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恋が人を食う〜天使くんと恋愛頭脳戦する怪物の子〜  作者: くびつりのこびと
エピソードI 【フィクションの恋】
29/49

28.おやすみから墓場まで

「キキくん、本当にリビングで寝るの?、一緒に寝ようよ」


 つぶ子は俺の貸したTシャツと短パンを着て爆弾を投下するようにあざとい事を言う。

 大分ラフで露出度の高い格好をしているが、母さんの箪笥(たんす)から失敬した洗濯済みのブラトップのキャミソールと使用頻度の低そうな白パンツを着てもらっているので、急なお泊まりだが下着もちゃんと着替えているし、普段洗濯している母親の下着のデバフのおかげで、つぶ子の溢れんばかりの魅力と色気もギリ直視に耐える事が出来た。

 風呂上がりで少し茹で上がった、同じシャンプーを使っている筈なのに何故か魅了する効果を感じるつぶ子から漂う匂いに理性を悩殺されそうになりつつも、ギリ踏みとどまって背を向ける。


「流石にこの歳で一緒のベッドは無理だよ、俺のベッドシングルだし、シーツは洗濯した奴に替えといたから遠慮なくベッド使って、じゃあ俺は明日も学校あるから寝るね、おやすみ」


 俺はソファーもないリビングに冬用の布団とシーツを敷いて横になる。

 ちょっと硬いが、まぁ温かさは丁度いいくらいか。

 そう思ってリモコンで電気を消してさっさと眠ろうとするのだが。


「キキくん、もう少しだけ、お話しよ、いいよね、今日は特別な日なんだし」


 そう言ってつぶ子は布団(半分は床だが)に潜り込んで来た。

 布団の中で密着という距離感は、恋愛ド初心者の俺にとっては自然と全身が硬直するような緊張感だが、つぶ子はそんな俺にも構わずにあざとい事を言ってくるのであった。


「えへへ、お邪魔します、男の子と一緒に寝るの初めてだからドキドキする、こんなドキドキを毎日するなんて恋人って大変だね、一緒にいるだけなのに、ドキドキが止まらないよ」


 近い。


 本当に近い。


 風呂上がりの香ばしく揮発(きはつ)したフェロモンが鼻に直撃するレベルで近い。


 なので俺はつぶ子を引き離そうと布団を被って背を向けるのだが、つぶ子はお構いなしにと布団の隙間から潜り込んで密着して今度は抱きついて来た。


 柔肌の感触と、高い体温、そして気が狂いそうになるほどの甘い匂いを五感で感じる。


「・・・っ、つぶちゃん、もう寝るって言ってるのに、何がしたいの、寝させてよ、おやすみって言ったじゃん」


 俺は胸の昂りを抑えながら、絞り出すような声で言った。


「別に、キキくんがしたい事があるならなんでもしていいよ・・・、交換条件だからね、私はただもっともっとお話がしたいだけ、私が知らないキキくんの事、沢山教えて欲しいな、そしたら私、もっともっとキキくんの事が好きになれると思うから」


「お話なら、別に明日でも明後日でも、いつでも出来るよね、今日は寝させてよ、あと、布団にに潜り込んでくるのは禁止、俺はアイドルだから、スキャンダルになりそうな火種とは無縁でいたいから」


 俺はギリギリ残った理性をかき集めてつぶ子をもう一度引き剥がした。

 多分一線は越えないだろうけど、つぶ子への好きを自覚した今、つぶ子の好き好き攻撃に理性が耐えられる自信は無い、ここからまたキスくらいならいいかと踏み外してしまうのはほぼ確だ、だから自己防衛の為につぶ子から距離を取って、線引きをした。

 俺が野良猫のような警戒心で距離を取った事でつぶ子もやり過ぎたと思ったのか、切なさを感じさせるような色っぽい声音を出しつつも、大人しく引いた。


「あぁっ、もう、・・・分かったよ、でも、お話はして欲しいな、二人きりになったら話したい事、私は沢山沢山あるんだ」


「じゃあ、3分だけね、終わったら寝させて、疲れてるから」


 と言いつつも、昨日までの悩みの種だった課題は解決しそうだし、寝不足になっても演劇の座学の科目で保健室に行くなりして補填すればいい、今日くらいは夜更かし上等と言った所だが、ただ生活リズムを崩すのは好ましくないので、今のしかかる睡魔には抗いたくなかった。


