その1 始まり
|街角<まちかど>聖女
その1 始まり
わたしは聖女です。
おとうさんは腕のいい家具職人で彫刻師。
おとうさんのつくった家具は、どこかに必ずきれいなお花やかわいい生き物が彫りこまれていて
わたしのちいさな寝台には、枕元に、こうさぎたちがおどっている、かわいい姿がありました。
わたしはいつもそれをみあげて寝ていたの。
大好きなおとうさんがこつこつと、木を彫る音を聞きながら。
死んだのは六さいの、おたんじょうびのすぐ前で
お迎えに来てくれたかみさまが、生きてたら聖女になれたのにねって言ってくれたの。
聖女って魔力の器が大きすぎるので
体にふたんがかかるから、大人になれない子もいるのだそうです。
さあ、いこうって手をさしだされました。
でも、大好きなおとうさんが、大きなせなかをふるわせて
いっしょうけんめい彫ってるので、はなれたくないってお願いしたの。
わかくてきれいなかみさまは、ちょっと手をくちにあててて考え込んで
じゃ、すきなだけそこにおいでって言ってくれました。
でも、ちゃんと修業はするんだよ、って。
わたしはせなかしか見えなかったおとうさんの正面にまわって
その顔をまっすぐに見上げます。
おとうさんは、仕上げにわたしのくちびるに紅をさして
泣きながら「きれいだよ」ってあたまをなでてくれました。
だからこれからも、おとうさんのそばにいられます。
お約束の白いおようふくに青いまんとの
ほほえみを浮かべた木彫りの小さな聖女の姿で。