第4章 第2話 主水大矢のすべらない話
2018年 12月18日(火) 11:32
軽い診察を受け、問題がないことを確認した後俺は2カ月いたらしい病院を後にした。
リルの秘密の治療を受けているため痛みや後遺症もないのだが、先生には別のことを心配されていた。
「どうしました主水さんっ! 元気ないですねっ!」
10時間以上に及ぶリルの超大声感想のせいで全く眠れなかったのだ。間違いなく昨日より体調が悪い。
(リルはずいぶん元気だな)
「はいっ! いやー、あの漫画おもしろかったですっ!」
(まぁリルが楽しかったのならそれでいいよ)
「おもしろすぎて時間を止めて5周しちゃいましたよっ!」
(話が変わった)
そんなことができるんなら最初からやってくれよ……。
「碧さんに感想をお聞かせしないといけないんですよねっ! 聞きたそうな顔してると思いました……。そんなに聞きたかったんですね……しょうがないです。聞かせてあげませんとね」
(いやいい。たぶん俺そこら辺のファンより語れると思う)
「主水さんもこの漫画好きなんですかっ!?」
(自覚ないのかよ……)
とにかく、だ。
(俺はこれから学校に行く)
「家帰らないんですか?」
(時間がないからな。制服も置いてあったし……まぁシャツは破けてるんだけど)
「でも私心配です。体調悪そうですし……なるべく無理してほしくないです」
(あっぶね手が出そうだった)
2018年 12月18日(火) 12:51
1時間以上かけて学校に到着する。クラスの様子は……一見普通に見える。
いつも通りそれぞれの昼休みを過ごし、樹来グループは後ろに固まってくっちゃべっている。
だけどなんだろう。どこか白々しいというか、腹に何かを抱えていそうというか……。俺も既に仲間意識が生まれているのだろう。仲がよくなければ気づかない違和感がそこには存在していた。
俺にも気づかないし……なにより。月長の姿が見えない。
まぁあの自由人は昼休み割と一人で行動することもあったし、そういうこと……なのだろう。
とりあえず13時から5限が始まるし、荷物が置いていない席に座ることにする。たぶん席替えして俺の席になった場所だ。引き出しの中に何も入っていないのだから。
座ると、あれ……。急に眠気が……。
2018年 12月18日(火) 15:43
寝てた。
めちゃくちゃ寝てた。それよりも、起こされなかった。
「まじかー……」
既に教室には俺以外人はいない。つまりみんな俺のことを無視し、置いて帰ったということだろう。
まぁ暦祭をほっぽりだしたわけだし許してもらえるとは思ってなかったけど、ここまでとは……。
「いいえ、少し違います」
現実の厳しさに頭を抱えていると、隣の席に座ったリルがそう言った。なんか、哀れんだ顔をして。
「どういうこと?」
「主水さんは昼休みの最中に合流したじゃないですか。誰にも声をかけずに」
「まぁ自分から声かけられるなら陰キャじゃないからな」
「あまりにも自然すぎたんですよ。そして今のあなたはた2ヶ月間の入院のせいで髪が伸びている」
「? つまり?」
「その……言いづらいのですが……」
リルが本当に気まずそうに視線を逸らして、言う。
「誰にも気づかれませんでした。主水さんが学校に来てたこと」
あぁ、なるほど……。
「ショックじゃないんですね」
「まぁいつも通りといえばいつも通りだからな。知ってる? 俺、中学の林間学校でいないことに気づかれずにパーキングエリアに取り残されたことあるんだよ」
「悲惨すぎる……」
「ヒッチハイクして家に帰るのが大変でな……」
「だからなんで無駄なところで行動力あるんですか。普通に迎えにきてもらえばいいでしょう」
わかってないなリルは。俺が先生やクラスメイトの連絡先を知っているわけがないだろう。
「驚いたのがさ、林間学校の次の日学校に行っても誰にも何にも言われなかったんだよ。本当に最初から最後まで気づかれなかったんだな。だからこの話は俺しか知らない」
「まぁ……その時もあの方だけは気づいていたんでしょうね」
「ほら、いた」
開いたままの教室の扉の方から、閑散としているのに聞こえづらいほどの小さな声が届く。そこにいたのは、
「言ったでしょ? 大矢くん来てるって」
「げ、マジで気づかなかった」
相変わらずの無表情の十六夜碧と、引きつった顔をした七海文だった。




