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シルバニアファミリー物語  作者: ぴちぴちピッチ
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第05話 ふぇすてぃばる ①

始まりは一発の凶弾だったと後世で歴史学者達が激論を繰り広げた。

建国記念日の祭典で第三皇子を狙った教団法王国の使者だったと宮廷画家達によって描かれた。

幼き死者を悼む想いは戦火を生み、やがては大陸全土へ続くだろうと数学博士が導きだした。

その知らせを聞いた皇帝は重い腰を上げ帝国に仇なす敵国への報復としての戦争を宣言した。


戦場で引き裂かれた哀れな少年少女の小夜曲をご覧あれ

森林の中にひっそりと隠れるように存在する廃鉱山を改造したバルトラント帝国前線基地の中、新兵たちもようやく兵士の顔になり出した午後の訓練の最中、訓練場を走っている少年少女たちの中の一人、金髪のツインテールの少女アーニャはフランとキョウカに呼び出された。


「ねぇアーニャ、ちょっと来て!話があるんだけど」


「なんですか?フラン隊長、それに劉副長も…」


アーニャの問いかけにフランは真剣な顔つきのまま言った。


「あのねアーニャ、貴方にお願いしたい事があるんだけどね、貴方にしか出来ない事なの、その…貴方にこの部隊を任せたいのよ」


「任せる……ですか?」


「うん、アーニャにはこの部隊の指揮を取って欲しいの、もちろん私もあなたを補佐をするから」


アーニャは驚いたように目を見開いた後、頬が緩んでいくのを感じた。自分がこの部隊の指揮を取るという事がとても誇らしく思えたのだ。

だがしかしアーニャはすぐに首を横に振った。


「いやいや無理でしょ、私が指揮なんて出来る訳ないじゃないすか。私よりフラン隊長の方が適役っすよ」


慌てて否定するアーニャに困っていたフランにキョウカが助け船を出すように説明をする


「そんな難しく考えなくても大丈夫よアーニャちゃん、いつも通りの前線指揮だと思えばいいのよ。ほら、今度、捕虜交換があるでしょ、それで部隊の再編があるんだけど、元々前線で働いていた兵隊さんだけど怪我をしてるから出来る事と出来ない事がある人達がほとんどなのよ、それで今いる子たちとの相性を踏まえて面倒を見て欲しいのよ」


「なるほど、そういうことっすかね、まあ、それくらいなら別にいいっすけど」


「良かったわ、引き受けてくれて。でもまだ怪我が治っていない人も多いからしっかり見ておいてね、アーニャちゃんはこの部隊の未来を担う大事な人なんだから」


キョウカの言葉にアーニャは照れくさくなり頭を掻いた。


「うへぇー、そんな大袈裟なこと言わなくて良いってのに、まっ、とりあえず頑張るっすよ、まっかせてくださいッ!」


そう言って胸をドンと叩くと、アーニャは敬礼をして訓練に戻った。その様子を見守るフランとキョウカだったが…


「キョウカさん…アーニャに捕虜にスパイが交じっているかもしれない事と、私のヴォーパルバニーを戦闘に出せない事言わなくて良かったんですか?」


「あの子はそう言う難しい事考えるタイプじゃないからね、スパイ探しは私たちで頑張りましょう。」


フランの言葉にキョウカは微笑みながら答えた。そして2人はアーニャが去って行った方を見て、これからの事を考えていた。


「教科書では捕虜交換でスパイを送るって有りますけど戦争が始まった頃ならともかく、今前線にいるのは10歳前後の子供がほとんどでしょ?そんな子にスパイなんか務まるんでしょうか?」


「太極国にいた頃は生まれてからスパイの教育を受ける子もいたけど…正直それだけ有能なら別の事に使えばいいのでは?と思う事もあるのも事実よね…亡命目的の敵国兵を懐柔して利用するとしても、よほど階級の高い人物じゃないと作戦司令部には入れないし、蒸気兵を盗むにしても最低でも操縦手、砲撃手、車長の3人必要なので発見される可能性が高くなるよね…まぁ、そう言っても何も警戒しないよりは良いのではないでしょうかね」



ガンガン…トントン…ガンガン…

基地のあちこちから大工仕事の音が響いていた、長らく敵地で捕虜をして苦しんでいた同胞の帰還を祝うため、そして兵士として基地に残れば美味しい待遇にありつける事を全ての兵士に伝える戦意向上を兼ねて慰問団が来るということで基地全体が色めき立っていた。慰問団の受け入れの準備で忙しく働く兵士達は基地内の倉庫の中には所狭しと並べられた戦車、装甲車、歩兵砲など、様々な種類の蒸気機械をスミに追いやって片付けるので、とても前線基地とは思えない様相だった。

そんな喧騒の中を、フラン、キョウカ、アーニャの3人が屋台の並ぶ通りを揃って歩いていた。


「こういう時、男の子ってやたら張り切るわねぇ、普段の訓練もこの位やる気を出してくれると楽なのにねぇ」


「去年はアーニャが男の子に混ざって一生懸命屋台を作ってくれたのよね、懐かしいなぁ、ねぇアーニャ、今年は作らないの?あの屋台」


「フラン隊長、何時までもアタシは子供じゃないんですよ、隊長代行として部下の面倒を見なければならないんですよ、屋台なんか作ってる暇なんか無いっすよ」


「へぇ頼もしいわね、でもあんまり無理しないでね、困った時は私を頼って良いんだからね」


「それで祭の準備放っといて、これから何処行くんですか?」


「アーニャちゃんも、もう古株でしょ、慰問団の偉い人に顔を覚えておいて貰っても損は無いでしょ」


「えっ…偉い人に顔を覚えられる…って、まさかアタシの身体で接待しろって!?」


「安心しなさい、これから会うラブロフ男爵は同性愛者だから男の子にしか興味が無いわ、しかもYesショタ!Noタッチ!を信条にした生粋の少年愛好者よ、まぁアーニャがどうしてもと言うなら別の人を紹介するけど?」


