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第二王子に婚約破棄された悪役令嬢、妃教育が無駄にならないようにと呪われた第一王子に嫁がされる

作者: にょん
掲載日:2023/06/25


「ダリア・ローゼンベルク。貴様との婚約を破棄する!」


 王立学園の創立パーティーで、私に言い放ったのは、この国の第二王子、次期国王と言われているイーサン殿下でした。


 その横に侍らせているのは、ミリアという異世界から来た少女。聖なる力をもつという彼女は、可愛らしい笑顔であれよあれよという間にイーサン殿下に取り入りいっていたのだ。


「貴様は、俺の愛するミリアに酷いいじめをしたそうだな?」


「私、ダリア様に教科書を破られたり、物を隠されたりしました」


 涙ながらに訴えるミリアをイーサン殿下は抱き寄せて、その肩を抱いた。


「そのようなことしていません!」


「なに?ミリアが嘘をついているというのか!?それにお前は彼女に詰め寄って俺との交友関係を責めたてそうじゃないか!あまつさえ、引っ叩いたと!!俺の側近がそれを見ていたそうだ」


「それは……」


 それは事実だ。イーサン殿下という身分の高い人。ましてや、私という婚約者がいる殿方と仲良くするのは良くないと、忠告をした。しかし彼女は「選ばれないからって嫉妬は見苦しいですよ」そう言って微笑んだのだ。


 感情的になって叩いたのは事実。それを見られていたなんて。いや、今思えば、きっと彼女はそれを見せつけるために私を煽ったのだ。


 なんて計算高い女。


「イーサン殿下!どうか考え直してください。私は幼い頃から貴方の妻になるために厳しい妃教育だって受けてきたのです!一方的な婚約破棄なんて、家の沽券にも関わるんです!陛下だって、貴方のお父様だって許しませんわ!それに……」


「うるさい!俺の未来の妻はミリア一人だ」


 ああ、だめだ。この人に何を言っても、通じない。彼は昔からこうだった。横暴で、独りよがりで、わがまま。こんな人が王になる国に、未来はない。だからこそ、私が国母として支えなければと思ったのに。


 私たちの間に愛はなかった。でも、少しの信頼はあると思っていたのに……。膝から崩れ落ちる私を、殿下の横で、ミリアがくすりと笑っていた。


「……でも、そうだな。お前は、確かに妃教育を頑張っていた。それを無意味なものにするのは哀れだ。いいことを思いついたぞ、お前を兄上の妃にしてやろう。国母とはならないが、第一王子の妻だ。ローゼンベルク家も父上も納得するだろう」


 周りがざわつく。イーサンとミリアだけが嘲笑を浮かべていた。




 イーサンには兄がいた。三つ上のアルジェ殿下。しかし五つの頃より、彼は自分の部屋から出てこなくなった。噂では魔女に呪いをかけられたのだという。金髪だった髪は抜け、青い瞳は潰れ、肌は赤黒く爛れ剥がれ落ちる。そんな恐ろしい呪い。


 一度だけ、彼に会ったことがある。


 イーサンと城でかくれんぼをしていた時に、私は間違えてアルジェ殿下の寝室に入ってしまったのだ。カビと、卵が腐ったような匂いが立ち込めていたのを覚えている。


 その部屋で私は全身を包帯に巻かれた少年を見た。近づいてきた彼に、私は悲鳴をあげて失神し、三日三晩うなされたのだ。


 その彼の妻となる。到底、受け入れることなどできなかったが、すでに全てに手が回されていたのか、イーサンとの婚約破棄はあっという間に成立し、代わりに私はアルジェ殿下の婚約者となった。 


 その日のうちにトランクに荷物を詰め込めさせられ、私は城の離れにある別邸に移り住むことになった。しかし、私は彼の部屋を訪れることが恐ろしく。あてがわれた隣室でただ呆然と毎日を過ごしていた。


 呪われた王子の婚約者。皆がそう私を後ろ指をさして噂した。彼の両親はもちろん。使用人たちでさえ、配膳とその片付け以外に、彼の部屋に訪れるものはいなかった。だから、私が彼の部屋を訪ねないところで、誰も責めはしなかった。


