22.放課後ランデブー
「ねぇ、あれって」
「つぶ子ちゃんだ、ウチの制服着てるって事はウチの生徒だったんだ」
「誰かを待ってるのかな、校門の前で待ち合わせとかドラマみたい」
放課後、校門の前で立っているつぶ子がいた。
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花と言った具合に、つぶ子は存在しているだけで周囲の注目を一身に集めていた。
そのまるで想い人を待つ恋人のように、微かに頬を緩ませながら、通り過ぎていく生徒達の顔をそれとなく確認してはまだかまだかと期待するようにそわそわと髪の毛を触る仕草はとてもいじらしく、永遠の中に閉じ込めてしまいたい程に愛らしい。
花も恥じらうようなその見事に乙女な立ち振る舞いはその場の空気をここでは無い別世界だと錯覚させるものだ。
その姿は〝完璧に想い人を待つ少女〟であり、その姿を見た者の多くはつぶ子の姿に不意にときめいて、そんなつぶ子の想い人が誰なのかと嫉妬に苛まれた事だろう。
そして終業のチャイムが鳴った直後に、俺のスマホには一通のメッセージが送られていた。
『校門の前で待ってるね』
という意図を読ませない一文のメッセージ。
昨日の今日でつぶ子から俺に何の要件だろうと思ったが、だがつぶ子の好感度と機嫌を稼ぐ事は今の俺の芸能活動においてとても重要な事なので、俺は要件も聞かずに『すぐ行くね』と返信していたのであった。
なので俺は校門の前まで俺に付きまとっていた隣人に貼り付けた笑みを浮かべて言ってやる。
「ごめん、銀鍔さん、今日はつぶ子ちゃんと待ち合わせがあるから話はこれで終わりで、委員長にも言ったけど俺は今月は忙しくてあまり参加出来ないから、だから今回は断らせてもらうしかないんだ」
俺は銀鍔さん・・・異母姉である白月ユキに慇懃無礼にそう言うものの。
「キミの事情は理解している、それを理解した上で私はキミと劇がしたいという話だ、委員長は関係無いよ、それに待ち合わせだというなら私も同行させて貰ってもいいかな?、別にキミたちは恋人同士という訳でもないのだろう、邪魔にはならないと約束するよ」
俺の明らかな拒絶にも白月ユキは飄々とした態度でかわして、そんな風にしつこくまとわりつかれていた。
俺は少しづつ拒絶バリアの強度を上げつつ白月ユキを追い払おうと徐々に語気を強める。
「だから今日はつぶ子ちゃんと大事な用事があるし、部外者を連れて来る訳には行かないというか、ごめんね銀鍔さん、つぶ子ちゃんに紹介するのは別の機会でもいいかな」
「つれない事を言うね、茂木田つぶ子も同級生じゃないか、それともキミたちは自分の方が芸歴が長いからって対等では無いとでも言うつもりかい?」
「・・・学校の中では対等だよ、でも外ではギャラとか人気とかランクとか、色々と優劣はついちゃうものだし、つぶ子ちゃんの1秒と釣り合う人間はこの学校のどこにもいないんだ、だから銀鍔さん、プライベートにはちゃんと線引きをして貰えるかな」
「なるほど、じゃあ彼女が学校の敷地内にいる間は対等という事でいいんだね」
そう言って銀鍔さん・・・白月ユキは校門の前に立っているつぶ子に俺を差し置いて話しかけるのであった。
「つぶ子くん、提案がある、私をキミたちに同行させて貰えないかな、邪魔はしないと約束しよう」
まるで迎えに来た白馬の王子様とでも言った調子で白月ユキはつぶ子に仰々しくそう言った。
舞台の上にいるかのようなつぶ子に、舞台に上がってきたような白月ユキが誘う。
白月ユキはまだ芸能活動をしていないにも関わらず普通に俺より有名人なので、皆がつぶ子の待ち人が白月ユキなのだと納得した顔だった。
「え・・・?」
突然の提案につぶ子は虚をつかれたように首を傾げる。
俺はつぶ子の返事を待たずに白月ユキに言ってやった。
「ごめん銀鍔さん、今日は〝ビジネス〟の日だから、だから〝部外者〟の君を連れて行く事は出来ないんだ、守秘義務とかあるし、人に聞かせられない話だってあるからね」
「その点に関しては安心してくれていいよ、キミも知ってるだろうけど、私と母は父の事を14年間秘密にしていたし、口は固い方だ、それに私の父とキミは同じ事務所の仲間だし、言ってみれば私も身内みたいなものだろう、だから行先がどこだろうと邪魔にはならないと保証しよう」
白月ユキは自信たっぷりにそう言う。
やはり人気女優とトップアイドルの娘という、生まれた時から勝ち組の人間には妥協や遠慮という感性は育たないのだろう。
それを自然に人を魅了するカリスマと呼ぶのか、そんな圧倒的にポジティブで自己中な陽オーラを放ちつつ、有無を言わさない調子でそう言い返して来た。
それで俺にはこいつの説得をするのは困難だと悟り、仕方無しに〝格上〟のつぶ子に白月ユキの撃退を頼もうと思うのだが。
「むぅ・・・、キキくんにとっては私との放課後デート、〝ビジネス〟って事?」
可愛らしく頬を膨らませて拗ねた様子でつぶ子は俺を問い詰める。
「・・・え、いや、そう言う意味じゃなくて、ただ、今日はプライベートじゃなくて仕事の相談だから、だからビジネスの話だし部外者はいない方がいいと思って・・・」
つぶ子が俺の言葉尻を責めてくるとは思わず慌てて弁解するが、つぶ子は白月ユキに対して疎ましくは思っていないのか、白月ユキの提案にこう答えたのである。
「銀鍔さん、今日はただの〝プライベート〟だから気にしなくていいよ、一緒に遊ぼう、実は私も銀鍔さんの事は気になってたんだよねっ!、もしかしたら私のお姉ちゃんになるかもしれない人だし・・・」
ボソッっと、つぶ子は俺にだけ聞こえる声で不穏であざとい事を呟くものの。
現状における俺の白月ユキに対する好感度はほぼゼロなので仮につぶ子が義理の妹になったとしても交流を持つ事は無いだろうが、まぁそれは演じているだけのつぶ子には関係無い話か。
こうしてつぶ子が認めた事により俺は白月ユキを交えた三人で放課後の時間を過ごす事になるのであった。




