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恋が人を食う〜天使くんと恋愛頭脳戦する怪物の子〜  作者: くびつりのこびと
エピソードI 【フィクションの恋】
20/49

19.デートなう

 その後、オムライスはつぶ子の仕込みではなくガチの手違いだったと知った訳だが、店員が割と希少な俺のファンで乾拭キキを認知してくれていたおかげで俺はオムライスをサービスしてもらい、店員にめちゃくちゃ頭を下げられつつも俺は好青年の仮面を保ったまま店を出た。


 デートの最中にトイレに駆け込んで喉に手を突っ込んでゲロを吐く羽目になったのはかなり災難だと言えるが、これでも体が資本のアイドルの端くれである為に、体調管理には細心の注意を払う必要があるのでやむを得ない。

 保険として胃薬も買ってからつぶ子とのデートに戻る。


 俺は災難に見舞われつつもそれで食事代を節約出来た事は幸運と考えて、そのままつぶ子とデートの芝居を続けるのであった。


「キキくん本当に演技が上手くなったね、私は最初キキくんが演技していると気づかなかったよ」


 俺が廃棄オムライスを本気の演技で食っていた事についてつぶ子はそんな風に切り出してきた。

 何を言ってもやぶ蛇になりそうな予感はするものの、今日の俺は伽羅蕗稀樹ではなく乾拭キキなので、徹頭徹尾社交辞令の営業スマイルに徹してこう答えた。


「いや、味は美味しかったんだよ、味はね、それにしてもまさか、こんなハプニングが起こるなんてビックリしたなぁ、実はドッキリとかじゃないよね?、「天使くんはデート中のハプニングが起こったらどうする?」みたいな」


「流石にドッキリだとしたらカメラを回す必要があるし、こんな人通りの多い所でカメラマンが尾行するのは無理だしそれは無いよ、でもほんと、ドッキリみたいな展開だった、流石キキくん、芸人としての才能を持ってるね」


「あはは、それでつぶちゃんが笑ってくれたなら、俺としても災難だったけどちょっとは報われるね、えーと、それじゃあ次はどこに行こっか?、また洋服とか見に行く?」


「キキくんの希望が無かったら、次はゲームセンターに行ってみたいな、行った事無いから気になってて」


「そっか、俺は母さんに連れられてよく行ってたから、少しは案内出来るかも」


「じゃあ次はキキくんがエスコートしてね」


 そう言ってつぶ子は俺に手を差し出すと、俺はそれを優しく握って手を繋ぐ。

 そしてそのままモールの中に出店している、大手のアミューズメント企業が経営するスボーツからカラオケまで取り揃えている施設にやって来たのである。


「やっぱ最初はUFOキャッチャーとかかな、どう?どれか欲しい景品とかある?」


「わぁ、色んな景品があるんだね、あ、これ、私も読んでる漫画のキャラだ、ちょっと欲しいかも」


 つぶ子はそんな風に無邪気にはしゃいだ声を上げて、まるで初めて遊園地に来た子供のように忙しなくゲームセンターの中を物色しながら俺と手を繋いで並んで歩く。

 ゲームセンターの中は子供が好むアミューズメント施設という事もあってかかなり人口密度は高めで、同年代の少年少女が多く存在していたものの、モールの他の施設と違って薄暗いおかげかあまり人の顔を気にしたりしないのだろう、今までより俺たちに注目する人間は少なく、俺たちは何の変哲もないカップルとして自然に中を練り歩いた。


 そしてつぶ子はひとけのない奥へ奥へと誘うように俺を引っ張っていき、一つの景品の前で足を止める。


「キキくん、私、これが欲しい」


「アニメのストラップか、分かった、取ってあげるよ」


 それは1回100円、原価も恐らく100円くらいの安っぽいプラスチック製のストラップだ。

 流行りのアニメのキャラを模した小さなフィギュアが付いただけのものだが、まぁそのアニメ自体は国民的人気アニメなのでつぶ子が欲しがっても不思議では無いものだ。


「キャラはどれがいい?、やっぱりトナカイ?それともコック?、歌手の子も結構人気だよね」


 俺はどのキャラが女ウケしてるのかなとか考えつつそう言うもののつぶ子に希望は無いようだった。


「どれでもキキくんが選んだものでいいよ」


「分かった、じゃあ俺が一番好きな狙撃手にするね」


 そう言って俺は100円を投下して、狙撃手のストラップに狙いを定める。

 そしてアームの位置やら目標との距離を計算して、ボタンを押そうとした所でつぶ子は耳元で囁いた。


「一発で取れたらキスしてあげる」


 ウイイイイイイイン、ガシャン、カチ、ピロピロピロピロ、ウィイイイイイイイイイン、パカッ、パンパカパーン


「──────────はい、つぶちゃん、これを俺だと思って大切にしてくれると嬉しいな、・・・そう言えばさっき何か言ってた?、ごめん、集中して聞こえなかったんだけど・・・」


