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恋が人を食う〜天使くんと恋愛頭脳戦する怪物の子〜  作者: くびつりのこびと
エピソードI 【フィクションの恋】
22/49

21.学校にて

 次の日ケイはレッスンを休んだ。

 ゼンが「何かあったの?」と聞いて来たので俺が一部始終を説明すると、ゼンは「なるほどね」と頷いて、ゼンも次の日からレッスンを休んだのであった。

 完全にジョリーさんの出した条件は俺一人に丸投げされてしまい、俺はどうしたものかとカレンダーの日付を一人見つめながら、ぼーっと一人でライブに向けた練習をしていた。


 2週間後に行われる武道館ライブ、それを成功させるのが俺たちに与えられた条件だ。


 チケットの販売はライブの前日の日曜日、つまり俺たちの行われるライブは休日ですらなく、日曜に行われるジョリボーイズの看板アイドルの『TempeStars』ライブの機材をそのまま引き継いで月曜日に行う、との事だ。

 にも関わらずチケットの販売はジョリボーイズ公式サイト限定のネット販売と当日会場での直売りだけ。

 つまり宣伝広告は自分たちで行うしかなく、広告費ゼロで1枚1万円、普通に事務所のトップアイドルと値段の変わらないチケットを売り捌けとの事だった。


 ファンクラブも無い状態のデビュー前のアイドルが達成するにはほぼ不可能と言える条件だ。


 でも、これを聞かされた土曜の時点では俺たちにはいくつかの勝算があった。


 一つはケイの実家に頼る事だ。

 ケイの家は親が貿易商の実業家であり、かなり資産を持っている為、1億くらいならばケイが土下座で頼めば親に用立てる事は可能で、それで手に入れたチケットを配ればそれで条件をクリア出来るという話だ。

 無論、それは奥の手であり、もし使うならケイがセンターで俺もゼンも一生ケイに服従するという交換条件だったので保留になっているものの、現実的にはこれが一番確実で簡単な方法だ。


 2つ目はゼンの実家に頼る事だ。

 ゼンの姉は登録者100万人越えのVTuberであり、ゼンが土下座で頼んで姉に宣伝して貰えば1000枚くらいは売れるだろうし、大人気VTuberの弟という肩書きだけでもそれなりの話題性で、両者にとってメリットのある宣伝が出来る。

 だがこれもやはり奥の手であり、もし使うなら同じく今後はゼンに一生服従するという交換条件で、確実性も低い上にゼンの姉にも身バレという迷惑をかける可能性があるので、奥の手にするしかない方法だ。


 そして3つ目、これは俺の、〝乾拭キキ〟のファンに頼る事だ。

 俺のSNSのフォロワーは2万人。

 正直芸能人としては少なすぎるくらいだが、子役時代は母さんが熱中して運営していて炎上し、その後は事務的に仕事の報告するだけのつまらない垢だったので、天使くんブレイクの一時期は10万だったのが気づけば2万まで減っていた。

 正直このアカウントで宣伝しても、多くの人間の目に止まるような宣伝なんて出来る訳も無いし、宣伝するだけならノーダメージとは言え、効果値が低いからやる意味は薄いとされた。


 現実的に考えて、1億の金を動かす必要があるのである。


 そんなの、たかだか2万フォロワーの落ち目の元子役に出来る訳も無い事だ。


 だからもしやるにしても、何かしらの注目を集めるような事件を起こして、それに便乗して宣伝するしかないという結論であり。


 つまりは俺が実は某アイドルの隠し子だと暴露して、それに便乗して宣伝するしかないという訳である。


 別に俺は父親の事を嫌っていないし、迷惑かける事に対しても遠慮はしていないものの。


 ただ、これまでずっと〝乾拭キキ〟として芸能活動をしていた中で、ここで父親とそのコネを使ったゴリ押しがバレてしまったらそれは俺という人間のファンを失うリスクの方がデカいのでは無いかという懸念(けねん)がある。


