第4章 第6話 成果
2018年 12月18日(火) 18:26
「ただいまー」
散髪を終えた俺は、スーパーで買い物を終えると一直線に家へと帰った。理由は陰キャなので家が大好きというのと、夕食を作るため。体感時間ではそうでもないが、実際の時間では2ヶ月ぶりの帰宅。その間一人残された妹の卯月の食事事情は想像に難くない。コンビニ弁当やカップラーメン。健康的にも金銭的にも悪い食事をとっていたことだろう。リルのせいでほとんど徹夜なので体調はよくないが、それでも。卯月には美味しい料理を食べてほしい。
(リル、悪かった)
靴を脱ぎ、リビングに向かうまでの間にリルに謝罪しておく。これから先少し集中するので、このままだと長時間の喧嘩状態になってしまうからだ。
(ほんとにリルは気にしなくていいから……少し見守っててくれ)
「……わかり、ました」
廊下を歩く最中、隣を歩くリルが言う。ゆっくりと、考えるように。そうしている内にリビングに着いてしまい、
「でも、私は……」
パン、という破裂音と共にカラーテープが飛び込んできた。
「「「おかえりーっ」」」
「――――!」
その正体がクラッカーだと気づくのに時間はかからなかったが、脳が目の前の光景を処理するのに手間取り、長らく理解することができなかった。そしてようやく出た言葉は、
「母さん……父さん……?」
そんな、ただの状況報告。卯月の他に、この場にいるはずのない二人が俺を出迎えてくれた。
「なんで……海外に帰ったんじゃ……?」
「お前が言ったんじゃないか! 海外に行かないでほしいって!」
確かに、そうだ。俺は二人が生きていると聞いただけで、それ以降のことは何も知らない。
「じゃあ、ずっと……こっちにいるの……?」
「主水、聞いてくれ」
父さんが俺の両肩に手を置く。強い瞳だ。それでいて、辛そうな瞳。
「今、父さんと母さんがいた地域で内紛が起こっている」
知ってるよ、そんなこと。
「人が何人も死んで、今も苦しんでいる人がいる」
父さんたちもあそこにいたら死んでいた。だから俺は命を賭けて止めたんだ。
「そういう時にこそ、父さんたちは動かなくちゃならない。父さんたちは困っている人を救えるから」
「……待って」
まさか、また。行こうとしているんじゃないだろうな。あの危険な場所に。
リルがああ言っていた以上、3年以内に死ぬことはないだろう。それでもその先は? 俺が死んだその先、母さんと父さんは生きているのか?
止めなければならない。また、死ぬことになっても……!
「「それでも俺はっ!」」
声が重なり。涙も、零れた。
「お前たちの顔を見たら……死にたくないと思った……!」
「父さんたちに死んでほしくない……!」
自分で何を言っているのかよくわからなかったが。たぶん、同じことを言っているのだと思った。
「だから父さんたちは日本に残る……! 主水と卯月と……一緒にいたい……!」
「だからっ! 主水もあんなバカなことしないでねっ!?」
母さんが、抱きついてきた。
「ほんと……おにぃのバカ……! 二回目だよ……もう……ばかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
卯月も抱きついてきた。
泣いている。みんな、泣いている。俺のために。
「ごめん……ごめん……!」
俺だって死にたいわけじゃないんだよ。でも、死ぬしかなかったから。
「本当にごめん……!」
でも俺の大切な人が三人も……こうして泣いてしまうのなら……!
俺はもう、絶対に死ぬわけにはいかないじゃないか――!
「さぁ、ごはん食べよう? ママがんばって作ったんだから……!」
テーブルの上には色とりどりの料理が並んでいた。俺なんかが作るものよりも、よっぽど美味しそうな料理が。
「そうだな。食べようか」
三人がテーブルに歩いていく。俺も行かなければならない。
(リル、さっきの話の続きなんだけど……)
「今は私との時間ではありません」
姿は見えないが、声はする。天使さながらの、優しい声が。
「主水さんが死んでも掴み取りたかった未来です。思う存分、堪能してください」