「うっ・・・、ううん、なんでもないよ・・・、それよりキキくんはこのキャラが好きなんだ、あんまり人気ってイメージが無いから意外だね」


「確かに主人公とか他のキャラに比べたら活躍がご都合主義だし、性格もお調子者の三枚目で人気出る感じじゃないし船降ろされそうな感じだけど、でもとてもお母さん想いで、それでいて弱いのに強い奴らと知恵と工夫で頑張って戦ってる所とかすごく頑張ってるから、だから俺は100万人に1人の才能とか悪魔の能力持ってる他のキャラより好きかな、いや、別に主人公も好きだし、作品も大好きなんだけどね、ただ、俺が1番感情移入してるのはこのキャラってだけ」


 ちょっと乾拭キキのキャラに合わないような饒舌(じょうぜつ)さだが、本当に好きな物を語る時に長文で早口になるのはご愛嬌といった物だろう。

 つぶ子も若干引いた様子で引きつった笑みをしているが、それもきっと演技だろう。


「なるほどね、そう考えたら確かにちょっと被ってる所もあるかも、キキくんも結構嘘つきだもんね」


「えー、俺はそんなに嘘はつかないよ、そこだけは真逆かな」


「そうかなー、私はキキくんは嘘つきだと思うけどなー」


「えー、例えば・・・?」


「そうだね、例えば・・・、キキくん──────────大好き」


 そう言ってつぶ子はそのまま映画のワンシーンにでもしてしまえそうなくらいに鮮烈な、満開の花が弾けるような〝ふわりとした〟笑顔で唐突に俺にそう言う。


 それに対して俺はその熱意に応えるようにして、胸を抑えながら、まるで今恋に落ちたかのように顔を紅潮させて答えた。


「うわっ、なに!?、いきなり、やっぱりドッキリ!?、ずるいよつぶちゃん、いきなりそんな風に言われたら、付き合いの長い俺でも勘違いしちゃうって!!」


 今日は〝芝居〟の日、ならば俺はつぶ子の望むそれに則って、完璧な乾拭キキを演じるまでである。


 そしてそんな俺の演技はつぶ子の合格点を満たしたのか、つぶ子は満足げにこう言うのである。


「やっぱり私は、〝キキくん〟がだーい好き!、あーあ、私の好きの半分でもいいから、キキくんも私を好きになってくれたらいいのになぁ」


「もう、そんな事ばっか言ってたら、俺も本気にしちゃうよ、俺だって本気になったら結構怖いんだからね」


「へぇ、キキくんは本気になったら怖いんだ、具体的にはどんな感じで怖いの?」


 挑発するようにつぶ子はからかうような笑みを浮かべてそう言う。

 俺はつぶ子の必殺ストレートに対抗するような必殺アッパーを繰り出した


 つぶ子を少女マンガのように壁に追い込んで、顔を近づけて低い声で囁く。




 ドンッ!!!


「──────────こんな風に、俺以外を見られないくらい夢中にさせる、・・・から」




 そこでつぶ子と見つめ合う。

 唇まで30センチくらいの距離ならば、片方が片思いをしている役で共演した時に経験済みだったが、ここから先に踏み込めばそれは乾拭キキと茂木田つぶ子の境界線より先の未知の世界だ。

 でも俺は踏み込んで、息が触れ合うような距離でじっとつぶ子を見つめる。


 俺の瞳に映るつぶ子の瞳は、それが役という仮面に覆われた偽りの感情だとしても、俺に恋をしているように一途に俺を見ていて、俺はその宝石のような瞳に吸い込まれるように目が離せなかった。


 何かを期待するような、こちらの本能を刺激するような、2人にだけ伝わるような熱が伝わってきて、俺は吸い込まれるようにつぶ子との距離を詰めていく。


 つぶ子に触れたい、その薄紅色の花弁のような唇を奪ってしまいたい。


 茂木田つぶ子という理想の彼女、この魔力の前に抗う事のできる人間はきっと多くは存在しないだろう。


 もうすぐで、ほんの少しの勇気だけで触れ合うような距離だ、これ以上進むのはデビュー前のアイドルとしても大人気女優としても許されないものだが、既に演技の上では互いの理性はそのなりを潜めている為にどちらの勇気でも触れる事は容易いものだろう。


