プロローグ
今作はとにかく笑えて気持ちよくなれる
爽やかで穏やかな春の風みたいな清涼感のある作品に出来るように頑張ります
どうかお付き合いくださいm(_ _)m
この恋はフィクションである。
「君の事を、愛している」
舞台の上で俺は、俺のお姫様に向かって叫ぶ。
それを聞いた彼女は、俺の告白に驚き、照れて、そして嬉しそうにはにかむ。
満開の花を思わせるような笑みは見るもの全てを虜にする魔性の美貌であり、その姿は舞台の花として極上の輝きを放っていた。
そしてこの告白は茶番と言っていいくらい結果は予定調和されていて、ここまでの全ての展開は筋書き通りのものだった。
俺は思う。
恋愛とは単純に、尽くすものと尽くされるものという関係に帰着する。
相手に〝依存〟する人間がいて、それを〝妥協〟で受け入れる人間がいる、少なくとも、それが俺の視点で見た恋人関係というものだ。
ごく稀に相思相愛や相互依存、相互扶助のような互いのバランスが完璧に噛み合ったカップルも存在するものだろうが、基本的に人間には優劣が存在するし、完全な対等は存在しない、数値化すれば必ずどちらかが相手に寄りかかるバランスになるというのが〝人〟という生き物なのだと、俺は思う。
つまりはどちらが依存するかされるか、それだけの話なのだ。
そこに存在するのは幾分かの妥協と、幾分かの打算、そして愛と呼ぶには不純物の多すぎる、好感度の積み重ねという愛着が一般的な恋人関係なのだろうと、俺は定義している。
物語の王子様やお姫様のように、ひと目で相手の全てを肯定し、受け入れるような運命的な恋愛など現実には有り得ないものだろう。
だからここでする俺の告白とは、半分は打算であり、半分は演技であり、真実とは、相手に尽くす事ではなく相手に尽されたいという欲望でしかない。
「俺と、付き合ってください」
俺は欲望を塗り固めた言葉で彼女へと手を伸ばした。
「君の事を、一生かけて幸せにする、これからずっと君の望むままの恋人を演じてみせる」
俺にとって、愛は虚構、愛は欲望、愛はフィクション。
だからどれだけ美しい愛を紡げるか、それが俺にとっての愛の善し悪しだった。
──────────だが、それは彼女も同じ話だろう。
「ありがとう、私、すごく嬉しい」
まるで花が開くように咲きこぼれる笑みを浮かべ、長年の片思いが実ったような情緒で涙ぐみ、そして、蕩けるように甘く優しい声で囁く彼女の仕草も全て、完璧であるが故に作り物めいたものだった。
「私も、大好き、です」
──────────それは、つい先刻まで彼女が演じていた喜劇のヒロイン役と全く同じ反応である。
それは彼女の擬態。
人から求められる姿を、舞台で一番輝く演技を、客観的に〝完璧〟とされる役割を演じる、彼女の生き様から導かれた必然だった。
だからこの恋とは嘘であり、きっと真実の愛からは程遠いものなのだろう。
実に空虚で滑稽な、都合のいい道化芝居だった。
これは愛を信じられない道化の男と。
愛を理解出来ない人形の女の。
愛より出でて、愛より青く、愛より愛しいな、こっけいな愛の物語である。