表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんなはずじゃなかったのに。~ボッチだった高校生活をやり直します~  作者: 松竹梅竹松
第3章 高1秋・文化祭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/126

第3章 第49話 いってらっしゃい

 俺は、本当に忘れていたんだ。今の今まで、母さんと父さんの顔を。



 もう仏壇に手を合わすこともしなくなっていた。だから具体的に。どんな表情で笑うのか、どんなことで怒るのか、どんな声で語りかけてくるのか。思い出せなくなっていた。



 だが今、満ち溢れる。二人の顔を見た瞬間、思い出が。克明に記憶の底から湧き上がる。



 子どもの頃、遊園地に行って無理矢理ジェットコースターに乗せられた時のこと。



 小学生の頃、卯月とからあげを作って怒られた時のこと。



 中学生の頃、もうとっくに観なくなっていた特撮の玩具をもらった時のこと。



 高校生の頃、二人が突然クラスに来た時のこと。



 なんで。今の今まで忘れていたんだろうなぁ。二人の、あの悲しそうな顔を。



 ……くそ。ロクな思い出がないじゃないか。やっぱ嫌いだ。本当に、嫌いだ。



「おかあさん……おとうさん……!」



 俺は、この二人を、刺せない――!



「どうしたどうした、急に泣き出して」

「ママたちに会えてうれしかったんでしょ? 4か月ぶりだもんね」



 3年ぶりだよ……ばかやろう……! もう、二度と会えないと思ってた……!



「また会えで……よがった……!」



 この瞬間のために生きていたんじゃないかと思うほどに、俺は……俺は……!



「なにおにぃびしょ濡れじゃん!」

「とにかく中に入ろう? 話はそれからでいいよね」

「だめだだめだ! 風邪舐めたら死ぬぞ! まずは風呂だ!」



 この二人に傷ついてほしくない。でも刺さなければ死んでしまう。



「リルぅ……!」



 なに、言ってんだ俺は。なにリルに泣きつこうとしてるんだ。もうリルは隣にいない。俺がやらなきゃいけないんだ。もう、覚悟は決めたはずだろ。



「写真を……撮ろう……。時間ないんだろ……?」



 全員が前を向く写真なら隙はいくらでも作れる。残り3分……いやもう2分くらいか。短時間ならこれが一番確実だろう。



「だから風呂が先だって……」

「まぁまぁお父さん。主水の頼みだよ? いつも自己主張が薄いって言ってるんだから、たまには聞いてあげないと」

「じゃあ卯月がタイマーセットするねっ」



 卯月がスマホスタンドをセットする中、俺たち三人はリビングで横に並ぶ。



「なんでまだ残ってたんだよ……」

「そりゃあ主水に会うために決まってんだろ!」

「お父さんいっぱい話したいことあるって言ってたもんね」


「ああそうだった! 父さんたちな、昼間主水の学校の文化祭に行ったんだよ!」

「知ってる」

「えぇ!? お父さんどうしようばれてたって!」


「でも姿は見てない……。ただ、来てくれてたってのは知ってる」

「お父さん聞いた? 来てくれた、だって!」

「ははは! 主水は高校に入って変わったなぁ……。正直来るなって怒られるかと思ってたぞ」


「俺だっていつまでも子どもじゃないんだ。……両親に感謝くらい、するだろ。いくらでも」

「いいんだよ感謝なんて! 俺たちはそれ以上のものをもらったんだから!」

「ねぇ。お友だちと一緒にいる主水が見れたんだから。うれしくて声かけられなかった」


「ママ、泣いてたんだぞ! 主水にお友だちができた、って」

「お父さんだってうれしそうだったじゃない!」

「……やっぱり、友だちがいないとダメなのかな」


「別にそんなことはないぞ! 人の生き方なんてそれぞれだからな」

「でも俺は……友だちを裏切ったからここにいる」

「じゃあ明日謝らないとね」


「……謝れないとしたら?」

「心の中で悪いと思っとけ!」

「もう、お父さんったら」


「俺はそれでも……嫌われたくない。初めてできた、大切な人たちだから」

「それは難しいなぁ……。俺ですら嫌われてるんだ。息子とかにな!」

「そういうことばっか言うから嫌われるんでしょ?」


「でもあれだな。俺だけは嫌いにならないから安心しとけ。大事な息子だからな!」

「ママもだよ! ママも絶対嫌いにならないからねっ。だからお父さんはいいけど、ママのことは嫌いにならないでねっ!」

「タイマーセットできたよ!」



 リル、やっとわかったよ。「よかったぁ」の意味が。



 俺も最初それを考えたんだ。一番楽だから。



 でもそれは無理だと思った。確証がなかったから。



「3!」



 でも3年ぶりに話してみて、確信できた。俺ももう18歳だからな。いつまでも子どものように拗ねてはいられない。



 俺は両親から愛されていないと思っていた。そう思い込むことで、メンタルを保ってきた。当時の俺は、二人を恨まないとやっていけなかった。



「2!」



 だけど今。俺は迷うことなく、それができる。なぜなら、



「1!」



 俺は両親から愛されていた。




2021年 3月21日(日) 16:58




 気づけば俺は、家のリビングから自室へと移動していた。



 服が濡れた不快感はない。全身を支配する疲労もない。当然、痛みだってない。



 帰ってきたんだ、元の時間に。



 ふと、机に飾ってある写真に目が行った。俺が置いた記憶はなかったからだ。



 手に取ってみると、それはついさっき撮った写真だった。笑顔でピースを作る卯月、母さん、父さんと並んで。



 俺は、包丁で自分の腹を突いていた。



 未来に戻る寸前、俺は自殺未遂をすることにした。



 二人が俺を愛していることに気づけたからこそできた作戦。



 自分の息子が突然隣で自殺しようとしたんだ。少なくとも1、2週間は、俺から離れないでいてくれるだろう。



 母さんたちが死ぬのは半月後。約2週間だ。その時間さえ稼げるのなら、母さんたちを刺さなくてもいい。



 まぁ、思い通りに行っていればの話だが。



「安心してください。ご両親は生きています。全て主水さんの目論見通りですよ」

「リ、ル……!?」



 突如姿を現したリル。それ自体はいい。最期にお別れがしたかったし、よかったのだが……。



「ああ、これですか。気にしないでください。私の問題です」



 美しいブロンドの髪は乱れ、目は血走り、口元からは唾液の跡が残っている。



 まるで、暦祭最終日の俺のような様相だ。



「私のことなんてどうでもいいんですよ。それより主水さん、わかってますね」

「……ああ、そうだな」



 確かに、リルのことを気にしている場合ではない。



「大矢主水さん。あなたを殺します」

「ああ。頼む」



 俺はこれから、二度と生き返れない死を迎えるのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