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こんなはずじゃなかったのに。~ボッチだった高校生活をやり直します~  作者: 松竹梅竹松
第4章 高1冬・聖夜祭

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第4章 第8話 変身願望 2

2018年 12月19日(水) 16:04




「「「…………」」」



 気まずい。めちゃくちゃに気まずい。



 突然俺を呼び出した七海。一緒にいた芽依。おそらく俺の謝罪の場を設けてくれたのだろうが、なんというか……気まずい。誰も話を切り出す気がない。



 ケーキ屋サジタリウスに併設されている小さなカフェ。その四人席の片側に芽依と七海は座っていた。



 七海は窓側の席でコーヒーを飲みながら外のなんてことのない商店街を気まずそうに眺め、隣の芽依は……ただ俯いている。何を考えているのかはわからないが、目の前のモンブランを見つめているわけではないということはわかった。



 対する俺は、反対の通路側の席でメニュー表を眺めている。当然なにを頼むか迷っているわけではない。なにから切り出せばこの場を切る抜けられるか、答えの出ない問答を心の中で繰り広げていた。



「どうもー、これうちからのサービスでーす」



 もう土下座してしまおうかと思っていると、井出さんが切り出したショートケーキを人数分持ってきてくれた。



「これ主水くんが練習で作ったものなんでお代は結構です。いやー、それにしても主水くん張り切ってたなー。大事な人に贈るためだって言ってたもんなー!」



 井出さんはそうわざとらしいアピールをすると、俺の耳元に口を寄せてくる。



「いい? 浮気バレはこうやって全部君のためだったんだアピールするといいから。私もこれでだいぶやられたよ……」

「えぇ……」



 やったんじゃなくてやられた経験なのか……かわいそうすぎる。まぁ井出さんの過去話は置いておいて、周りからはそう見えるのか。確かに俺が浮気して、浮気された芽依とそれを励ます七海という構図に見えなくもない。しかも俺の目線では隣にリルがいるんだから余計そう見えてしまう。まぁその浮気相手はケーキを見て涎を垂らしているんだが。



 とにかく井出さんのサポートのおかげで場の空気が和らいだか……と思っていると、芽依が一言。



「わたしに会うより先に……ケーキ作ってたんだ……」



 ……ねぇ井出さんなんでそそくさと退散してんの。なんで手を合わせてるの。ごめんじゃないが。



「と、とにかく……。芽依、ごめん」



 もうここまで来たら素直に謝罪するしかないと考え、頭を下げる。



「別にケーキ作りを優先したとかじゃなくて……聖夜祭でみんなと……」



 なんとか言葉を紡いでいると、視界の隅で七海が小さく指でばってんを作っていることに気づいた。こうじゃないということか。



「えと……芽依に……心配、かけたくなくて……?」



 七海の作る指サインに従い、言葉を繋げていく。心からの謝罪とはいかなくなったが、結局のところ全ては相手に伝わるかどうかだ。芽依が納得しなければ、どれだけ素直な想いでも自己満足に過ぎない。そう、これは芽依のため……。



「そうじゃ……ないよね……」



 これもダメなんじゃん! 手を合わせて……いやごめんじゃないが。



「主水さ、約束したよね。体育祭の後」



 七海に非難の視線を送っていると、今までとは違う。芽依自身のはっきりとした意思が紡がれる。



「何かする時はわたしにも手伝わせて、って」



 それは俺の記憶にはない出来事だった。俺の意識は体育祭の最中で途切れている。だから、知りようがない。だがそんな事情など芽依には一切知ったことではない。



「わたしは主水に助けてもらうばっかりで……なんも、できないから……。変わりたいの。クズでも気持ち悪くても……誰かを助けられるように、わたしはなりたい。主水なら、わかってくれるよね」



 思い起こされるのは、最初のやり直しで初めて出会ったアリエスでのこと。そして、最初のやり直しの最後、写真撮影での会話。



 いつだって芽依はそうだった。俺と同じ陰キャのくせに、変わりたくて、実際に変われる人間。俺なんかとはずいぶんと違う。



「両親に海外に行ってほしくなかったって……あれ、嘘だよね。わたしたちが自分のために行動できるわけがない。誰かを理由にしないと行動できないのがわたしたち」



 この場には七海がいる。だから俺たちが元々陰キャだという話はできない。まぁこれまでの高校生活でほとんどばれているだろうが……それでも言うわけにはいかない。



「だから本当のことを教えてよ。……わたしには、本当のことを教えてほしい」



 本当のこと。海外にいたら母さんと父さんが死ぬから自殺未遂を敢行した。そんなこと言えるわけもない。



 だから俺が今から言うことは嘘だ。どこまでいっても嘘でしかない。



「俺も……変わりたかったんだよ」



 それでもこの嘘は、いやに自然と口から溢れた。



「俺もいい加減……自分のために行動したくなった。芽依みたいになりたいと、多少なりとも思ったんだよ」



 芽依も多少は俺に憧れを持っていたのだろう。だがそれは俺も同じだ。最初から、同じだったんだ。



 陰キャでもリア充になりたい。死ぬ寸前に、芽依ができたことをやりたいと思ったのだから。



 まぁそれでも俺は。この生活を心の底から楽しいとは思えなかったんだけど。



「……そっか」



 短くつぶやいた芽依は、俺が作ったショートケーキの先端をフォークで掬い、口に運ぶ。



「……うん。主水もきっと変われるよ」



 そう言って、芽依は思わずといった様子で笑みをこぼした。

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