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恋が人を食う〜天使くんと恋愛頭脳戦する怪物の子〜  作者: くびつりのこびと
エピソードI 【フィクションの恋】
24/49

23.敵わない本質

「それじゃあキキくん、放課後デート、どこに行こっか」


「・・・普通の高校生がするなら、映画とかゲーセンとかじゃないかな、制服じゃなければもう少し選択肢もあるだろうけど、制服だと目立つから人の多い所は行けないし」


 どこまで本気かは分からないが、つぶ子は〝放課後デート〟がご所望のようだ。

 昨日の延長なのか、それとも俺を誘い出す口実なのかは分からないものの、有名人のつぶ子を連れて遊びに行ける選択肢はそんなに多くないだろう。

 仮に都心の中心街に行けば昨日の比じゃないくらいの人間に囲まれるのは確実だ。

 だから近場にある学生の人気スポットでもあるモールの映画館辺りが妥当か。

 少なくとも同じ学校の生徒ならばつぶ子を囲んだりしないし騒いだりもしないだろう。


 そう思って映画館を提案しようとしたら白月ユキが口を挟んで来た。


「映画館か、私はあまり行かない場所だね、何かオススメとかあるのかい」


「・・・オススメしたいほど見たい映画がある訳でもないけど、もし今日見るとしたら『桜の恋歌』かな、監督が古川誠監督の弟子らしいし、評判もいいから」


「ああ、あのアニメ映画の、確か主演が西京もみじちゃんだったよね、私も去年オファー来てたからちょっと覚えてるよ、確かヒロインが歌う度に時代が遡るお話だっけ、面白そうだよね!」


 西京もみじ、つぶ子ほどでは無いものの元人気子役なので俺やつぶ子からしたら顔見知り以上の相手ではある。

 ちなみに俺もギリギリで世間からは人気子役として認知されているほぼ人気子役である。


「ふーん、二人とも役者の割には流行りの映画はあまり見ない感じなんだね、『桜の恋歌』は大ヒットだと話題になってたと思うけど、公開から1ヶ月近く経つのにまだ見てないんなんて意外だ」


「私はドラマの撮影とか海外オーディションで忙しかったし、日本に帰ってきたのも実は先月の話だったから、だから日本の事情にはまだちょっと疎いんだ」


「・・・俺はアニメ映画はたまにしか見ないというか、アニメ自体あまり見ないからね、多分こういう機会でも無ければ見ようとは思わなかったかな、基本は一人で洋画とか見てるし」


 近年の傾向的に日本では海外で賞を取るような本格派映画は売れず、売れないから予算も下りない。

 だから俳優としての成功を目指すならば海外に行かなくてはアカデミー賞はかなり遠いというのが実情であるが故に、必然として俺は子役時代から洋画ばかりを見るようになったし、つぶ子も子役卒業を機に活動拠点を日本から海外へと移しているという訳だ。


「なるほどね、じゃあ今から映画館に行くのかい?、私としては、どうせ見るならつぶ子くんの出ているのが見たい所だけど、確かまだやってたよね、『お嬢様のお気に召すまま』の映画」


「私、自分の出てる映画は見たくないかな、恥ずかしいし」

「それはもう5回見たからもう全部覚えてるし、いいかな」


 『お嬢様のお気に召すまま』、漫画原作の実写版だが、超万能のメイドがお嬢様のワガママやあらゆるトラブルを一人で解決するスパダリ系のストーリーであり、つぶ子は主役のメイドとしてアクションからお色気シーンまで一人でこなして漫画原作実写映画の歴史を塗り替えるレベルのヒットを飛ばして現在公開30週目にも関わらず、未だに配給が途絶えない異例の作品である。