 ミリアとイーサンは学園を卒業すると同時に盛大な結婚式をあげた。窓から城で行われてる式の喧騒が聞こえてくる。本当は、彼の横には私がいるはずだったのに……。今日から二人は城に住むのだ。そうして仲睦まじい姿を私に見せつけてくるのだろう。そんなこと耐えられるだろうか。


 惨めな想いは、心を限界まで追い詰めていた。私はその夜。部屋を抜け出し、城の堀へと身を投げた。


 私の体は、冷たい水へと沈んでいく。


 ああ、これで終わるんだ。ダリア•ローゼンベルクの短い人生。様々な走馬灯が蘇る。初めてイーサンとダンスを躍った日のこと。大好きな両親に抱きしめられた暖かさ。友達とカフェテラスでお茶をしたこと。患者さんとたわいもない会話をした日のこと、当直で眠気と戦ったこと。ああ、新発売のゲームやりたかったなぁ……。


 はたと、知らない記憶に戸惑う。患者……?、当直……?げーむ?ダリアが知らないはずの記憶。私の記憶であって私の記憶ではない。もっと昔の……。

 

「ハアッ!?ハアッ……!」


 水面から顔を出し、大きく息を吸い込む。


 水を吸ったドレスを脱ぎ捨て、なんとか堀から這い上がる。


 記憶が湧き上がり、全てが鮮明に見えてきた。


 思い出したのは自分の前世。私は、過労死で亡くなった看護師。


 そしてここは、


「ふぉーちゅんですてぃにーの世界だ……」


 あまりの事実に私は気を失った。



 目覚めたのは、自分の部屋だった。医者に二、三質問を受け、答えた。代わりに私からもいくつか質問をする。不明瞭な質問をする私に、医者は「記憶の混濁があるかな……」とぼやいていたが、まさしくある意味その通りである。今の私には、ダリアとしての記憶と、前世の記憶があった。


 時代背景や国や登場人物、固有名詞の名前、史実などから、この世界についてある確信が生まれた。


 ここはフォーチュンデスティニーの世界。前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だ。ミリアはヒロイン。イーサンはその攻略キャラだった。そしてダリアはヒロインに様々な嫌がらせをしてくる悪役令嬢。彼女は婚約破棄後、報いに化け物に嫁ぐことになり、その惨めさから堀に身を投げて命を落とすことになるキャラクター。なるほど、鏡を見れば、確かに彼女の顔である。


 まさか化け物が、第一王子のことだったなんて……。まんまとシナリオ通りに死を迎えることころだった。しかし断罪前ならいざ知れず、ここまで思い出したところで、もうエンディングを迎えてしまった。ダリアとしてはもう、何もしようがない。