 そしてつぶ子は狙っていたのかひとけのない店の奥まで俺を連れ込んでいる、だからここでもう少し踏み込んでも、それを誰かに見咎められる可能性は低い。


 そう考えながら見つめ合っていると、そこでつぶ子は覚悟を決めたようにぎゅっと目を(つむ)って、俺に唇を差し出した。


 長いまつ毛に覆われた宝石の瞳はぴっちりと閉じられていて、今は無防備に唇だけが俺に捧げられるように差し出されていて、キスしてくださいと言わんばかりにつま先立ちをしてきた。


 その物語から飛び出してしたお姫様のような美貌の少女は予定調和されな結末に誘うようにと、俺に至上の好意を向けているのである。


 反則的な可憐さだ、俺の演技を貫通して俺の本能に呼びかけてくるような、演技を超越した可憐さに俺は一瞬理性が吹っ飛びかけるものの、なんとか踏みとどまる。


 これはドッキリでは無い、だからここでつぶ子が俺に求めている演技とは〝ヘタレてキスをしない演技〟では無くて、〝かっこよく男気を見せる演技〟なのだろうと想像する。


 だがそこで俺の理性が、俺の一部である乾拭キキの人格が俺を引き止めた。


 物語においてキスとは、結末に二人の愛を証明した時のメタファー(暗喩)として結ばれた事を象徴する為に行うものであり、もしここで俺がつぶ子とキスをすれば、それは三流(パルプ・フィクション)のラブコメであり俺たちの物語において美しくない展開なのは間違いない。


 そう、俺は尽くす側ではなく尽くされる側。


 愛する側ではなく愛される側がいい。


 それなのにつぶ子の挑発に乗せられて自分からキスするのは、そんなのはたとえその場のノリと演じる役の話だったとしても、自分から選べる選択肢では無かった。


 なので俺は少女マンガさながらにつぶ子の頬に手を添えて、それでびくんと緊張して固まるつぶ子が再び目を開けるのを待ってから、こう言ってやるのである。


「ドキドキした?、さっきのお返しね、髪の毛に芋けんぴが付いてる気がしたけど勘違いだったみたいだ、ごめんね」


「うっ・・・、もう、キキくんってばそれはずるいよ」


 そう言ってつぶ子はポカポカと可愛らしく俺の胸を叩き、俺はそれでつぶ子から距離を取って離れた。


「ごめんごめん、でも俺ももうつぶちゃんにからかわれるだけのお子様じゃないって事、ちょっとでも理解してくれたかな」


「もう、こっちはちょっと期待してたのに・・・、キキくんのばか!」


「期待がちょっとって事はしないって分かってたって事だよね、だったら怒らないでよ、それとも、本当にキスした方がよかったの?」


「・・・もう、知らないっ!」


 つぶ子は可愛く()ねる演技で俺と手を繋ぎつつも頬を膨らませて顔を背ける。

 その後俺はつぶ子とメダルゲームで遊んだ後に、締めのプリクラ撮影してゲームセンターから退店する。


「キキくん、プリクラの写真SNSに投稿してもいい?、今日の活動報告的に」


「いいけど、どの写真にするの?、ふざけて作った奴は乗せないで欲しいけど」


「最初に撮った〝天使くん〟っぽい奴だよ、やっぱりキキくんは天使の輪っかが一番似合うし」


「じゃあ俺も同じ奴投稿しようかな、・・・ええと、文面はどうしよう?」 


「普通にキキくんとデートなうでよくない?、デートはセーフだよね」


「いやそれはもう俺がアイドルクビになった挙句につぶちゃんのファンからも滅多刺しにされるレベルでアウトだからね。・・・ええと、じゃあ「ちょっと早めのお祝い」っていうのはどうかな?、勿論何のお祝いかは秘密だけど、まぁ後で俺のアイドルデビューが発表されるし、つぶちゃんの誕生日ももうすぐだし、『花狂魔』のオーディションに受かったのも一応めでたい事だし、そういう色々含めてのお祝いって事で」


「お祝いかぁ、まぁそれが一番無難か、でもいつかはキキくんと「デートなう」を自然に投稿出来るようになりたいなぁ」


「あはは、それは多分、つぶちゃんも俺も引退して、名前も顔も誰も知られなくならない限り無理かな、人気商売ってそういうものだし」


 中には芸能人カップルを素直に祝福出来るファンもいるかもしれないが、それでも独身の頃より人気が落ちるは必然だ。

 だから芸能界のトップを目指す者同士、そこの線引きはきちんと守らなくてはならないものだ。


 結局プリクラの写真はその場では投稿はせず、俺たちは手を繋いだままゲームセンターを退出すると、俺はそこである人物と鉢合わせしたのであった。

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