11.ケイとゼンの成果
「『ジョリボーイズ』所属、小田切慶です、〝自分が世界一かっこいいと思う演技〟イキます!!」
ケイは〝自分が一番かっこいいと思う演技〟のお題が読み上げられた瞬間、競技かるたのような反応速度で挙手して見事にそのお題を勝ち取り、舞台の上に上がった。
正直、ケイがこのお題で合格ラインに届いているかは分からないが、俺たち三人の中で一番このお題に対して成功率が高そうなのもケイであった故に、俺たちは期待を託すようにしてケイの演技を見守るのであった。
「ジョリボーイズってアイドル事務所じゃんw」
「あれだろ?、確かジョリーさんと座長がマブタチなんだろ」
「って事はあいつもジョリーさんに舐められてここに来たって事か、くすくす」
ジョリーさんの悪名は業界では有名であり、『Jの再来』と呼ばれてその名が轟いているが故に、ジョリボーイズ所属でただのアイドルの俺たちは場違いとでも言わんばかりのそんな嘲笑を受けるものの、ケイは全くそんな嘲った聴衆の視線を意に介さずに自分の演技を始めた。
「ライダー、変身!!」
そう言ってケイは変身ポーズを取ると、舞台の上で一人で複数の怪人と戦うアクションを始めた。
それはただのケイの身体能力と運動神経に全振りした、演技力などは全く要求されないただの演武であり一人相撲だった。
だがケイは中学時代はテニスで全国に出るレベルのスポーツマンであり、その恵まれた身体能力と運動神経は、ただの演武を迫真の演技に変えるような緊迫感があった。
およそ3分の間、ケイはほぼノンストップで舞台で動き回り、そして汗だくになって、劇場の観客席に招待されたVIPの人達に向けてこう言うのであった。
「ライダー俳優のオファー、待ってます!!」
ケイの演技には全員が意表を突かれたようであり、誰も拍手はしなかったものの、しかしケイの演技は確かにここにいる人間の興味を惹き付けたという、そんな実感も存在していた。
「なんだよ今の、演技力のテストでアクションとか、場違い過ぎるだろ」
「しかも、ライダー俳優って、来る所間違えてるし」
「ま、所詮はアイドルって事だな、演技なんて分からないから子供騙しで誤魔化そうって事だろ」
「でも、身体能力だけならあいつバケモンだったな・・・」
「ふん、雑魚モブどもが負け惜しみを、どうせアイツらのがショボイ演技になるのにな、それでキキ、ゼン、俺の演技はどうだ?」
「すごくかっこよかったよ、やっぱ男の子のかっこいいと言えばライダーだよね、キキもそう思うよね!」
「実は俺、日曜はいつも〝現場〟に連れてかれてライダーもあんまり見た事無いんだが、まぁかっこいいとは思う、最高のパフォーマンスだった」
少なくともお題を遂行する事とインパクトを残す事という点では及第点と言える。
そもそも真っ向勝負ではつぶ子や天才たちの演技には敵う訳が無いのだから、競わない方向性で存在感を示すのが俺たちの勝ち筋なのだから。
そしてケイも手応えを感じたのか汗を拭うと得意げに笑った。
「当然だな、これで俺は受かったも当然だから、ゼン、キキお前らも俺に続けよ!!」
「うん!」
「ああ、その為にもいいお題を引かないとだが、どうしたものか」
ケイの演技が終わった後、俺とゼンは自分に合ったお題が出題されるのを待ち続けていたが、しかし俺がいいと思ったお題〝歌を歌いながらする演技〟と〝何をされても怒らない演技〟、そして〝人を笑顔にする演技〟なんかは尽く他の参加者と競合し、それらは司会判断で俺以外の人間が指名されて、俺は結局自分の得意そうなお題を演じる事が出来ないまま、先にゼンの出番となった。
「『ジョリボーイズ』所属、時任善、〝世界一カワイイ演技〟行きます!!」
「またジョリボーイズか・・・」
「あいつも変わり種のお題選んだな、男のくせにカワイイ演技とか、何考えてんだか」
「でも顔はやっぱアイドルだけあって整ってるというか、普通にそこら辺の女よりはカワイイ感じだよな」
「・・・ゼンの奴、まさかこんなお題選ぶなんてな、そう言えばキキと個別で特訓もしてたみたいだが、一体どんな特訓してたんだ?」