 どうしたものかと頭を抱えていると、私が目覚めたと聞いたイーサンとミリアが私を訪ねてきた。


「本当に恥知らずだな。自害して俺たちの結婚にケチをつけるなんて。浅ましい女だ。そんなことして気を引こうとしたのか?」


 うわ、開口一番。なんて言葉。


「イーサン様。そんな言い方は酷いです……せっかくダリア様は助かったんですから。今はそれでいいじゃないですか」


「ミリア、なんて君は優しいんだ」


「だって、ダリア様はアルジェ様。貴方のお兄様の奥様ですもん。それって私たちは姉妹同然ってことですよね」


 はにかむミリアをイーサンは愛おしそうに見つめる。


「まぁ、そういうことだ。あまり、妙な真似はしないように。万が一、ミリアを傷つけるようなことがあれば俺は容赦しないからな」


 イーサンはそういうと、ミリアと腕を組んで部屋を出ていった。


「はぁ……」


 イーサン。前世で私が推していたキャラ。あんな最低なやつだったなんて。


 ため息をついていると、部屋が再び空いて、ミリアだけが戻ってきた。


「ごめんなさい。忘れ物しちゃって」


 ミリアはぱたぱたとベッドまで近づくと、私の耳元で囁いた。


「死んでおきなさいよ」


 驚いて彼女の顔を見る。無表情だった顔はパッと明るくなると、彼女は再び部屋から出ていった。


「死ななくてよかった」


 きっとミリアはシナリオ通りに私が死ぬことを望んでいた。私がそうであるように、きっと彼女も新居である城に、いつまでも私がいるのは気分のよい話ではないのだ。


 あんな奴らの思い通りになってたまるものですか。化け物の嫁?いいえ、私は第一王子アルジェ様の妃!まずは彼と向き合うところから始めましょう。


 私は部屋着のまま部屋を飛び出すと、ノックをしてから勢いよくアルジェ様の部屋の扉を開けた。


 部屋に一歩入った途端。カビ臭い。そして病人の匂い。


 こんな環境で健康になれという方がおかしいです。これを今まで放っておいたこの城の人々の神経を疑います。


 大きな窓に手をかけると、長い間閉ざされていたようで桟の部分はひどく錆びていました。


 思いっきり力をこめて開けると、ギィギと妙な音を立てて、窓は開きました。


 新鮮な空気が部屋へと流れていきます。


「ふぅ。まずは換気ね」


 気持ちの良い空気を吸い込んでいると、「おっ、お」と低い声がしました。


 振り返ると、ベッドで上半身を起こしたミイラが、私を指さして何か呟いています。前のダリアなら悲鳴を上げたでしょうが、今の私にはなんてことありません。そんな患者と対峙したことはいくらでもありますから。


「アルジェ様。おはようございます」


「お、おおお……あ……」


 アルジェ様は酷く咳き込みます。


「大丈夫ですか?」


 背中をさするために触れようとすると、アルジェは細い腕で怯えたようにそれを振り払いました。突然のことに私はバランスを崩してひっくり返ります。


「あ……ご、ごめ……あ」


「すいません、突然でしたね。私は貴方の妻となったダリアと申します。ご挨拶が遅れまして大変申し訳ありませんでした」

 

 頭を下げると、アルジェは息を整えて、もう一度だけ大きく咳払いをした。


「で……出ていって……くれ……」


「何故ですか……」


「……呪いが……うつる……」


「いえ、多分感染性のものではないと思います」


「出てって……」


「そうですね、アルジェ様立つことはできますか?」


「あ………うん……」


「じゃあ、出ていってください。アルジェ様が!」


 戸惑う彼を私の部屋に追いやって、私は部屋の掃除を始めた。使用人たちが何事かと止めにきたが、こんな惨状を放っておいた奴らなんてとるに足らない。「手伝わないなら出てけ」と思いっきり悪役フェイスで睨みつけてやって、部屋の掃除を続けた。そのうちに片手で数えるほどだが、感化されるものも現れ、埃とカビまみれだった部屋は綺麗になっていく。膿や垢で真っ黄色になったシーツや寝具も取り替える。部屋がピカピカになるまでは丸一日を要した。


「さぁ、次は」


 次にやることは本人のクリーニング。

 

 アルジェのいる自分の部屋に戻ると、彼は部屋の片隅で立ったまま怯えたように私を見つめた。


 その手を掴み、部屋から引っ張りだす。


「いったい……きみは……何を」


 女の私でも握り込めるほど細い手足。劣悪な環境下ですっかり筋肉も落ちているのだろう。


 彼を浴室に押し込む。湯気の立つバスタブを呆然と眺めるアルジェ。彼の包帯に手をかけようとすると酷く嫌がった。


「やめてくれ……包帯の……下は……見られたく……ない」


「私は妻なので。裸を見せてもよいのですよ?」


「そうじゃなくて……俺は醜い化け物だから……」


 見ると、アルジェは小刻みに震えていた。


 ああ、そうか。彼はすっかり、自信をなくしているのだ。


 シーツに吹いていた皮膚片。包帯の隙間からちらりと見える赤黒い肌。ことあるごとに彼が皮膚を引っ掻く様子。間違いない。彼の症状は重度のアトピー性皮膚炎だ。


 包帯だって巻きっぱなしで清潔ではない。それこそすれて痒みの原因になっているだろう。 

  

「大丈夫です。私は気にしません」


「嘘だ……。この下の……呪われている体の悍ましさを……化け物の姿を……知らぬから……お前はそんなことを……言えるのだ……」


 アトピーの悪化は精神状態にも起因する。彼の心に根差した病根を私は退治してやりたかった。


 私はため息をつくと、解けかけた首の包帯を捕み、ぐいっと引っ張った。彼の顔が近づき、カサついた唇が私の唇につく。


 顔を離すと、ぽかんとしたままの彼と目が合った。前世を入れてもファーストキスです。顔が火照るのを抑えながら、しゅるしゅると顔の包帯を抜いていきました。顕になるのは皮膚は爛れ、腫れや傷はありますが、端正な目鼻立ちをした男性でした。


