30.プレミアムウェンズデー
「キキくん、ユキちゃんから聞いたよ、主役、引き受けてくれるんだって」
「ああ、うん、当日はちょっと予定が怪しいんだけど、でも強力な代役が立てられそうだから、取り敢えず引き受ける事にしたよ、だからもしかしたら当日は出られないかもしれないけど、その時は俺よりもっとすごい代役が来るから安心してね」
既に俺が主役を引き受けた事が広まっていたのか、教室に入るなり委員長の衛守さんを筆頭に数名の女子が目を輝かせながら俺に詰め寄る。
それと同時に何人かの男子は気に入らない様子だが、だがヒロイン役の白月ユキのご所望が俺だった故に、誰も立候補する事は出来なかったからだろう、なし崩しで俺が主役に選ばれたのが不満なのは当然だ。
だから俺は話題を逸らすように衛守さんに聞いた。
「それで、早速なんだけど、劇の方向性はどうするか決めたかな?、2.5次元とか、ミュージカル風とか、色々と案があったと思うけど」
「ああうん、それね、キキくんとユキちゃんが主役なら上級生にも張り合える劇が出来ると思うし、どうせなら今までにないようなオリジナルをやろうかなって話になったんだ、それで今日の放課後、また皆で会議しようって話になって、ユキちゃんはどうせやるなら観客を驚かせるような仕掛けが欲しいって言ってたし」
一年生のうちから冒険したいと思うのは向上心の表れか、それとも主役が俺と白月ユキだから気が大きくなっているのかは分からないが、まぁどうせ出るのは俺じゃないし、好きにさせればいいか。
主演がつぶ子ならば、その時点で成功するのは〝確定〟したような話だ、なら脚本がどんなものでも何も問題無いだろう。
その後の会議は長くなったので割愛するが、結論を言えば2.5次元ミュージカル風アクション即興劇という、主役に全部無茶ぶりした「意見まとまらないなら全部やるか」のノリで、各生徒がそれぞれやりたい事や演出を脚本に盛り込んで、それを役者のアドリブで軌道修正するという、間違いなく破綻する、初めてバイキングに来た小学生が全部盛りしたみたいな話で決着した訳だが。
まぁどうせやるのは俺じゃないからいいかと、俺は全ての意見に対して「面白そうだね」とええカッコしいで特に否定せずに受け入れたのであった。
そしてその日も俺はどうせ事務所に行ってもケイとゼンはサボっているので、俺もレッスンは休むとマネージャーに伝えて、そのままスーパーに寄って夕飯の買い物をしてから帰宅する。
月曜は麺類、火曜は鍋、水曜は和食、木曜は魚、金曜日はカレー、土曜は洋食、日曜は中華というローテで自炊を回している訳だが、セール品の食材で作れる他の料理と違い、和食は野菜もあまり使わないし、きんぴらは手間がかかるし、焼き魚とかは旬じゃないとあんまり美味しくないし、寿司と天ぷら以外で料理を作ろうとすると、中々献立に悩むジャンルだった。
一応味噌汁をつければセール品のコロッケとか卵焼きなんかを主菜にした献立でも和食感は出るのだが、スーパー惣菜はあまり味付けが自分の口に合わないので、人生の娯楽が食事くらいしかない俺としては、自炊はいつでも拘りたい所だった。
スーパーではいくつかの野菜と鶏肉が安売りされていたので、ならばと俺は一つの日本料理を今日の献立に選ぶ。
「筑前煮、作るの初めてだけど、つぶ子が好きそうだし取り敢えず作ってみるか」
煮物は時間がかかるから普段は作らないが、今日は放課後に居残りしたとは言え珍しく家に直帰するので普段より3時間は早い帰宅だ。
だから時間が余ってる時くらい手間のかかる料理を作ってみるのもいいだろう。
俺は買い物を済ませると足早に家へと向かったのであつた。
「ただいまー・・・って、──────────え?」
家に帰った俺は衝撃にスーパーの袋を地面に落とした。




