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シルバニアファミリー物語  作者: ぴちぴちピッチ
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第01話 あたらしいおともだちがやってきたよ♪

蒸気兵が引き金を引くたびに爆音が響き、血飛沫と黒煙があたりに舞い踊った。

「誰か、助けてください、死にたくないと」誰かの声が遠くで聞こえていた。

いざ進め勝利の鐘を鳴らさん亡者達の行進に今日も名も無い花が踏み潰されていく。

路地裏では戦火のどさくさ紛れにドブネズミたちが今日の戦果を祝う宴を開く。

少年少女による殺戮の狂想曲の開演である。

鬱蒼とした森林に隠れるように廃坑を再利用した部隊基地へ補充兵を乗せた蒸気トラックが、第13機甲小隊通称『シルバニアファミリー』の駐屯地に向かっていた。

トラックの中には路地裏で暮らすも上手に盗みを働く事も出来ず、やせっぽちで身体を売る事も出来ない、そんな少年少女達が10人ほど乗っていた。

彼等は自分達の境遇について悲観するわけでも、未来に希望を持つ訳でもない。

ただ、目の前にある食べ物と寝床があればそれで良かったのだ。

しかし、この国ではそんな生活すら当たり前に出来なくなった。


理由は簡単だった。


各国はいつ始まったのか判らない戦争により疲弊し、その結果10歳以上の未婚の男女に対し多大な税を課し、そして嫡子のいない者は夫婦と認めない事で財政をまかなう事になった。支払わない者には1年以上の兵役に服す事となった。

その結果、跡継ぎにならない女児や戦争に行きたくない者が路地裏で子供を買い、多くの戦場が大人たちの代理となる少年少女による殺戮の舞台となった。


そして、この国バルトラント帝国が四方の国と戦火を開いた事で、さらに多くの戦災孤児を生み、彼等のような子供が生き抜くためには装甲でまとわれた蒸気戦車や蒸気兵に乗り最前線に出るしかなかった。


「フラン隊長殿!オーダーしていたションベン垂れ達が来ましたけど、みんな生気の抜けた魚みたいな目をしてるっすねぇ…」


金髪のツインテールを揺らしながら少女兵が不安そうに言った。


「それだけまともな奴等って事でしょ、大人たちは暖かいベッドで見知らぬ人と子作りして路地裏に子供を捨てる、そんな大人達だらけのこの国で童貞処女だけが私達の家族なんだろうね…

未来に希望を持てる子供は内地で後方勤務をしているのが普通になってしまったのが現状ね」


フラン隊長と呼ばれた銀髪ショートボブの少女フランチェスカ・エカテリーナ少尉は失われた両手両足を補う金属製の義肢を眺めながら答える。


「確かにそうっすねぇ…帝国の守護神と言われるアルカナ重装騎士団なんか常勝の戦場にしかこないらしいですからねぇ…」


バルトラント皇帝直属の聖剣、魔導結社が誇る秘蔵の聖杯、芸能事務所のプロパガンタの錫杖、自由商業組合所属の硬貨、その4つの組織が所有する蒸気騎士の総称がアルカナ重装騎士団だ。

彼等の持つ人形兵器は騎士級と呼ばれる上位機種であり、神話級以上の性能を誇る。

ただし騎士級と呼ばれる蒸気兵は、この世界の科学技術では未だに製造不可能な代物であるため、量産は不可能とされている。

この世界には魔法が存在するが、魔法の行使に必要な魔力量は非常に膨大である為、簡単な占いなどで使用され、物語に出てくるようなドラゴンを打ち倒す魔術士という存在はあまり多くなく貴重な存在とされ、国家単位で保護されていた。