「貴方は化け物なんかじゃない。私の夫です。私は貴方を助けにきました。貴方の妻なのです。私の前では包帯なんてしなくてよいのです。もちろん。ここに残ってくれた使用人たちも同じ気持ちです」


 アルジェが彼らの方を見る。使用人たちはうんうんと、頷いていた。


「それにね、これは呪いなんかじゃないのよ?時間はかかるかもしれないけど、良くなる病気なの」


「治る……のか?」


「体質もありますから。治るとは言いきりはしません。でも、改善はしますよ」


 アルジェはポタポタと涙を流す。きっとずっと辛かったのだろう。


「頼む……もう、こんな体、嫌だ。なんとかしてくれ……」


「ええ、まずは身体を清めましょう」


 抱きしめるように彼の背に手を回し、体の包帯を外す。彼は、私の肩に顔を埋め、包帯が取れきれるまで泣き続けていた。



 アルジェの治療はまずは温めのお湯につかることから始めた。驚くことに彼は清拭だけで湯に浸かるなどほとんどしたがないという。


 本当は石鹸で垢を落としていきたかったが、皮膚の症状から断念。しばらくは毎日ぬる湯に浸かるところから始めた。入浴後は低刺激のクリームで保湿。ステロイドが欲しいところだが、生憎この世界にそんなものはない。これは根気強く定期的に全身に行った。


 寝具もパジャマも毎日交換し、部屋は清潔さを保つようにした。


 食事も脂っこいものは避け、野菜と発酵食品を中心に低アレルゲンのものを。「物足りない」とアルジェは拗ねていたが、私も同じものを摂って励ました。


 ジュクジュクと固さと膿をもった肌が、カサカサとしてくると、耐え難い痒みが襲ってくる。どんなに言ってもついかきむしってしまうアルジェに厳しく注意をしたところ。ぽつりと彼は呟いた。


「ダリアが……また……キスしてくれたら頑張れるかも」


 後ろで聞いてた使用人たちが年甲斐もなくきゃっきゃと捲し立てた。


「えぇ……」


「ダメ……?」


 子犬のような目がこちらを見つめてくる。私はため息をつくと、そっと。その頬にキスをした。


「え、ほっぺ……?」


「唇がいいの?」


「いや……うん。口がいいけど……。そうか、ほっぺか……それもいいな」


 嬉しそうに笑う。後で使用人たちに聞いた話だが、皮膚に口付けをもらったことが、彼は嬉しかったらしかった。


 なんだかとても愛らしくて、私はどんどん恥ずかしくなった。


 そうして一年の月日が経ち、彼の肌はすっかりとよくなった。よく見れば残ってしまった傷跡もあるが、彼は本来の白い肌を取り戻した。瞼の腫れもひき、美しい青い瞳はいつだって私を捉えてくる。髪質も改善し、窓から入る風にたなびく金の髪は、触るとふわふわだった。


「なぁ、ダリア。頬が痒いんだ。いつものを頼む」


「……もう痒くないでしょ」


 そう言ってキスを求める彼をあしらうと、彼はむすっとしてそのまま啄むように唇を奪っていく。あの懐かしいカサつきはなくなり、ふわりとした感触が唇に伝わる。元々筋肉もつきやすい体質だったらしく。もはや彼の腕力から逃れることは難しい。私は破裂しそうな心臓の鼓動に、彼の顔を押し除けてため息をつく。


「ほっぺじゃなかったの」


「えへへ」


 ※


 アルジェを次期国王として正式に任命する。そんな話が舞い込んできたのは、その年の暮れのことであった。


「納得いきません!」


 戴冠式の日。公衆の面前で声を上げたのはイーサンであった。


「私は、病気の兄の代わりに、幼い頃から厳しい教育を受けてきました!それは次期国王となるためです……。なのに、おかしいです!」


 ざわつく来賓を前に、陛下はため息をつきました。


「何もおかしいことはない。お前は「病」の兄の代わりだった。兄の容態が良くなれば、代わりは要らなくなるだろう」


「私の!私の今までの努力を無駄にするというのですか!?」


 イーサンは、妾腹の子でありました。それに対してアルジェは正妃の子。病気の兄のスペアだったにすぎません。


 アルジェは王に頭を下げると、私を呼び寄せた。そうして抱き寄せ、私に王妃のティアラを被せた。


「イーサン。お前には感謝している。お前が、ダリアとの婚約を破棄し、彼女の妃教育を無駄にするのは哀れだと、私に彼女をあてがってくれたおかげで、私は今ここにいるのだから……だがすまない。王位を譲ることはできないんだ。せめて王弟として、私を補佐してほしい」

