9.レッスン開始
つぶ子からお題のヒントを貰った俺は、そこからはケイとゼンとつきっきりで芝居の稽古をした。
芝居の基礎と言えば発声練習と肺活量を鍛える体力錬成だが、アイドルとしてのレッスンを2人ともスカウトされてから養成所で半年以上続けていた為か、そこは今更練習しなくても及第点だ。
なので俺は、セリフの基礎的な抑揚の付け方、長いセリフを話す時のコツ、掛け合いをする時に自然になるような間のとり方などを基礎から教える訳だが、二人とも週末にも自主勉をしていたからか、俺が教えると直ぐに学習し、基礎はかなり早くに身についた。
セリフが一言程度の脇役ならば今すぐこなせる程度の実力を3日で身に付けて来た訳であり、俺なんかと違って2人は演技に関して天才肌と言えた。
なので俺は早々に教える事が無くなってしまい、後は互いの演技を披露しては評価し合うという実践に移る訳なのだが。
「一番かっこいい演技ってなんだ?、俺はもともと最高にかっこいいから何やってもかっこいいって話だが」
ケイはそんなボケとも本気とも判断がつかないナルシズムに酔った事を言いながら質問する。
当然、俺にその質問の答えは分からないのだが。
「・・・あくまでそういうお題が出るかもしれないという可能性だからな、人気アイドルの演技をしろって意味かもしれないし、漫画のキャラの演技をしろって意味かもしれない、解釈は人それぞれのものだと思う」
「ま、そうだろうけど、僕らみたいな日本生まれ日本育ちの男の子なら、かっこいいの代表と言えば1つしか無くない?」
ゼンのその言葉に、俺たちは口揃えるようにしてそれぞれ言葉にする。
「・・・確かにな大谷─────」
「ライダー」
「甘露子颯稀」
「・・・って、全員違うし」
世界一の野球選手と少年の憧れである特撮ヒーロー、そして今の日本一と言われる男性アイドル。
こうして見ればかっこいいの基準にも色んな尺度があり、普遍的なかっこいいを見い出すのは難しいものに思えた。
そして結局その日は方向性も定まらないのに闇雲に練習しても無駄という結論になり、早めにレッスンを切り上げたのだが。
「ハンバーガー食いに行こうぜ、キキの奢りで」
「いいね、僕らはもっと親睦深めないとだし、親睦会しよう、いいよねキキ?」
「・・・寄り道は構わないけど、なんで俺の奢りなんだ?、二人とも同い年だよな?」
「だってキキがセンターだからな、それにキキは子役時代にたんまり稼いで金持ってるだろ、ハンバーガーくらい気前よく奢ってくれてもいいだろ、仲間なんだし」
「そうそう、キキは僕らより〝先輩〟なんだしさ、少しくらい先輩らしい所見せてくれてもバチは当たらないよね」
「・・・まぁ、そういう事なら仕方ないか、でも、そんなに頻繁には奢ってやれないぞ、ウチは貯金とかないから俺の収入と養育費を借金に充てて親子二人で月10万の生活だからな、今は生活費も俺が管理してるし、そんなに贅沢は出来ないんだ」
天使くんのブレイクから時間が経った今でもそこそこの仕事は貰えてはいるものの、親子二人で生活するなら心許ない収入だし、借金のせいで貯金はほぼ無い。
生活保護一歩手前みたいな状況だが、父親が健在で養育費も受け取っている以上、それも叶わないだろう。
つまる所、ウチの家計はギリギリという話である。
「え、キキってお金持ちじゃないの?、天使くんで売れてた頃はCMとかにも出てて、沢山お金貰ってないとおかしいよね?」
「まぁ当時に数千万単位の収入があったのは確かだけど、半分は税金だし、それに事情があって借金もあるから、親も病気だしな、それで今は俺の収入で家計を支えているんだ、だから不自由は無い生活はしてるけど、余裕はあんましない、かな」
・・・今は母さんは禁酒もしてるし家計も大分楽になった訳だが、それでも借金がある為に自分の為に出来る無駄遣いは殆ど無かった。
月に1回、どうしても見たい映画があった時にたまに映画館に行く、それが今の俺の贅沢であり、服はフリマサイトで数千円で揃えたし、俺が小遣いとして使ってるのは動画サイトのサブスクリプションくらいのものである。
なので奢りは完全に足が出るような生活費からの出費であるものの、二人が俺のグループのメンバーである以上、親睦を深めるのは必要経費だろう。
正直家計は火の車と言ったレベルで苦しいが。
「そうだったのか、確かに金もってそうな割には服も貧乏臭い感じだし、金持ってそうな匂いはしないもんな」
「確かにキキってなんか見た目の割に貧乏神的な不幸オーラ持ってるよね、幸薄そうっていうか」
「ディスりが強烈だなぁ・・・、取り敢えずハンバーガーは体に悪そうな要素が多いからドーナツでもいいか?、そっちの方がカロリー計算もしやすいし」
「仕方ない、キキが貧しいっていうならドーナツで勘弁してやるよ」
「ま、僕はハンバーガー好きじゃないからどっちでも、奢ってくれるならなんてもいいよ」
そんな調子で俺は1人だけ何も頼まずにドーナツ屋で過ごすと、そんな俺を見かねたのか、ケイもゼンも1口だけ自分のドーナツを分けてくれたのだが、無表情にドーナツを頬張る俺を見て、何故か二人とも俺を見て笑っていて、俺はそれを不思議に思いつつ、その日は二人と別れた。
そしてそれから週末のオーディションまで、俺は二人とつきっきりで居残り稽古をした訳であるが、奢りの効果があったのかは分からないが、二人ともオーディションに受かる為に熱心に特訓に励んでいたので、負けじと俺も二人をサポート出来るように色々と付き合うのであった。