「嫌ですよ絶対!行きます、行ってやりますとも、その男色男爵の所に!」


「そう、じゃあ付いてきて」


そう言うとフランは廃鉱を改造した基地内をどんどん奥へと進んでいく、やがて一つの部屋の前で立ち止まると扉をノックした。コン、ココ……コツ…………ガチャ 中から返事がありフランはその部屋のドアを開けた。中に入るとそこには白髪の初老の紳士が椅子に座っており彼こそが少年愛好者ラブロフ男爵その人だった。


「おお、フラン君、キョウカ君久しぶりであるな、相変わらず2人共美しい、まさに戦場に咲く華、そして群がる虫どもを惑わす妖華の如く、隊長職についてなければ我が慰問団に欲しい逸材であるよ」


「そんな…褒めても何も出ませんよ…それよりご紹介しますね、この子が我が隊のエースパイロットのアーニャです、どうぞよろしくお願いいたします」


「た、只今、し、紹介に預かりましたアーニャ・クルチバ軍曹です、あ、であります!」


ガチガチに緊張したアーニャに対しラブロフ男爵は、ふむ…と一声発すると前、横、後ろと値踏みするように、そして舐め回すようにアーニャの身体を眺めている。フランは少し心配になりキョウカの方を見るとキョウカは微笑みながら小さくうなずいている。


「むむむ…素晴らしい、実に素晴らしい、特にこの胸は見事、まるで未熟な少年の青い果実の如き……」


オーバー気味な身振りでラブロフ男爵がアーニャの薄い胸板を撫で回す、その行為にアーニャはビクンとなり全身に鳥肌が立つ


「ひぃぃぃッッ!!」


アーニャの声は聞こえていないようで、ひたすら自分の世界に没頭するラブロフ男爵。


「すばらしきかな無駄な肉付の無い洗練されたその肉体、それはまるで孤高に咲く野薔薇かな、だがしかし、残念なるは私が愛する少年では無い、ということか、少年とは限られた時間に生きる神聖にして崇高なる存在、その汚れのない彼等が無情にも命を散らし、輝きを放つ前線とはなんと甘美な場所であるか…」


パチン! キョウカがアーニャの身体を撫でまわすラブロフ男爵の手をを強く叩き落とす。痛みで我に帰るラブロフ男爵は目をパチクリさせながらも冷静さを取り戻す。


「コホンッ、ラブロフ男爵、少々興奮しすぎてはございませんか?御祭はまだ始まったばかりですのでポケットで暴れているモンスターをしまわれてはいかがですか?」

キョウカが視線でラブロフ男爵の下半身で怒張しているテントを指し示す。


「おっと、これは失礼した、紳士としてあるまじき失態であった、それではキョウカ君、今年も君の幼年組の発表会を愉しみにしておるぞ」


「ラブロフ男爵の慰問団と比べれば素人の集まりですが精一杯お楽しみいただけるよう頑張らせていただきます」


「ほっほ、謙遜などせずとも結構、私は原石の輝きを楽しみたいのだ、全力を出してくれればそれでいい」


「それでは失礼させていただきます」


3人はラブロフ男爵に敬礼を済ませると早々に部屋から退出を済ませると緊張の糸が切れたのか廊下でアーニャが膝から崩れ落ちた。


「はぁぁぁぁ………」


「ちょっと、大丈夫アーニャ?」


その様子を見たフランがアーニャを抱きかかえ、キョウカが優しくアーニャの頭を撫でると、涙目になりながらフランを見上げる。



「いや……あのオッサンヤバすぎでしょ、何アレ完全にイッちゃってるじゃないですか、マジで喰われるんじゃないかと思って怖かったんですけど」


アーニャの顔色は青ざめており小刻みに震えていて、フランとキョウカは顔を見合わせると、はぁっとため息をつく。

アーニャの気持ちはよくわかる、普段から変態チックな言動が目立つラブロフ男爵だが戦闘中はそれが更に悪化し、たまに意味不明な事を口走る事があるのは判るが…


「あらら、アーニャちゃんも女の子なのね、でもパトロンに怖いとか言っちゃダメでしょ?」


「そんな事言ったって!フラン隊長も見てましたよね!?あのジィさんの目、完全にアタシの事狙ってますよ、全然Noタッチじゃないじゃないですか!触りまくりですよ、あんなのに襲われたりしたら、アタシ、もう生きていけないよ!」


「良いじゃないラブロフ男爵に気に入られたら除隊後も安泰よ」


「そうよアーニャちゃんの戦歴を考えると手放したくないけど除隊後の事を考えていても損は無いでしょ、それにラブロフ男爵にとってアーニャちゃんはどう転んでも前菜にしかならない存在よ、メインデッシュは彼の方よ」


キョウカの視線の先を見ると第05小隊『ベビードール』の隊長が死刑宣告を受けたような表情で歩いてくる、その後ろには彼に防波堤として用意されたであろう何も知らない希望に満ちた瞳でキョロキョロしている少年兵達。死地へと向かう一団へフラン達は黙祷を捧げるとその場を後にした。

ご意見、ご感想ありましたらビシバシッ!お聞かせくださいませッ!(`・ω・´)ゞ

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