 

 そこにいるのは、化け物と呼ばれた病床の王子でなく、威厳に満ちた王の姿だった。


 イーサンは何も言わずに、力無く膝をついた。


 その時だった。



「ふざけんなよ!!!」



 一際大きな声が響いたかと思うと、鬼のような形相をしたミリアが、つかつかとこちらに歩み寄ってきた。

 玉座に続く階段に足をかけたところで、彼女は我に帰ったイーサンに腕を掴まれ止められた。その勢いは止まらず、彼女は羽交締めのようにイーサンに抱きしめられる。


「ふざけんな!ふざけんな!」


「ミリア……いいんだ。私のために怒ってくれなくても……」


「ちげぇーわ!誰がてめぇのために!」


「は?」


「離せ!蛆虫が!」


 ミリアは彼を振り払い、玉座に続く階段に足をかける。近衛兵が彼女を床に伏せるが、彼女は懸命に手を伸ばす。届きはしないが、その先にはアルジェがいて、血走った目は私を睨みつけていることに気がついた。


「悪役令嬢ごときが!!そのティアラは!聖なる力でアルジェ様の傷を癒した私がもらうやつなんだよ!!お前はな!あの堀で死ぬはずなんだよ!それがゲームのシナリオなんだよ!!なんでお前が!隠しキャラのアルジェ様の傷を治してんだよ!それは私の役割だろォ!!なんでお前がァア!!」


 暴れるままのミリアを近衛兵が外へと連れ出す。取り残されたイーサンはただ呆然とそれを見つめていた。


 その後。戴冠式という神聖な場を穢し、新しい王と王妃である私たちに害をなそうとしたミリアは、罰を受けることになった。牢に入れられた彼女はずっとうわごとのように「隠しキャラが……アルジェ様が……ゲームが……シナリオが……」とうわごとを呟き続けていたのだという。


 本来ならば死罪は免れなかったが、イーサンが減刑を訴え、彼が連れ添うことを条件に、彼女は流刑となった。


 刑の執行の日。彼は、深々と私に頭を下げ、彼女とともに、船に揺られていった。


 ※


 戴冠のごたごた処理も落ち着いた頃。私たちは式を挙げることにした。


 タキシード姿に身を包んだ彼はとても勇ましく。威厳がありました。


 バルコニーで民衆に手を振りながら、アルジェは私に囁きました。


「僕は、君のことが。実はずっと昔から好きだったんだよ」


「どういうことですか?」


 要領を得ず、首を傾げていると、アルジェはおかしそうにくすくす笑いました。


「僕は、いつも窓の外で元気に遊ぶ弟と君を見ていた。ある日、僕の部屋に入ってきたんだ。話しかけようと思ってどきどきしながら近づいたら、君は悲鳴をあげるんだ。「化け物!」って……ショックだったなぁ」


「私……そんな……なんてことを……」


 なんということか。自分自身が彼のトラウマの原因だったとは、申し訳なさすぎて、泣きそうになる私を、彼はぎゅっと抱きしめてきた。


「だから、あの日。大人になった君が部屋に入ってきたとき。とっても怖かったんだよ。また、同じことが起こるじゃないかって」


「でも、起きなかった」と、嬉しそうに呟いて彼は満足気に微笑んだ。


「僕を、あの暗い部屋からここへ導いてくれてありがとう」


 あなたを、暗闇の部屋に閉じ込めていたのは、私だったのかもしれない。だけど。


「いいえ、何度だって連れていくわ」


 そっと、その頬に触れると、今日は少しカサついている。彼はそれでも微笑んで、誓いの口付けをくれた。


end

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポ良く進んでよかったかなと。 [気になる点] まずはアトピーの自分として気になるのは聖なる力。 魔法的なものがある世界なのかな?ステロイドはなくてもそれ以上のパワーで色素沈着した肌や湿…
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