その為、戦闘における主力は蒸気戦車や蒸気人形などの蒸気機械仕掛けが主流となっている。

この第13機甲小隊『シルバニアファミリー』においても同じであった。


少女兵は、ふと視線を感じて振り向くと先ほどまで寝ていたはずの少年がこちらを見つめている事に気がついた。

目つきが悪く痩せこけた頬をしている。まるで死体がそのまま動いているような印象を受ける。

少年は少女兵の視線に気づくと無言のまま、走ってその場を立ち去りトラックの中に逃げ込んだ。


「なんすか?あの死んだ魚みたいな目をしたガキは?アタシ、あー言うの嫌いなんすよねー」


「ふふっ…自分が昔、あんな感じだったからじゃない?それでも貴女みたいに可愛い女の子を見て声を掛けられない思春期の童貞君って思えば可愛いじゃない」


少女兵に軽口を叩くようにフランは返した。しかし彼女はそれを肯定も否定もしなかった。

フランの言葉通り、この国では10歳を過ぎたら男女問わず性を売る事を大人から強要される。

それが嫌なら路地裏でゴミ箱を漁るか盗むしかない。

その結果、何も選べず行動しないで社会に貢献して無い者達が率先して戦場へと駆り出された


「そんな事より、そろそろあの子達に出撃準備をさせてもらえる」


「了解しました!フラン隊長殿!」


簡易的な敬礼を済ますと自慢のツインテールを振り乱し少女兵はトラックの中へ乗り込んでいく


「おい!クソガキ共!起きろ!!」


少年少女達は荷台の中で眠り込んでいたようだ。


「いいかアタシがお前らの教育係のアーニャ・クルチバ軍曹だ!しっかり付いてこいよ!」


「「「はい!!よろしくお願いします!!!」」」


「よし!良い返事だ!今日も元気よくいくぞぉおおお!!!」


「「「オーッス!!」」」


アーニャは少年少女を引き連れトラックを降りて鉱山に偽装された格納庫へ向かう。

第13機甲小隊の人形兵器の格納場所は駐屯地の奥深くにあり、外敵からの侵入を防ぐ為に非常に頑丈に造られており、

外からは開ける事が出来ないようになっている為、入り口で入念なチェックを受け毎回待たされることになる


「ほら!着いたよ!ここがお前らがこれから暮らす家だよ!」


そこには3体の巨大な人型兵器が鎮座していた。

全高5m重量20トン 20㎜機関砲40発マガジン搭載 前面35㎜装甲 テディ社V8蒸気エンジン搭載。

それがこの『シルバニアファミリー』の主力蒸気戦士『ゴブリン』である。

アーニャが指示を出すと、少年少女達はおっかなびっくりと確かめるように、それぞれ自分の搭乗席に乗り込む。

コクピットは頭脳担当の車長、上半身担当の砲撃手、下半身担当の操縦手の3人で操縦し小さな身体の子供用にカスタム化されていて、コクピットを小さくして機動力と装甲を増やす事が可能になったと言う。


「各自、シートベルトを締めて起動確認!」


「あ、あの…私はどうすればいいんですか?」


アーニャが隣にいる9歳の少女の首根っこを掴みながら言い聞かせる


「あ?お前は居残りだよ、あとで副長の所に連れて行ってやるから覚悟しておくんだね」


「うぅ……わかりました……」


少女兵は涙目になりながらもアーニャの足にしがみつく。

少女兵達の人形兵器の武装は銃剣と機関銃のみだが、その火力は蒸気戦車の正面装甲をぶち抜く威力を誇る。

そして何より人形兵器は操作者の魔力量によって性能が変わる。

この人形兵器の動力源となるのは蒸気機関であるが、魔導結社が作り出した魔力を燃料として蒸気で動かす魔導炉である。

この魔導炉は、使用者が魔力を流す事で、その属性に応じた魔法を発動する事が可能となる。

例えば火系統の魔法使いが魔導炉を使えば炎弾を放つ事が可能になる。

また水系統ならば水を操ったり、風なら空気を操作したりできる。

この魔導炉は、魔導結社が独占している技術であり、一般には出回らない代物である為、人形兵器の値段は通常の蒸気機関に対して非常に高い。


「蒸気エンジン起動確認!全員、準備完了しました」


「わかった、それじゃあ行くよ、ひょっ子共、アタシに付いてこい!」


アーニャは9歳の少女と共に蒸気車両に乗ると、ゆっくりと前進させた。


「ハッチ開放!発進するぞーっ!」


鋼鉄の格納庫の扉が開くと、そこはもう戦場だ。

アーニャはアクセルを踏み込み、一気に加速させる。


「さぁ!お前ら!戦場は待っちゃくれないぜぇえ!!」


「「了解ッッ!!」」


アーニャの指揮車両を先頭に3機の蒸気戦士が追従していく。

森林の中を索敵していると偵察をしていた蒸気軽戦車に追従する歩兵小隊と接触した。


「目標発見!前方の敵部隊!撃てーっ!」


「「「発射!!」」」


3機のゴブリンは一斉に射撃を開始する。

形勢は圧倒的有利な状況で偵察していた敵小隊は蜘蛛の子を散らすように逃走を開始していた。


「命中!敵の損害軽微!」


「怯むな!撃ち続けろ!相手はたかが歩兵だ!手数で押し潰せ!!」


「で、ですが…アーニャ軍曹…あ、あの、相手も子供です…!」


「はっ!アタシらの戦場ではそんなの関係ないんだよ!いいかよく聞けよ?

