第3章 最終話 未来への希望 2
「死にたくない……死にたくない……死にたくない……!」
「ご愁傷様でーす」
「ひぃっ!?」
な、なんだ……!? いたく、ない……。目の前にはいつもと変わらないリルがいて、俺は殺され続けていたはずなのに……!
「主水さん」
「ぅ、ぁ……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
「もう、主水さんってば」
壁にまで後退し、必死に許しを請うリルは俺に笑いかける。
「もう主水さんは死んでますよ」
なんだかとてもうれしそうに、笑う。
「え、でも死体は……」
「そこに黒い焦げができてるでしょう? それが主水さんです」
「えぇ……」
焦げ、っていうか染みっぽいけど……あれが俺なのか……。なんか実感わかないな。
「でも俺は殺され続けるんじゃ……」
「覚えてないんですか? 4444回ほど殺したあたりで飽きてやめちゃったんですよ」
「飽きてって……」
殺すのに飽きたってどう考えても天使の台詞じゃないな……。じゃあ次は、あれか。
「これから地獄に堕とされるのか……」
もうリルが俺を観察対象にする理由はない。まぁ元々1、2回目で無理なら暦祭で母さんたちを救って諦めようと思っていたんだ。俺にしては珍しく予定通りに事が進んだってことで死を受け入れよう。
「なに言ってるんですか。さっさと次に行きますよ」
そう諦めたのに、なぜかリルは呑気な顔で卒業アルバムをぱらぱらと捲っていた。
「な、んで……!」
「今さら新しい観察対象を見つけるのはめんどくさいんです。時間もないですしね。しょうがなく、落第生を拾ってあげようということですよ。さすがは私、優等生ですね!」
「でも俺はリルを裏切って……!」
「私は天使ですよ? 下等生物が多少おいたをしたくらいじゃ怒りません」
「それだけじゃない! 俺はみんなのことも……!」
「だからです」
ここで初めてリルは、真剣な顔で俺を見つめた。
「あなたが自殺未遂を起こしたことによって、あのグループは瓦解しました。こればっかりはあなたのせいです」
が……かいってそれは……!
「みんなの仲が悪くなったっていうのか……? 俺なんかが自殺しようとしたくらいで……!」
「主水さん、この世界には神様はいないんです。人が行動を変えられるのは自分自身だけ。他人の行動をどうこうしようなど傲慢ですよ。あなたが俺なんかと思っていても、みんなはそうは思ってなかったってことです」
そんな……! 俺が、やり直したせいで……!
「ただし人の行動は変えられなくても人の運命を変えることはできます。あなたがご両親の命を救ったように」
リルが崩れ落ちる俺の手を握る。温かい手だ。でも特別感はない。俺はこの手に包まれていた……? いやまさかな。そんなことありえな……
「なんで顔赤いの?」
「い、いえ……。そ、その感覚はあなたが自分を刺した後のものですね! 主水さんを助けるためにお医者さんのお父様は泣きながら応急処置を行い、お母様は手を必死に握ってましたから。無意識にその感覚を覚えていたんですよ!」
「……ちょっと待て。なんで俺が刺した後のことそんなに詳しく知ってるんだ……?」
「ぁっ」
「まさか見てたのか……? 気絶から覚めたあと、透明になって……!」
「い、いえそんなまさか……。だいたい見てたなら私止めますもん……。だから……ありえない、ありえない……」
「リル……ありが」
「天使見習い・リルっ、通りますっ!」
うわ誤魔化した! 決め台詞を誤魔化しに使いやがった! ……ていうかうん? リルが指し示してる写真……。
「撮った覚えがないんだけど……」
夜の教室で、仄かな灯りの中映る樹来グループ。その後ろ。廊下を俺は一人歩いていた。
写っているのは芽依たちだけではない。見たことのない陽キャや、宍戸さんまで写っている。となるとこのイベントはどういったものだ……?
