようにはなれないのだろうと悟ってしまった。


「・・・なるほど、参考になりました、颯稀さん、ありがとうございます」


 俺は(うやうや)しく頭を下げる。


「どういたしまして、キキ、これからも相談ごとがあったらいつでも相談してね。・・・そうだ、あっきーから聞いてるよ、学校の舞台で共演するんだって?、絶対見に行くからね」


 あっきー、銀鍔逢姫、芸名白月ユキの事だろう、プライベートでフランクなやり取りをする程度にはこの二人は親子の繋がりがあると言うことか。

 父親は世間話のような調子でそう言うが、俺は事務所のトップアイドルとプライベートに踏み込んだ長話をするのが気が引けたのでなんでもない風に手短に会話を打ち切った。


「分かりました、恥をかかないように善処します、っと、そろそろ休憩は終わりでは無いですか?、お時間を取らせて頂き感謝します、ではまた、よろしくお願いします」


 俺は慇懃無礼(いんぎんぶれい)に簡潔に礼をして頭を下げる。

 父親も俺が心を開いてない事を感じつつも、苦笑しながら頷いた。


「うん、また、いつでも相談してね、じゃあ」


 父親はキラキラとしたウィンクをするとレッスン室に戻って行った。


 俺は父親の背を見送りつつ、自販機からお茶を購入してそのままベンチで時間を潰した。

 レッスン室は空いているので使用してもいいが、一人で使用するのが億劫(おっくう)でやる気が出なかった。

 だから俺は何もしないを続けて時間を潰していた。

 すると間もなくして新たな来客がやって来た。

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