ガキだろうと女だろうと関係ねぇ!ここで逃がしたら明日はお前らが銃口を向けられるんだ。

ここで生きてくって事はそういう事なんだ! だからお前らは死にたくなかったら必死に戦え!」


「「はい!!わかりました!!!」」


頭では理解しても20㎜機関砲の引き金に指をかけると手が震え嗚咽が汲み上げてくる

それでも第13機甲小隊の少年少女達は、今日も生き残る為に戦う。


「よし!敵部隊は殲滅したぞ!お前らよくやった!」


「「ありがとうございます…アーニャ軍曹…」」


陽気に笑うアーニャに対して新人兵達の顔は肉体的にも精神的にも憔悴しきっていた。


「よーし!それじゃあ我が家に帰るぞぉぉっ!お前らしっかり付いてこいぃいい!!」


「「理解ッッ」」



駐屯地へ帰ると銀髪の隊長フランと黒髪の異国人、そして整備服を着た幼い少年少女達が出迎えてくれた。


「お疲れ様、みんな、私がこの小隊の隊長フランチェスカ・エカテリーナ少尉よ、よろしくね」


そう言って微笑みかける銀髪の隊長の姿はとても美しかった。


「そして副隊長の劉 姜華さんだ、見ての通り太極人だが、仲良くしてやってくれ」


フランからそう紹介されペコリと頭を下げたが黒髪の異国人は何もかも異質であった。

太極国はバルトラント帝国の東に位置していて現在戦争中の相手、そして独自の武術を生み出しており、その中でも剣術は他を圧倒していた。

その為、目の前にいた太極人も腰に刀を下げ艶のある漆黒の長い髪、神秘的な切れ長の黒い瞳、軍服のボタンが弾けそうなほど、たわわに実った乳房、見事に括れた腰つき、豊満な桃尻、まさに成熟した大人だった。


「劉副長!本日赴任しました新兵で10歳以下の者です、よろしくお願いします」


アーニャが敬礼を済ますと9歳の少女を前に出す、突然の事に慌てて少女はアーニャの足にしがみつく。


「あらあら嫌われちゃったのかな~、もうアーニャちゃんいつも言ってるでしょ副長だなんて怖い呼び方じゃなくてママって呼んでって!」


黒髪の異国人キョウカがアーニャに子供のように抗議する。


「はぁ?なんでアタシがアンタみたいなババァをママとか呼ばなきゃいけないんだよ!?」


「ちょっと!?アーニャ!そんな言い方はないでしょ!すみませんキョウカさん、うちの部下が失礼しました、ほらアーニャ謝りなさい!」


フランが慌てて注意すると渋々といった感じでアーニャは謝罪する。


「……悪かったよ」


「うふっ♪いいのよフランちゃん、私も悪いんだもの、それにしても可愛い子ね、名前は?」


「あ、あの……えっと……その……私はリリィって言います、えと、私もママって呼んでも良いですか?」


「もちろんよ!さあ遠慮なく私の胸に飛び込んでおいで!」


キョウカが両手を広げると、リリィは恐る恐る近づいていき、豊かな胸に抱きついた。


「はぅ……あったかい……」


「あらあら、甘えん坊さんなのね、後方支援担当の幼年組へようこそ~」


リリィを抱き締めた事を皮切りに後ろで控えていた幼い整備員達が母親を盗られるかと思ってか一斉に飛び込んできた。


「母親の愛に飢えてる子供達は素直じゃない、アーニャもキョウカさんに抱き締めて貰ったら素直になれるんじゃないの?」


「はっ!アタシがあんなババァに抱きしめられるわけ無いだろ?大体アタシはそんなに愛に餓えてなんかいない!」


「そう言いながらキョウカさんの前だと年相応の乙女な口調に戻ってるじゃない」


「あの人が軍隊の規律を乱すからです!先に戻らせていただきますフラン隊長殿!おらっ!ガキ共ゴブリンを格納庫に入れて食堂に行くぞーっ!」


真っ赤になったアーニャは新兵たちと共に逃げるように走っていった。


「ふふっ!アーニャは照れ屋なんだから、それじゃあキョウカさん、私もこれで執務に戻らせていただきます」


フランが微笑みながらアーニャを追いかける。


「それじゃあ幼年組のみんなー、これから帰ってきたゴブリンの点検をするから新しくきたお友達に作業の仕方を教えて上げてね」


アーニャとフランが走り去っていくのを横目に見つつキョウカは幼い子供らに指示を出す。

ご意見、ご感想ありましたらビシバシッ!お聞かせくださいませッ!(`・ω・´)ゞ

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