「高1冬・聖夜祭ですね。この年のクリスマスイブは祝日だったので、宍戸桜花さんが参加者を募って学校でパーティーをしたんですよ。主水さんはこの日別の教室で追試を受けてて、たまたま写っちゃったみたいです」
あぁ……この時期は母さんと父さんが死んだことでずっと家にひきこもってたからな。確か事情が事情だから、学校側の恩情で簡単なテストを受けることで、最低ラインの成績をくれたんだっけ。確か追試自体は午前中に終わったが、徹夜で勉強したせいで夜まで寝ていた気がする。
「じゃあ俺は、あいつらの仲をとりもってみんなでクリスマスパーティーをすればいいってことだな」
「そういうことです」
だったら俺はまだ死ねない。俺がやり直したせいで誰かの幸せが壊れてはいけないんだ。
「あ、忘れてました!」
よしそろそろ行くか感を出していたのに、突然リルが大きな声を上げた。
「怪盗チェリートリニティですよ! あれはどういうことですか? ローションと胡椒と水風船が何かを指し示してるんですよね。それともただ入手したかっただけで意味なんかなかったんですか?」
「いや、一応ちゃんとした答えはある」
って言ってもな……。この後の展開予想つくんだよなぁ……。
「ローション、胡椒、水風船。この中に仲間はずれがいるだろ?」
「うーん、全然わかりません」
「胡椒だけ水と関係ない」
「まぁ……そうですね……」
「だから仲間にしてあげるんだよ、胡椒も。イベント同好会らしいだろ?」
「というと?」
「胡に水をつけてあげるとほら、湖になる。湖と言えば?」
「あぁー、女子テニス部の出し物ですか」
「この暗号を解いて女子テニス部のところに行くとお菓子がもらえるって予定だったんだけど、2日目の夜宍戸さんが普通に食いまくってたから全然来なかったんだな」
「暦祭を隅々まで知らないと解けませんからねー……ん? 待ってください、椒はどこ行ったんですか?」
「……どんなにがんばっても必ずボッチは生まれるんだよ」
「あー! ずっこいですよっ! そんな適当で解けるわけないじゃないですかっ!」
だから言いたくなかったんだよ……。しょうがないだろ、イベント同好会の出し物を簡略化して、ほしいものを手に入れるのが目的だったんだから。
答えに納得できないリルは、一通り騒ぐと楽しそうにため息をついた。
「もうっ。やっぱ主水さんは私がいないとなんにもできませんねっ」
「だな」
「しょうがないからもう少しだけ付き合ってあげますよっ。感謝してくださいねっ」
「してるよ。ありがとう」
「もっと!」
「ありがとう」
「……まぁ今回はこれくらいで許してあげます」
「リル」
「はい?」
「ごめんな」
「……ほんとですよ」
「このお詫びはちゃんとするよ。次の1週間で」
「そんな期間設けちゃったら私、期待しちゃいますよ?」
「俺が期待に応えられたことがあったか?」
「ほんと主水さんは……。そろそろ行きますよ。天使見習い・リル、通ります」
「……まぁ次だけは、話が違うけどな」
ここまで読んでいただきありがとうございました! これにて第3章終了です。長かった! 次回からは第4章。起承転結の結部分です。もう少し短く纏められるようがんばります。
3章が陰鬱としてしまったので、4章は超絶ハッピーエンドの予定です。鬱展開は人気ないみたいですしね。
GWにがんばったストックがなくなったのでこれからこれから多少更新ペースが下がると思いますが、1日最低1話は投稿するのでブクマ剥がしたりしないでね!
もしおもしろいと思っていただけたら評価! などお待ちしております! 既にしてくださっている方、本当にありがとうございます! 励みなっております!
ちなみに第3章のヒロインは十六夜碧さんでした。ありえないですね。
芽依、ツッキー、十六夜ときて次は……クリスマスといえば白ですね! お楽しみに!