「いいや、普通に俺が一番すごいと思う演技の動画を教えてくれって頼まれて、それをトレースするのにアドバイスしただけ、三人でレッスンする時とそんなに変わらないと思うが・・・ああでも、俺と二人の時は女の子の役も練習してたな、つぶ子の役にのめり込む練習だったんだろうけど、まぁそれでこのお題を選んだのかもな」
「ふーん、ま、どんな演技かは見りゃ分かる話か」
少なくとも男がカワイイを演じると言うだけでも観客の興味と注目は今日一番に集中していた。
だがゼンもまた、そんなプレッシャーなんて微塵も感じない風に自分の演技をするのであった。
「あの、すみません、小道具って訳じゃないんですけど、人間を一人ここに立たせていいですか?、掛け合いする訳じゃなくてただカカシになって貰うだけなんですけど」
「・・・うーん、ま、ここでNG出すのもつまんないからOKいいよ、その代わりにカカシは絶対喋らせたらダメだからね」
「ありがとうございます、それじゃあキキ、こっち来て」
俺はゼンに呼び出されて舞台に立たされた、そしてゼンと向かい合うように立たされる。
そしてゼンは向かい合った俺に言うのであった。
「お兄ちゃん、ボク、男の子だけど、お兄ちゃんの事好きになったらダメ、かな・・・?」
──────────ドキッ
演技の天才であるつぶ子にすら感じた事の無いときめきのようなものを、俺は不意に感じた。
ガタッ
「ん、どうしたんだよつぶ、急に立ち上がって、あいつに何か感じたのか」
試験官席にて品評していたつぶ子が急に立ち上がった事に、父である花狂魔座長、野武士のような風貌の男、茂木田おでんはそう訊ねると。
「・・・そんな、あの子・・・、男の子なのに・・・、私の・・・を」
つぶ子はゼンの演技を一目見てそれが何の演技なのかを見抜き、戦いた。
自分の猿真似の演技など見飽きたものだったが、それは猿真似でありながらもオリジナルとなるものであったからだ。
そしてそこからゼンは俺に畳みかけるようにして、甘ったるい声で俺に言うのであった。
「お兄ちゃん、一緒に、お風呂入ろ、・・・わぁ、お兄ちゃんの背中大っきいね、ボクもお兄ちゃんみたいに大きくなれるかな?、お兄ちゃん、お兄ちゃんの大好きなオムライス作ったよ、はいあーん、どう?、美味しい?、いっぱい食べてね、ちゅっ、えへへ、ほっぺにケチャップついてたからつい、嫌じゃなかった?、お兄ちゃん、お兄ちゃん、今日は一緒に寝よう、今日はお兄ちゃんと一緒がいい、いいの?、ありがとう、お兄ちゃんだいすき!!、あーあ、ボクが女の子だったら、お兄ちゃんのお嫁さんになれるのになぁ、うぅ・・・、くすん、ごめんね、気持ち悪いよね、ボク、男の子なのにお兄ちゃんの事が好きなんて、でも、ボク・・・ボク・・・お兄ちゃんの事が・・・好きでいちゃ、ダメかな・・・?」
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん。
それは恐らく、つぶ子の演じた人を魅了する妹の演技を再解釈して再構築し、ゼンの演技として取り込んだものだ。
つぶ子は最近は普通にヒロイン役を演じているものの、子役時代は妹役をよく演じていて、〝国民的妹子役〟と呼ばれるくらい、妹としてお茶の間の大きなお兄ちゃんたちを魅了していた。
もしその魔力の半分の出力でも再現する事が出来たなら、それは女が演じる女よりもよほど強力な武器になるのは間違いないものだ。
そこで俺は弟もまた妹に勝るとも劣らないポテンシャル秘めた存在なのだと、その破壊力、お兄ちゃん属性という記号の持つ演技を超越する〝魔力〟に気づいてしまったのである。
これはあくまで俺の持論だが、恐らく人間は、日本人は、〝お兄ちゃん〟と呼ばれる事に──────────弱い。
「お兄ちゃん大好き」と言われて頬を緩めない人間など日本にはほぼ存在しないものだろう。
そしてゼンは男にも関わらず、人類の中に眠る〝お兄ちゃん〟の扉をこじ開けるような、そんな暴力的で圧倒的な、本能に訴えかける演技を習得していたのであった。




