第06話 ふぇすてぃばる ②
始まりは一発の凶弾だったと後世で歴史学者達が激論を繰り広げた。
建国記念日の祭典で第三皇子を狙った教団法王国の使者だったと宮廷画家達によって描かれた。
幼き死者を悼む想いは戦火を生み、やがては大陸全土へ続くだろうと数学博士が導きだした。
その知らせを聞いた皇帝は重い腰を上げ帝国に仇なす敵国への報復としての戦争を宣言した。
戦場で引き裂かれた哀れな少年少女の小夜曲をご覧あれ
「「「うぉぉぉぉッッ!!!」」」
捕虜解放を祝う祭当日、その日は祝砲の轟音を掻き消すような少年少女達の大歓声が辺りに響く!それもそのはず軽快な楽曲を奏でながら基地へ行進してくる蒸気自動車に載った音楽隊を先頭に派手な塗装の慰問団のゴブリンとホブゴブリン、その肩や掌に乗り、手を降るブーメランパンツの筋肉質の美男やマイクロビキニのナイスバディの美女。そして一団の中央でひときわ目立つ神輿に担がれる2機の蒸気兵、その内の1機は海を思わせるような紺碧色に染められ6メートルはある体格に無骨な重装甲を纏い肩に巨大な左右3本2対のスパイクを付けていた、そして開け放たれたコクピットハッチから見える搭乗者はその蛮勇な機体に似合わない細身の老紳士ラブロフ男爵が穏やかな笑顔で手を降っていた。そしてもう1機、紅蓮の焔の如く真紅に染められた隣の機体より少し小さい5メートルの体格に額に一本角と流線型の軽装甲を纏わせた機体のコクピットにはその華麗さからは程遠い脂ぎった小太りの男が仏頂面で腕を組んで座っていた。そして2機が持つ大型のラウンドシールドの紋章は向かい合う獅子が持つバトン、それこそ…
「うぉーっ!?トランプの騎士だー!?えっ、フラン隊長!?あの変態紳士、13人衆だったんですか!?」
「そうよ、言ってたら身体を許してたの?」
「そんな訳ないじゃないですか!でも凄いなぁ~あれこそまさに国の守護神、そして動く伝説、あれを見てテンションの上がらない奴なんていないっすよ!」
アーニャが感嘆の声をあげると他の子供達もその迫力ある姿に目を奪われている。それはこの世界において圧倒的な存在感を放ち、その存在は人々に畏怖されながらも憧れの対象となっている存在。つまりは実際は戦闘に使われることなく戦意向上を目的とした芸術品として飾られているだけの貴重品でありこの場の安全が保障されている事を表す象徴であった。その事にキョウカが小さく安堵のため息をつく。
「そうね、トランプの騎士がここに居るって事は今日の捕虜帰還は安全が確保されているって事ね…」
そして長らく捕虜として苦しんだ同胞を労う…という名目でラブロフ男爵を接待する傍から見たら全く意味の判らない各部隊による半裸の男児による演目が開始された。最初は第02歩兵小隊の子供達が剣舞を披露すると会場は拍手喝采に包まれる、そして次は第04工兵大隊所属の少年兵がドラムセットを演奏し始めるとその音色に合わせてブーメランパンツの男児達が踊り出すと観客席のラブロフ男爵のボルテージは最高潮に昂ぶる。
「おい君たち、是非とも彼らの美しい姿を銀板に残して置いてくれたまえ!ああそっちの子もだ!いいぞもっと寄れ!ほらそこも!ああ良いね最高だよ!」
ラブロフ男爵の要望に応えカメラを構える兵士達、その様子を見ていたアーニャの顔に笑みは無かった……いやむしろドン引きしていた、これが国の守護神たる13人衆の姿なのかと…
そして男児たちの演目も終わりを告げラブロフ男爵からの感謝の意味を込めた慰問団による本来の目的である慰安と娯楽を兼ねたショータイムが始まった。
