第4章 第3話 共犯 2
「珍しい組み合わせだな。十六夜と七海って」
「あんたのお見舞いで時々鉢合わせてね」
「怖い人かと思ったらオタクに優しいギャルだった。実在したんだね」
寝起きの俺を取り囲むように座る十六夜と七海。十六夜は俺の隣に椅子ごと傾けて座り、七海は俺の前で背もたれを前にして棒付きアメを煙草のように口に咥える。なんにせよ、十六夜に話し相手ができてよかった。
「あ? 怖いってなに?」
「ひぇ」
いい人だってわかってもそれはそれとして凄まれると怖いよねわかる。俺もいまだに七海のこと怖い。
「まぁとにかく、元気そうでよかったよ。自殺未遂も両親に海外に行ってほしくないかららしいじゃん。あたしたち悪くなくてホッとしたわー」
俺に視線を合わせることなく、まるで用意してきた台本を読み上げるように七海は笑う。未来の俺が帰った後、その記憶は明確に受け継がれるのではなく、この時こう思ったっけなぁ、程度にしか伝わらないらしい。だからそういった理由になったのだろうが……マザコンファザコンみたいでめちゃくちゃ恥ずかしい。
「実際にマザコンじゃないですか。私よりご両親の方が大事なんでしょう?」
(いやだからそれは……)
「おかあさん……おとうさん……でしたっけ。大泣きしながら」
「やっぱお前見てただろっ!」
「七海さん優しくしてあげて。大矢くんだって辛かったんだと思う」
恥ずかしくなって思わず声に出してしまった俺に、十六夜が的外れのフォローをしてくれた。精神がまだおかしいと思われたんだろうなぁ。リルはクスクス笑ってるし……。
「主水も辛かっただろうけどさ……こっちだって辛かったんだからね。今までテレビで観てもふーん、だったけどさ、残される側の気持ち……ってやつ? あれやばいわ。正直マジで涙出た。ただの友だちでさえこれなんだからさ、家族にはちゃんと謝っときなよ。あたしに言われたくないだろうけど」
「いや……わかってる。本当にごめん」
七海もこれを言うつもりはなかったんだろう。言い終わってからもバツの悪そうな顔をしている。
自殺は本人も周りも不幸にするとは誰の言葉だったか。こんな形で実感させられるとは思わなかった。
「あー……。碧はなんかないの? 主水に。入院してる間は気を遣って話せって医者から言われてたじゃん。今だから言えることとかさ」
この空気に耐えられなかったのか、七海は髪をくしゃくしゃとかくと、十六夜に強引にパスを回した。
「私は特にない」
そんな急にパスをもらっても俺たち陰キャは受け止めることができない。十六夜は無表情にボールを避ける。
「ただ私は……」
だが十六夜は、捕れなかったボールをわざわざ拾いに行き、
「大矢くんが生きててよかった。それだけしかない」
一筋の涙を頬に垂らした。
「十六夜……。ごめん。俺が馬鹿だった」
「ううん、私はいい。それより大矢くんの友だちの方が大変」
十六夜も俺の友だちなんだけどな。ここで言う友だちとは、樹来グループのことを指すのだろう。
「最初に言っとくけどあんたのせいじゃないからね」
前置き。つまり、相当悪い状況、ということか。それなりの覚悟を決めて話を聞く必要がありそうだ。
「まず暦祭であたしたちは誰一人として付き合ってない」
俺が託したことから語り始める七海。まぁ知り合いが自殺未遂した、という時に惚れた腫れたは無理な話か。しかし七海は俺の表情から考えていることを読んだのか、改めて忠告してくる。
「だからあんたのせいじゃないんだって。あたしたちが主水の話を聞いたのは翌日月曜。単純に、それぞれが付き合うように至れなかったのよ」
九角関係で残ったのは、芽依、金間。樹来、七海。月長、真壁の三組。だがその内の前二つは元々の時間で恋人関係にあったはずだ。それなのにどうして……。
「まずあたしだけど……そもそも告れなかった。帰ってきた紅がすごく辛そうな顔をしてて……。慰めもいらないって感じだったから」
「はぁ!?」
なにやってんだよ樹来……。お前ならリルにフられるくらいどうってことないだろうが。
「芽依と水菜は男連中の方から後夜祭に誘ったみたいだけどダメだったみたい」
「まじか……」
月長はまだしも、芽依が断ったって……。やはり俺がやり直したせいで歴史が変わっているんだ。でもどうして……。芽依が俺を嫌いなのは今も昔も変わらない。だとしたら金間が俺と友人になったのが原因……? だめだ、考えてもわからない。
「そんで……わかるよね。グループ内でフったフられたがあった場合どうなるのか。表面上はいつも通りだけど、やっぱりどこかギクシャクしてる。あたしも紅と上手く話せないし……紅もまだ元気ない。芽依なんかあんたが自殺未遂したせいでめちゃくちゃ暗くなったんだから」
「大矢くんは悪くない」
「あぁそうね……ごめん」
「いや……」
芽依は元が陰キャだからな……。陰キャは自分とは関係ないのに、誰かが嫌な目に遭ったりすると無駄にへこむものだ。なんか全部自分のせいな気がして死にたくなってしまう。
樹来は……よほどリルのことが好きだった。そう考えるしかない。自分がリーダーの組織が壊れてるのに放置だなんて……完璧超人のやることじゃない。そして、だ。
「月長はどうなった?」
月長は俺にフられた。月長は俺にショッキングなものを見させられた。
他の奴らが百歩譲って俺のせいじゃないにしても、月長に関しては全て俺が悪い。ここまであまり話に出ていないってことはそうまずい状況じゃないとは思うが……。
「水菜は……」
目を伏せたままの七海は一瞬口ごもり、告げる。
「……学校に来なくなった」
俺の罪の重さを。
「っ――!」
俺の、せいだ。俺のせいで月長は……!
「暦祭の片付け日……つまり月曜日だね。あんたの自殺未遂の話を聞いた水菜は、学校から飛び出した。それから一度も学校に来てない。主水が今座ってる席も水菜のだよ。それくらい学校に来てない」
「ごめん……! 俺が……!」
「私としてはいい気分」
頭を抱えることしかできなくなっていると、隣の十六夜がいつもの無表情に少しの笑みを浮かべていた。
「リア充共が自滅するなんて、ボッチの私からしたらいい見せ物。灰色の高校生活に彩が加えられたみたいで心地いい」
十六夜がわざと嫌なことを言っていることくらい俺や七海もわかっている。だからこそ聞き続ける。第三者からの意見を。
「でも同時にイライラする。なんでたかだか恋愛程度でごちゃごちゃしてるのって。だからさっさといつもとの調子に戻って」
「……だね」
十六夜の陰キャ節を受けた七海は、一度頷いて俺に手を差し出してきた。
「言ったよね、あたしたちは共犯だって。こうなった責任も、これからの責任も。全部あたしたちが果たすよ」
「……ああ」
差し出された手をとってうなずく。どっちにしろ、やることはもう決まっているんだ。
「聖夜祭で全部やり直す。あたしたち三人で」
「……なんで私も入ってるの」
「この話を聞いたあんたも共犯だから」
「ひぇ」
繋がれた俺と七海の手に、七海のもう片方の手に引っ張られて十六夜の手も重なる。
ということは、次に会う人は決まった。
「……宍戸さん」
聖夜祭の主催者。そして、俺の先輩に会わなければならない。
総合評価1000ポイント突破させていただきました!
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まだ評価やブクマをしていないという方も、これを機にしていただけたらなー、と思います。もちろんおもしろかったらで構わないんですけれど。
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