「3分・・・分かった、ねぇキキくん、キキくんは小さい頃、どんな子供だった、アイドル目指す前の夢は何?、何が好きで何に憧れていた?」


「子供の頃、か、あんまし覚えてないな、母さんとずっと一緒だった事と、誰にも言わないで欲しいけど、10歳くらいまで母さんと一緒に寝てた事と、それまでは一人で夜にトイレに行けなかった事、そんな怖がりで、周りより自立心の低い子供だった、憧れとかはなんだろう・・・、やっぱりアイドルかな、母さんがいつも見てたから、俺も自然に好きになったっていうか、俺は多分、小さい頃からアイドル一筋だったと思うよ」


 昔の俺に聞いても、アイドル以外のなりたいものなんて答えられないと思う、そんなレベルで俺は母さんの影響を受けて人生をアイドル1本の道へと絞られていたように思える。


「じゃあキキくんってもしかしなくてもマザコン?、好きな女の子のタイプとかも、お母さんみたいな人だったりする?、だとしたらかなりハードル高いなぁ」


「・・・まぁマザコンは否定しないけど、親が子を想うように、子が親を想うのは当然の事でしょ、たった二人きりの親子だったんだから、そら普通の家族より大切に思うのは当然かな、好きな女の子のタイプは・・・秘密、でも確実に言えるのは母さんみたいなタイプだと付き合うのはものすごく大変そうだから、母さんみたいなタイプはナシ、かな」


「意外だね、キキくんなら「将来はお母さんと結婚する」くらい言っててもおかしくなさそうなのに」


 その質問は親側が「将来どんな人と結婚したい?」と質問するシチュエーションが無いとそもそも起こらないが、母さんは俺が天使くんでブレイクするまでスパルタの鬼だったので、そんな普通の親子みたいな(ぬる)い温度感で親子はしてなかった故に意外とそういうシチュエーションには一度もならなかったのだ。


「あはは、普通の親子ならそうだったかもね、でも俺は、優しい母さんだけじゃなくて厳しい母さんも知ってるから、母さんと結婚したいみたいには思えなかったなぁ」


 酒癖が悪くて自己主張が強くて自分が悪くても〝絶対に〟謝らない。

 母さんのいい所は10個くらいは言えるが、悪い所なら1000は余裕で言えるくらいエピソードの貯蓄がある。

 自分が深酒して寝坊したのが原因なのに、「タクシーがちんたら走ってたせいで遅刻した」と(のたま)えるメンタルの持ち主は10万人に1人の資質と言っていいだろう。

 故に幼心に俺は、母さんは手本にしてはいけない人間なのだと早いうちに学習していたのであった。


「そっか、じゃあ今はどんな女の子と結婚したい?、どんな女の子でも、私ならキキくんの好みに完璧に合わせられるよ、だから教えて欲しいな」


 確かにつぶ子ならば、俺が求めてるキャラを完璧に演じるのだろうと思いつつも、自分の中に求めるイメージはしっかり考えてみても存在しなかった。


「・・・そういうのはあまり考えた事は無いけど、でも、強いて挙げるなら妹みたいな子、かな・・・、もしも俺より苦労してて、俺より悲惨な目にあってて、俺より愛に飢えている子がいたら、その子を世界一労わって、優しくして、これまでの人生の帳尻合わせが出来るくらい、愛してあげたいな・・・なんて、思ってるからきっと、愛されなくて愛を求める誰かの為に、アイドルになりたいと思ってるんだと思う、・・・3分経ったね、おやすみ」


 俺はそれで会話を打ち切るようにして布団を被った。


 まるでホストみたいな主張だなとか思いつつ、それでも俺は自分より不幸な誰かを愛して、そんな誰かから沢山愛されたいという願望を持っているのは事実なので、これが俺の起源の原動力になるのは確かなのだろう。


「愛されたい誰かを愛してあげたい、か、・・・だったら、私にも、その資格はあるって思っていいのかな、おやすみ、キキくん、また明日」




 その日は緊張して眠れなくなるかと思いきや、意外にも普通に眠りについた。


 そしてその日、俺は夢を見た。


 どんな夢だったかは定かでは無いが、目が覚めて胸が苦しかった事から、きっとよくない夢見(ゆめみ)だった。


 何かに追われるような、怖いものに襲われるような、奈落に堕ちてゆくような、そんな負のイメージが寝起きにこびり付くようなひどい夢だった。


 それはきっと、これから始まる同居生活が俺にとっては波乱になる事を警告していたのだろう。


 でも俺は、それでもつぶ子の手を掴んだ事を、つぶ子と一緒に居た事を、後悔するとは思わなかった。

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