それはその豊かな身体をほとんど隠していないマイクロビキニをきた美男美女によるポールダンス、続いて男女のペアでの腰を密着させてのストリップ。引き締まった筋肉と豊満で成熟した肉体、食べている栄養が全く違う人種の演技にさんざん待たされていた観客のボルテージは一気にピークに達した!そしてその熱気は更に高まり、遂にはステージ上での本番行為が始まる。
「「「うぉぉぉぉッッ!!」」」
「行けーッ!!!」
「キャーーーッ♪」
今日も前線では少年少女兵達の歓声が響き渡る、だがその歓声にはいつもと違っていた。やがてストリップショーも終わり、鳴りやまない歓声と共に沸き上がる拍手喝采の中、いよいよメインイベントの準備が始まるとラブロフ男爵は席を立ちフラン達、各隊長がいる席へやって来る。
「次はヒョードル君の演目のようだから私はお先に失礼させてもらうよ、君たちには心苦しいと思うが最後までパトロンである彼の演目に付き合ってあげてくれたまえ、ではまた後で会おう諸君」
そう言うとラブロフ男爵はいそいそと逃げるように観覧席を後にした、その様子をアーニャが首をかしげながら眺めていた。
「ん?フラン隊長、これから一体何をやるんすか?さっきからずっと黙り込んでますけど…」
「アーニャ…貴女は去年はずっと屋台にいたから知らないだろうけど、ヒョードル准男爵はラブロフ男爵と同じトランプの騎士よ」
「あの紅の騎士に載っていたデブっすね…って痛っ!?」
フランがアーニャの頭を平手で叩く
「パトロン相手に失礼な事を言っちゃダメでしょ!」
「つまり…また我々は、その准男爵の変態行為を見せつけられる訳ですね」
再びフランが手を振り上げるがしばらく考えたのちに振り上げた手を降ろす
「まあ…変態行為…ではないけど…とにかく大切なパトロンだから、どんな時も笑顔を絶やさないようにね、判った?」
「判ってますよ、どんな変態相手にも笑顔ですね、任せてくださいフラン隊長、私、笑顔には自信ありますから!」
そう言うとアーニャはニッと歯を見せてとびきりの笑顔を見せる。
ジャジャ~ン♪バンバンバン♪楽曲隊の演奏が始まり
そして舞台にスポットライトが当たるとそこには先ほどまでとは打って変わって真紅のタキシードを着た脂ぎった小太りの中年男性ヒョードル准男爵が現れた、彼はゆっくりとした足取りで舞台の中央に立つと恭しく一礼すると観客席に向かって語り掛ける。
「へ~い♪紳士淑女の皆様、本日は僕のオンステージに御集まり頂きありがとうございます…」
「あれ?フラン隊長なんか普通っぽいんですけど変態行為を見せ付けられるんじゃないんですか?」
アーニャが隣を見るとフランや各隊長たちも拳を強く握りなにかに耐えるようにじっとしていた。
「??」
「それでは聴いてください、『恋の歯車』ッ!!」
ヒョードル准男爵の声に合わせて演奏隊が音楽を奏で始める。それはこの国に伝わる古い恋詩だった。
「ん~♪恋をした事のない僕だけど~君との未来を信じて今日も僕はペダルを踏むんだ~♪」
気持ちよさそうに歌うヒョードル准男爵、だが周りの人間にとってはまさに音の拷問と言うべき音痴の歌声、たまらず観客たちはどんどんと避難するが、逃げることの許されないフランたち各隊長はその歌を聴きながら必死に耐えていた、そしてアーニャも顔を真っ赤にして耐えていたが……ついに限界を迎えたのか ガタッ 椅子を蹴倒して立ち上がるとアーニャをフランが静止する。
「ほらアーニャ、笑顔に自信があるんでしょ、笑顔♪笑顔♪」
フランはアーニャを無理矢理座らせるが、アーニャは顔が引きつっている。そしてヒョードルの歌が終わりを迎える。
ジャジャン!! ヒョードルがマイクをスタンドに戻すと同時に安堵のため息と共に会場は拍手喝采に包まれる。
