[短編]まいたけさんのお菓子〜飴玉で上司の口害を癒しにするの巻〜
「課長。書類です」
「もう少し早く出せないのかなあ?それと、いくら事務職だからってそんな愛想の無い顔は良くないでしょ。マスクして顔が見えないんだからって、サボってない?」
「…申し訳ありません。気をつけます」
イラッとしながら、頭を下げて席に戻る。
「口だけだねえ。全然笑いもしない」
口だけはてめえだろうが。
殺意を込めてボールペンを握る。
小さな課とはいえ、課員がじわじわと減っていくのはこのクソ課長のせいだ。
役に立ちもしない批判ばかりをしてくる。
イライラとキーボードを強打しながら今日も仕事をする。
イライラは伝播する。
職場の雰囲気は最悪だ。
「あー!もうやだー!」
四つ辻にある立ち飲み屋『もっきり』で日本酒をあおるように飲む。
向かいにある八百屋から椎茸を買って、店主に炭火で焼いてもらう。
ゆるい飲み屋で、頼めば八百屋にあるものをすぐに調理してくれる。
その料理を目当てに来る客も多い。
隣にいる常連もそのひとりだ。
「ねえ、まいたけさん、聞いてくれる?」
「はいはい、聞いてますよ。今、ニラと舞茸の炒め物食べたら話しますから」
もぐもぐと専用踏み台に乗ったまいたけさんが話す。
まいたけさんはお酒に強いがあまり飲まない。五分刈り頭の小さなおじさんだ。
丸顔でひどく狭い富士額に、眉と唇は太く、ぎょろぎょろとした目に、鼻の脇には大きなホクロのある特徴的な顔。
時々ここで会う。
「もう何の役にも立たないなら、黙ってろって!それならまだ猫が鳴いていた方が和むわ!」
女子にあるまじき口調でわたしは叫んだ。
まいたけさんは、うんうんと頷いて、炒め物を食べ終わると、
「それならいいものありますよ」
と言って、ポケットから飴玉の入ったガラス瓶を出した。
「これをその課長に食べさせて下さい」
太い眉と目をにっこりと弓形に緩ませて言った。
翌日、まいたけさんに渡されたガラス瓶に『のど飴』とラベルを張って、課長に渡した。
「こんな気遣いもできるんだねえ、きみ」
イラッとしたが、課長が飴を口に入れてマスクをすると、劇的な変化が起きた。
「にゃあん。にゃにゃにゃにゃあん。にゃ?」
なんて言った?
「…課長、書類いただいていいですか?」
「にゃあん。はい」
その後も課長は必要な言葉以外はすべて『猫語』になっていた。
しかも、かわいい猫の声だ。
時々にやにやして課長を見る。
課長が全ての課員からニヤニヤと見られて少し口数が減った。
そして、職場の雰囲気は少しだけ良くなった。
効能は結構長い。
勤務外も有効。
家でもにゃんにゃん言ってる。




