第02話 おとこのことおんなのこってむずかしい?
蒸気兵が引き金を引くたびに爆音が響き、血飛沫と黒煙があたりに舞い踊った。
「誰か、助けてください、死にたくないと」誰かの声が遠くで聞こえていた。
いざ進め勝利の鐘を鳴らさん亡者達の行進に今日も名も無い花が踏み潰されていく。
路地裏では戦火のどさくさ紛れにドブネズミたちが今日の戦果を祝う宴を開く。
少年少女による殺戮の狂想曲の開演である。
厳しい軍隊生活の中での楽しみは食事であり、その日も食堂は多くの兵隊が集まり喧騒に溢れていた。
その中で赤毛を短く刈り込んだ少年兵アベル・グリードは食事に手が付けられないほど悩んでいた。
帝国軍少年少女隊において隊長、副長を除いて寝室、浴室、トイレ、それ等、全て男女共用であり、つまりは元気が余っているなら早く子を生み兵士を育てよ!
…と大人たちは言うが、命を刈り取った手で生命を作るのか?明日をもしれぬ命で誰を育てるのか?
そんな建前はともかく、少女兵の多くが胸か背中か判らないほど痩せていて勃つ物も勃たないというのが少年兵達の本音であった。
その為、実際手を出すに至った勇気ある少年兵はごく少数だったそうだ。
少年兵アベルの悩みも同室のアーニャの事だった。
先程ゴキゲンな感じで新兵達と食堂に入ってきたかと思ったら、ボクを見つけるなり部屋の荷物をまとめるようにと言ってきたのだ。
何か知らない内に彼女を怒らせるような事をしたのか!?部屋だけでなく操縦手も解雇されるのか!?そんな言いしれぬ不安に押し潰されそうになっていた。
「あぁぁ…アーニャ許してくれよぉぉ…ボクはパートナーと言う立場に胡座をかいて君を女として見てなかったんだ…だから機嫌を直してくれぇぇ」
「おいアベル!お前何ブツクサ言ってるんだよ?早く来い!」
いつの間にか背後に立っていたアーニャに呼ばれてアベルはビクッとした。
「うわぁーー!!アーニャ!ボクは一生、君の平坦で哀れな胸を愛すると誓うよッ!
だからボクを捨てないでくれぇぇ!」
アーニャの胸に飛び込むと同時にアベルはアーニャによって投げ飛ばされ床に叩きつけられた。
「何をどさくさに紛れて訳の判らない事言ってやがる!このバカアベルッ!!」
「えっ?えっ?アーニャ?あれっ?ボクはいったい何を…」
「まったく、お前は戦闘になると頼りになるんだが普段の言動が残念すぎるぞ!」
「だって…アーニャが突然荷物をまとめろって言うから…てっきり…」
「このバカ!新兵がたくさん来たから同室に砲撃手のナターシャのバカと整備士のガキを入れてアタシ等チームでまとめる事になっただけだろ!」
「そうなの!?じゃあボクはアーニャのパートナーで良いの!?」
「ああ、そういう事になるんだが…それをどう解釈したら…って、誰の胸が平坦で哀れだって話になるんだ!」
確かにアーニャの胸は平べったくて固い、それは事実だ!だが彼女の思い出話では母親の胸は大きかったと言うから、いつかきっと…と考えるも脱線しすぎた、とにかく今は謝罪すべきだ。
「あ、あの…その…ごめんなさい……」
「まあいいさ、それよりほら行くぞ!」
「どこに?あっ!ちょっと待ってよアーニャ」
食堂に向かう廊下を駆け抜けていく2人。
その頃、フランとキョウカは幼年組の少年少女達と共に浴槽に浸かっていた。
「この度は補充兵の手配からチームごとでの部屋の割り振り、いろいろと大変お世話になりました」
フランがキョウカに対し頭を下げる
「そう思うならちゃんと反省してよ、優れた者が率先して仕事をこなすのは良いけど指揮官であるあなたが前線に出ちゃったら部下が全力で守らなければならないの、運が悪い事にアーニャちゃん達が優れていたからそれが出来ちゃっていたけど、
指揮官は部下の全力を見るのではなく、通常の力で運用できるように考えなければいけないの、もちろん全力を出すことが駄目って訳じゃないのよ、
いつか全力を出さなければならない時が来る、その時に出せばいいの…って、フランちゃん、ちゃんと聞いてる?」
「あ、はい、聞いてます、おっしゃる通りです」
フランは湯船の中で正座をして聞いていた、と言うより聞かされていたというのが正しい。
その様子を見ていた幼いリリィには何を言っているのか判らなかったが、幼いリリィでも判る事があった。
フランとキョウカの2人は貧民街では見た事が無いほど肌が、きめ細やかであり、髪の毛にも艶があり、何より肉付が良い。
よほど裕福な暮らしをしていたのが判る、だがそれが何故、自分たちのような貧民といっしょに前線で軍隊にいるか?裕福な家庭のものであれば免除金を支払い兵役を免除するか、後方で優雅に働いている物だ。
そして疑問はまだある、フランの手足に装着された義肢は先ほどまでいじっていた蒸気兵士の物を小型化したように見えるが、まるで芸術品のような指先まで精巧なほど、よく動いていた。
そんなフランの義手義足が気になったのか、一人の少女がフランの手を取りまじまじと見つめている その様子に気付いたフランが優しく微笑みながら頭を撫でると他の子たちも目を輝かせて集まってきた、
「ねぇねぇ、どうして手も足も無いのに動くの?」
「これはね、機械の腕だよ、体の中の電気信号を腕に送れば思った通りに動いてくれるのよ」
「へぇー凄いなぁ~」
「本当に凄いよね、これがあればどんな敵とも戦えるし、私みたいに手足が無くても兵士として戦えるのよ」
「えっ?フランって兵士だったの?」
「あら知らなかったの?私は軍人さんなんだよ」
「そっかぁ~フランは偉いんだなぁ」
「あはは、ありがとう、君の名前はなんていうのかな?」
「僕はオリバー、幼年組で一番の機械技師さ、僕が大きくなったらフランと結婚してやってもいいよ」
「あら、嬉しいわ、じゃあ大きくなってからまた会いましょう、それまで元気にしてるのよ、
約束だからね、みんなも良い子にするのよ、ほらほら、もう出る時間ですよ、のぼせちゃうよ~」
そう言ってフランは他の子供達を連れて脱衣所へと向かっていった、その背中を見送るとキョウカは一人呟いた。
「兵士を駒としか見てなかったあの娘が……あんな顔も出来るようになったんだ……」
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