2.乾拭キキは新人アイドル
「Hum・・・、Youたちイケてるflow、ブレイクの予感がするNON、それじゃあ君たちのグループ名は『STAMPofVenus』、〝女神の推し〟で行くことにするYAHN」
俺は所属するアイドル事務所の社長室で、これから結成するグループの説明を受けていた。
中年にしてキテレツな個性の強い社長、ヴェンジョリス夢山、愛称ジョリーさんはそんな風に社長室に集めた俺たちにここでグループの結成を通達したのであった。
そしてそれに対して俺の隣りに立っていた男が勢いよく返事を返した。
「ありがとうございますジョリーさん!!、女神の推し、すごく素敵な名前だと思います、名前負けしないように、これから誠心誠意高みを目指して頑張ります!!」
男の反応はアイドルの鑑のように溌剌として抜け目無いアピールであり、ここに集められたもう一人の男も慌ててそれにならって所信表明し、俺は最後に「頑張ります」と小さく頭を下げてそれに追従した。
それに対してジョリーさんは興味も無かったのか、特に返事をする事も無く俺たちに退出を促す。
「OKジョリボーイ!!、ま、今の所は及第点と言った所かnyan、これからはmeのプロデュースで君たちをスターにしてあげるから、全力で頑張るんだneru、もう出てっていいよ・・・あ、キキボーイは残ってくれるKANA、HANAZAWA、君には〝個人レッスン〟をしてあげたいから、ne☆」
ジョリーさんはそう言って中年のジジイがするにはキツすぎるウインクをして俺にだけ居残りを命じた。
それに対して俺の仲間になる男は食い下がるようにこう言った。
「待ってください!!、個人レッスン!俺にも受けさせてください!!、なんでもやります、絶対社長を満足させて見せます!!、だから俺にも個人レッスンを受けさせてください!!」
それはジョリーさんの持つ〝権力〟を考えればアイドルとして当然のアピールであり、新人アイドルとしては当然の行動だ。
10数年前、日本の男性アイドル業界を仕切っていたとある事務所はある不祥事という闇が明るみになった事で衰退し、そこからアイドル戦国時代を経て今の勢力図が築かれて、その中で今の男性アイドル業界の頂点に立つのがジョリーさんが築き上げた芸能プロダクション、『ジョリボーイズ』だからである。
つまりジョリーさんは今の芸能界でも屈指の権力者であり、ジョリーさんに気に入られるか否かが男性アイドルの進退を決める大きな要因であり、世の男性アイドルの多くはこぞってジョリーさんに気に入られようと必死な訳であった。
俺はジョリーさんに頼み込んだ男の姿を横目に見つつ、やぶ蛇をつつかないようにと傍観していると。
「NON、君はMeの好みじゃないよ、fuckoff、早く出ていって欲しいNARUHAYA、Meの個人レッスンは安売りしないんDIE!!」
ジョリーさんは少し威圧的な態度で男を追い出して、そして、部屋には俺とジョリーさんだけが残されたのであった。
そしてジョリーさんは、部屋に残った俺に密着して耳元でこう囁くのである。
「ハァハァ、Fooooooo〜☆、どうだい、Meの集めたチルドレンは、気に入って貰えたKANNA、HASHIMOTO?」
「・・・ええ、ですが俺は5人組を頼んだはずですが、あと二人足りないように思えますがどういう事でしょう」
「5人組、パパを正面から倒して、トップアイドルになりたいという君の気持ちは分かるYO、でも、Meがプロデュースしたいと思えるような、そんな〝逸材〟が見つからなかったからNEN、だから一先ずは3人組でデビューして、後から有望な新人を加入させるのが一番だと、Meは思っただけだっcha」
「・・・なるほど、だったら〝約束〟は、まだ履行されていないという事で構わないですね」
「fow!?、それは無いhoi、今までも散々君に尽くしてあげて、それでもお預けを食らっていたのに、まだお預けをするなんてイケズだrun、せめてキスだけでもしておくれっpika!!」
「未成年にセクハラですか、いいんですよジョリーさん、ここであなたが僕に手を出すなら、僕はあなたに〝恋〟をする事もなく、全てを暴露してあなたを犯罪者に仕立て上げたって」
「SIT!!Meは自由恋愛しかした事は無いよ!!、Meはジャ○ーとは違う、彼らとは違うんDAI!!、だから嫌がる子に無理矢理なんて絶対しないNON!!」
そう言ってジョリーさんは今まで俺の股間をまさぐって耳元に臭い吐息を吹きかけていたにも関わらず、何事も無かったかのように離れた。
俺はそんなジョリーさんに向けて淡々と言ってやる。
「ジョリーさん、約束の条件は〝俺がトップアイドルになる事〟だけです、現トップアイドルの息子が次期トップアイドルになる、それは芸能界でも稀に見る大きなドラマになるでしょう、それをプロデュースする日まで、僕があなたに〝恋〟をする事はありませんから」
それが俺の目的、今の俺が生きる理由、死んでも果たしたいたった一つの願いだ、その為なら俺はなんだって利用する覚悟があった。
「・・・君は相変わらず、父親に似て食えない男だnen、でも、そんなところがキュンだyoi、父親譲りのその強かさ、ますます恋しちゃうnari!!」
これで〝個人レッスン〟は終わりと告げるように俺は社長室を退出する。
ジョリーさんはそんな俺に後ろから投げキッスを浴びせてくるが、俺は振り返らずに無言で退出した。
──────────6年前、母親がジョリーさんを脅して天使くん役をゴリ押しでぶんどった時から俺とジョリーさんの〝関係〟は続いていて、子役事務所からジョリボーイズに移籍した今の俺は事務所の道具であり奴隷であり、ジョリーさんの〝お気に入り〟になっていたのである。
子役時代に長らく芽の出なかった俺は、ジョリーさんの〝権力〟によって成功を掴んだ、故に俺はジョリーさんには一生かけて返すような恩があったという訳だ。
一応の補足として、ジョリーさんは事務所の所属アイドルに手を付けて入るものの、未成年にはギリギリ手を出さない理性があり、犯罪になるような行為はまだ行われていないとされる。
某大手事務所の失墜によって、今の芸能界は10数年前よりコンプライアンスが厳しくなっており、それ故に未成年への犯罪行為は一発で人生が終わるレベルの重罪になっているからである。
と言いつつも、劇中の演技や役、その為の指導と言った名目でなら、それらの行為の線引きが曖昧になって、そういう行為が芸能界に全く無いかと言えばそんな訳はないが。
だから俺はジョリーさんの〝お気に入り〟として、6年前からずっとジョリーさんの奴隷として飼われていたのであった。