 俺がただの普通の正妻の隠し子だったならば、別にそれは明かすべき時には明かしてもいいものだろう。


 でも俺はそうでは無い、父親にはちゃんと愛を育んだ本物の隠し子が存在するし、俺は父親からの愛を一度しか受けた事の無い偽物の隠し子だ。


 だったら俺の秘密はアイドルとしても人間としても墓まで抱えていくべきだし、明かせば大きな話題になるだろうが、それで得する結果になるとは到底思えないものだ。


 だから俺はこの選択肢は選べないし、他に何か注目を浴びられるような事があるかと言えば、ケイとゼンの提案は「つぶ子とのスキャンダルをでっち上げる」事だった。


 それもつぶ子に迷惑をかける上に俺の人気にも影響しそうで嫌だったものの、こうなってしまってはそれしか方法が無いというのが今の現実だった。




「結局俺一人か、はぁ・・・」


 俺は高校の中庭で1人、昼休みにため息をつきながらパンをかじりつつ試練の事を考えながらため息をつくのであった。


 スマホでグループチャットのメッセージを確認していると、ケイもゼンも「テスト期間」とだけ呟いて俺からの相談を既読無視しており、完全に孤立状態の俺は暖簾(のれん)に腕押しするような一人相撲に悶々(もんもん)とため息をつくしか無かった。


「はぁ、二人ともこの間のオーディションで親睦が深まったかと思いきや、やっぱりあいつら薄情過ぎるな」


 愚痴を言わなければやってられないような状況だが、生憎俺には愚痴を聞いてくれるような友人なんていなかったので中庭に植えられた大欅(おおけやき)に聞かせるしかない。

 ぼーっとしていても締切が迫ってくるだけで何も解決しないのに、考えても考えても解決策が思い浮かばないというのはとてもやるせない事だった。

 こういう時に友人の多い人間ならば頼ったり知恵を借りたり出来るのだと思うと、殆ど取り柄の無い俺に全て丸投げされたのは本当に理不尽な貧乏くじとしか言えないし、偏差値高い高校に通ってる賢いケイとゼンが力になってくれてもいいのにと恨み言を言いたくなるが、言っても多分既読無視されるのは確実なので、俺は渋々と購買で買った昼飯の惣菜パンを咀嚼(そしゃく)していた。


 しばらくすると俺を探していたのか、一人の女子生徒が俺の元にやって来た。

 彼女は俺のクラスメイトで確か委員長だった気がする、クラスメイトの名前くらいは芸能人の常識として把握しているものの、会話もあまりした事が無いので記憶はあやふやだ。

 なので多分衛門(えもり)さんだった気がするものの、俺も周りに合わせて委員長と呼んでいた少女だ。


「あ、キキくん、ここに居たんだ、それでこの間の件なんだけど、引き受けて貰えるかな・・・?」


 控え目な雰囲気な委員長は俺を見つけると遠慮がちながらも単刀直入にそう切り込む。

 俺はそれにいつもの愛想のいい乾拭キキの顔で答えてやる。


「・・・ああ、えーと、次の成果発表会、舞台で俺が主役の王子様の役をやる件だっけ・・・?、その、皆から推薦して貰えたのは嬉しいんだけど、俺もアイドルデビューが決まってこれから忙しくなりそうだし、学校の授業に費やせる時間はあまり無い、かな・・・」


 成果発表会、これは来月行われる予定の各学年の芸能科の生徒たちにそれぞれ舞台演劇をやらせて品評会をするという物であり、生徒達の演劇の成果を他の生徒や一般の客に見てもらう催しである。

 生徒は実践的な商業演劇を体感するという授業の一環であり一般生にとっては、企画や運営と言った職業訓練の授業となる、一般参加者は金を払う必要があるものの芸能人の卵というのはやはり卵でもそれなりに価値があるもので、スターになった卒業生の学生時代のチェキやプロマイドがプレ値が付く事もあり、卒業間近の時期には争奪戦になるレベルの人気がある催しだった。

 そこで俺は一年生の代表、主役として推薦されたという訳であり、八方美人でええかっこしいの乾拭キキならば断らないような話でもあるのだが、だが現在俺はジョリボーイズからのデビューを控えており、学校行事にはあまり注力出来ない為に返事は保留にしていたのであった。


 だが今の状況的に言えばデビュー自体も危ぶまれているので、ここで主役を引き受けても問題無い気もするのだが、それでも発表会に全力になれない俺よりも別の誰かがやってくれた方が俺としてもありがたいのは間違いない。


 だがやんわり断った俺に委員長は食い下がるように答える。


「・・・でも、ユキちゃんが王子様がキキくんじゃないなら出ないって言ってるし、それに皆もやっぱり、一年生最初の成果発表だから不安や緊張もあるだろうし、そこでベテランの二人に引っ張って貰いたいって思ってるからさ、皆とは長い付き合いになる訳だし、練習も最低限でいいから、だから引き受けて貰えないかな?、もちろん、キキくんが出れられなくなった時の為に代役も複数人立てる予定だよ、授業の練習だけでいいから、ね?」