 それはつぶ子の役者としての現在地点を如実に表したものであり、つぶ子がスーパーアルティメットゴッド最強女優であるという実力を遺憾無く発揮したものだ。

 お色気シーンではその瑞々しく健康的でしなやかに引き締まった肌を惜しみなく見せつけていたにも関わらず、アクションシーンでは全く隙の無い所作と人間離れした曲芸という技術でまた魅了して、見終わった頃には全ての人間が茂木田つぶ子の名前をその魂に永遠に刻む事になるという、そんな映画だった。


 その映画の品評を感想を交えながらつぶ子とやってみたい気持ちも多少はあるものの、俺はもうアイドル一本でやると決めたし、つぶ子自身は〝演じ終わった役〟には興味が無いらしく、基本的に自分の演じた映画は見ない主義らしい。


 なのでつぶ子の主演の映画を見る事はつぶ子とのデートでは避けるべきだろう。

 俺たちが即答で拒否する様子を見て白月ユキは拍子抜けしたのか、つぶ子を挑発するようにこう言った。


「へぇ、意外だね、自分が主役の映画なら普通自慢したくなるものだと思ったけど、つぶ子くんにとっては違うという事か、世間の評判ほどキミはこの映画をいいものだと思っていないのかな?」


「まぁね、私の中ではもう〝終わった役〟だし、世間に褒められても、それは〝昔の私〟の事だからしっくりこないっていうか、今の私が理想とする演技と昔の私が理想とする演技は同じじゃないから、だから〝今の私〟からしたら取るに足らない駄作だからね」


 自分が出演した作品、それも出演として大ヒットした作品を駄作と呼ぶ役者など、世界中でも茂木田つぶ子ただ一人の事だろう、しかしつぶ子はそれを平然と当たり前のように言ってのける。


「・・・なるほど、社会現象とまで言わしめた作品すらも君にとっては取るに足らない駄作という訳か、なるほどなるほど、どうやらボク・・・私は、キミの事をもっと好きになれそうだ」


 つぶ子の発言に得心したように白月ユキは頷いて上機嫌に笑みを浮かべる。

 普通に考えたら普通の天才女優ならキャリアのピークと言えるような成功を収めたのだからそれを駄作と表現するのは自惚れが過ぎる様な大言壮語である。

 でもそれが天才女優、茂木田つぶ子の本質だ。

 彼女は誰よりも演技にストイックであり、演じる事を自然に行っている。

 だから仮に限界があったとしても、そこを天井にはせずに、スタート地点に設定して、常にゼロから演技を組み立てている。

 だから過去に執着しないし、つぶ子の演技には脇役として埋没するような記号化されたキャラクターという属性の一貫性や普遍性はなく、常に一番に輝くような〝個性〟が光っているのだ。

 それが天才女優、茂木田つぶ子の演技の方程式だ。


 今この時間を生きている俺達にはつぶ子の演技の凄さを本質では理解出来ないだろう。

 でも100年後、1000年後の人間がつぶ子の演技を見た時に、それはシェイクスピアのようにあらゆる要素を内包し、そして空前絶後を網羅(もうら)するような表現の多彩さに舌を巻く事になるのだと思う。

 時代を〝これまで〟と〝これから〟に塗り替えるかもしれないレベルの天才、それが茂木田つぶ子なのだと、俺は評している。


 だから俺はつぶ子と競うような役者の道は諦めたし、そんなつぶ子が俺に恋をする事など有り得ないと、どれだけあざとい事を言われようとも本質で理解していたのであった。


 ・・・結局俺の演技は全てつぶ子の模倣であり、〝天使くん〟というキャラクターを土台にして、受け手が違和感を感じないような自然な演技を追求しただけの記号的に存在しているだけの教科書的な脇役の演技だった。

 だから俺はつぶ子の演技を本質で理解出来るし、本質で理解出来るが故に、つぶ子という〝人間(やくしゃ)〟が、俺という人間に恋をする事など有り得ないと理解していたのである。

 

 そしてそのまま俺たちは映画館へと赴き、『桜の恋歌』を鑑賞した。

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