「ご静聴ありがとう!皆の心のアンコールが今まさに僕の心に響いたぜ!それじゃあ次の曲、聞いてくださいッ!タイトルは……」
「え~~~ッ!?アンコール!?ちょと待ってよ!!そんなのあり!?ダメ!絶対無理!このままだと死んじゃう!お願い逃げさせてッ!」
「アーニャ、黙って!笑って我慢するのよ!」
フランがアーニャの口を塞ぎ笑顔を作りステージに手を振る、苦虫を噛み潰したような表情の観客たちが拍手をする中、気持ちよく歌い続けるヒョードルにフランたち、そして各隊長の地獄のような時間はまだまだ続くのであった。
「ハァハァ…もう無理…何処かで休ませて…」
ようやく音の拷問から開放されたアーニャがフラフラしながら屋台通りを歩いていた。しかしその時ドンっと人にぶつかる衝撃がありアーニャは尻餅をつく、 顔を上げるとそこにはフランと瓜二つの顔をした金髪の女性の姿があった。その女性は軍服をだらしなく着崩して胸元を大きく開けており豊かな胸を見せ付けるようにしていて、更にはスカート丈が合って無いのか短すぎて下着がほとんど見えてしまっている。
「あらゴメン遊ばせ、ですが往来の真ん中でぼんやりしている貴女が悪いのですわ、そう思いませんこと?」
そう言うと彼女はアーニャの目の前を悠々と歩き去って行ってしまった。呆然とその女を見送るアーニャは立ち上がりズボンについた砂埃を払う。
「まったくなんなんだあの糞女!フラン隊長に似ていたけど…まさかあんな下品な奴がフラン隊長の姉妹とかじゃないよね……」
アーニャが女の歩いていった方向を向いたがすでに何処かに立ち去った後だった……
「あ、アーニャ!ようやく見つけた、どこいってたんだよ」
ぼんやりと遠くを見つめていたアーニャに同室で同じチームの操縦手アベルが声をかける。彼は先ほどまでの演奏のせいなのか少し疲れた様子だったが、それでも笑顔で話しかけてきた。アーニャも彼に微笑み返すと ふと先ほどの女性の事を思い出し、気になっていた事を尋ねることにした。
「さっき隊長によく似た人を見かけたんだけどアベルは見てなかったか?」
「隊長に似た人?俺は見ていないけど、どんな人だったんだい?」
「それが凄い格好で、なんかフラン隊長にそっくりな美人さんだったけど、なんか下品というか……」
「へぇ~そうなんだ…って、そうだ!?さっき屋台でアーニャに似合うだろうと思ってこれを買ったんだ、部屋で渡すとナターシャのバカが面白可笑しく囃し立てるだろうから、だから今渡しておきたかったんだ、ほら」
アベルの手には綺麗な花飾りがついた髪留めがあった。それを見たアーニャが顔を赤くするとアベルも照れ臭くなったのか頬を掻く仕草をした、そして二人はお互いの顔を見て笑い出す
「えっ!?ア、アタシに似合うかな、なんか子供っぽくないか?…どうかな?似合う?」
アーニャは恥ずかしそうに頬を染めながら髪飾りをつけると、アベルはそれを見て嬉しそうな笑みを浮かべる
「うん!似合ってる、凄く可愛いよ!」
「そっかぁ、えへへ、ありがとうアベル、大切にするよ」
そう言って二人は微笑むとお互い照れたのか目を逸らすと話題を反らすようにアーニャが口を開く
「そ、そう言えばアベルは除隊したらどうするんだ?」
「えっ!?俺?そう言えば考えた事無いな…ここにいれば毎日食事に困らないからなぁ…」
「アタシも毎日食事が食べれれば良いと思っていたけど綺麗な服を着て美味しい料理を食べれても上司が変態だと楽しく無いってよく判ったからね、それなら貧しくても気心のしれた仲間と小さなお店をやるのも良いかな…って、そうだな、例えばお花屋さんってどうかな?」