白月(さつき)ユキ、か・・・、俺はあいつとは共演NGと言いたいくらいなんだがな」


 白月ユキ、本名銀鍔(ぎんつば)逢姫(あき)、女優の母親と超人気アイドルの父親を持つ、俺の同い年で腹違いの姉である。

 なので俺はこいつとは縁を作りたくないくらいなのだが、向こうは学校内でも希少な現役の芸能人である俺に興味があるらしく、芝居の授業では入学時から積極的に絡んでくるのであった。

 俺は彼女が〝妹〟なら100歩譲って自分より格差的に恵まれてても笑って許せたと思うが、恵まれた〝姉〟のこいつが俺に無邪気に遠慮無しに絡んでくるのが鬱陶しかったので、逆恨みだとは思いつつも俺は白月ユキには俺の友情愛情の一欠片でも恵んでやる気は無く、大人気(おとなげ)なくも激烈で強烈な拒絶バリアを貼っていたのであった。


 仲良くなるといざと言う時の遺産分配で遠慮してしまう可能性もあるが、不仲なら遠慮なく今までの分をごっそりと分捕って借金の返済に充てられる、そういう汚い打算込みでの不仲ではあるが、俺には必要な事だ。


 無論、それをはっきりと言葉や態度に示したりはしない訳だが。


「ん、キキくん今何か言った?」


「ううん、ちょっと眠たくなって独り言を言っただけ、ごめんね、昨日もレッスンが長引いちゃって」


 俺はそんな風に寝不足の演技で誤魔化す。

 だが俺はプロの芸能人として睡眠時間の管理や体調の管理にはいつも気を付けているので、睡眠不足にはたまになるものの、それは芝居の座学の授業を利用して補填しているので特に問題は無い。


 だが俺の演技に騙された委員長は申し訳なさそうにこう言うのだった。


「ああ、無理言ってごめんね、うーん、本当に忙しそうだし、やっぱりキキくんに頼むのは無理があったかな・・・?」


「こちらこそごめん、〝今回は〟裏方としては積極的に頑張るから、だから〝今回は〟別の人にお願いして貰えるかな?」


 それとなく〝今回は〟縁が無かったと俺はそう言うが。


「まぁキキくんとユキちゃんがやってくれないとなると、誰もやりたがらないだろうけど・・・取り敢えずキキくんの〝意思〟だけは皆に伝えておくね、お邪魔しました」


 そう言って委員長は俺の返事を待たずに立ち去っていく。


「・・・こっちはやんわりと拒絶の意思をを伝えたつもりなんだけど、この調子だとまた同じやり取りをやる羽目になりそうだな・・・」


 ここで結論を待たずに話を保留にする辺り、委員長は交渉のやり手だし、そして委員長も俺に主役をやって貰いたいという意思が感じられた。

 まぁまだ4月、入学して最初の成果発表会なんて一年生にとっては公開処刑みたいなものだし、先生からのフォローは手厚いとは言え、主役だからと言って積極的に恥をかきたいと思える人間は希少だろう。

 芸能界は最初が肝心、最初に〝棒演技〟のレッテルを貼られて長生き出来る役者はそんなに多くない。

 〝誰でも新人の頃は下手だった〟という言葉は事務所のゴリ押しで役を供給され続けた人間だけの生存者バイアスであり、実際は実力のある新人ばかりなのが現実なのだから。

 一度ブレイクしても数年後には干されてるのが芸能界なのである、手探りの今に自分が責任とリスクを負う選択よりも、脇役としてキャリアを積みたいと思う方が自然な事という訳だ。

 だから既にプロである俺と白月ユキの二人が主演になるのが一番なのは分かるし、アイドルデビューが控えてなければ断らない話ではあるのだが。


「・・・でも先ずは、この課題をクリアしない事には、って話だよな」


 達成しなければ解散。

 達成した後の予定は未定。


 でもデビューはゴールデンウイーク終盤になる2週間後で、成果発表会は5月の中頃(なかごろ)の一月後。

 だから気軽に安請け合い出来ない事だけは確かだった。


 故に俺はどうしたものかと、結論の出ない問いに延々と思考と時間を浪費していた。

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