「お花屋さんか……」
………えっ!?今日は配給のパンだけ!?いや僕はいいからアーニャが食べてよ、君の平坦な胸ではミルクの出が良くないだろうから、赤ちゃんのためにもたくさん食べていっぱいミルクが出るようになると良いね、もう君1人の身体じゃないんだから…ん、これでいいのかアベル……アーニャの胸がエトナ火山の如く急成長する可能性を考慮していないじゃないか!ならば、もう一度アーニャの胸が急成長した場合を再想定しないとだな……
「ぉーぃ…アベル…帰ってこーい…妄想辞めろー!!」
「えっ!?アーニャ!?エトナ火山の輝きは!?」
「お前に想像を促したアタシが悪かった…けど…何を想像したら花屋に火山が出てくるんだ?」
「あははは、何でだろうな~」
流石に正直に話せばアーニャに殺されかねないから笑って誤魔化すしかないアベルだった。
「まぁ良いや、今日は朝からフラン隊長たちに付き合って何も屋台を見てないんだ、何か面白いのがあったら教えてよ」
「それだったら僕のとっておきの屋台があったから案内するよ、さあ行こう!」
アベルがアーニャの手を握り屋台が並ぶ大通りを走り出した。
その頃、客室の一室で先程アーニャに傲慢な態度を示した女が、先程とは打って変わって軍服の乱れもないがスカートだけは急遽替えようがなかったのか下着がほとんど見えるミニスカートで姿勢を正し直立で敬礼をしていた。
「フランチェスカお嬢様、前線での不便なお暮らしでお身体になにか支障はございませんか?」
女がそう聞くのはフランチェスカ・エカテリーナ少尉がソファーに腰掛けていた。
「好きで前線に来てるんだから大丈夫よ、それよりもカティナ、忙しいのにわざわざ来てくれてありがとう」
「いえ、私めはいつでも貴女のお側付きとしてフランチェスカお嬢様の身を案じていますから…なにしろあの女がフランチェスカお嬢様の側にいますから…」
そう言い終わる前にカティナから猛烈な殺気が溢れ出した。
「あはは…キョウカさんはカティナが思ってるような人じゃないよ…そ、そうだキリロム兄様は何か言ってた?」
「キリロムさまも、そ、その毎日心配しております…義肢とヴォーパルバニーをちゃんと整備しているのかと…」
「あはは…キリロム兄様もお変わり無いようで安心したわ」
フランは苦笑いをするしかなかった。
「それでカティナ、今日は私の健康管理でわざわざ来たの?」
「はい、その通りです、何か問題でも?前線には獣の如き男が数え切れないほどいて、フランチェスカお嬢様の穢れない御身体を暴力的に弄んでいるのでは無いかと思うとこのカティナ、夜も眠れない日々が続いております、フランチェスカお嬢様に万一の事があっては生きてはおれません……」
「もうカティナは大袈裟だなぁ、私は子供じゃありませんよ、こう見えて私強いんだから」
そう言うとフランはドヤ顔で胸を叩くがカティナの目は冷ややかであった。
「とにかく男は狼だと思って気を許してはいけませんよ!それとあの女の事は絶対信用してはダメですよ!」
「わ、分かったから大きな声で言わないでよ、びっくりしたよ」
「申し訳ございませんでした、言いたいことはそれだけでございます、本日はこれで失礼致します」
フランに敬礼を済ませるとカティナは部屋を出ていった、その姿を見送りながらフランは思った。
(あれで私の替え玉が本当に務まっているの??パンツ丸見えなんだけど…みんな私の事どう見てるの??)
その後、アーニャから路上で出会ったカティナの話を聞いたフランは改めて自分の替え玉にさらなる不安を感じた。
ご意見、ご感想ありましたらビシバシッ!お聞かせくださいませッ!(`・ω・´)ゞ