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こんなはずじゃなかったのに。~ボッチだった高校生活をやり直します~  作者: 松竹梅竹松
第3章 高1秋・文化祭

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第3章 第45話 天使VS怪盗

 リルに初手を止められること。これは想定内といえば想定内の出来事だった。



 知能、感覚、身体能力。全てが人間の遥か上を行く天使。人間の中でも最底辺の俺が敵う道理はない。



 だが今のリルは。実体化したリルは、あくまでもめちゃくちゃハイスペックな人間でしかない。



 壁を通り抜けることも、空を飛ぶことも、遠距離での攻撃もできないのだ。



 リル。お前も俺のことを理解しているようだが、それは俺も同じだ。



 これまでのリルとの思い出全てが俺の武器。



 だからこそ、弱点も知っている。



「食らえっ!」



 俺は事前に紙袋から取り出しておいた小さな瓶をリルへと放る。



「今さら小細工ですか。主水さんらしいと言えばらしいですが、私には無意味です」



 銃弾すらも受け止めるリルだ。当然受け止められてそれで終わり。



 瓶自体はな。



「へくちっ!?」



 前触れのないくしゃみ。きっとリルには理由がわからないだろう。いや知っているのかもしれないが、幸福で溢れている天使にとっては初のくしゃみ。多少なりとも動揺が生まれるはずだ。



「知ってるか? リル。胡椒にはくしゃみを誘発する効果がある」

「知ってへくちっ、ますけへくちっ、これ、うざ、へくちっ!」



 くしゃみをするたびに蓋の開いた瓶から胡椒が飛び出てくしゃみをするという無限ループ。目も開けられないし、動きも制限される。



「次はこいつだっ!」



 その隙に紙袋を取りに行き、用意しておいたものを何度も投げつける。



「ひぎゅっ! なんか割れて……ひぇっ、ネバネバします~! へくちっ、ふぎゃっ!?」



 水風船が割れ、中身のローションを頭から被るリル。だがそれでは終わらない。くしゃみをすれば身体が動き、畳に零れたローションで足を滑らせてしまった。



「うぇ~。口に、ネバネバがぁ……! これ、まさか……!」

「そうだよ。怪盗チェリートリニティの正体は俺。いや、イベント同好会の出し物だ」



 リルが実体化して側にいなくなった際にした月長との電話。それが胡椒、水風船、ローションを盗み出すという話だった。まぁ結果は不評だったわけだが……それでもこれが必要だったのだ。この状況を作り出すために。



 宍戸桜花だからチェリー。三人だからトリニティ。そんな安直な名前にするとは知らなかったので焦ったが、ばれなかったので結果オーライ。



 そしてこれで完全に。リルの動きを封じた。



「終わりだ、リ――」



 ドン、という音と、何かが砕ける音。



 パンツに目が行っていてよかった。



 こんな状況であっても、ミニスカートの女子が尻もちをついていたら、無意識に視線が下に移動してしまう。



 だからいち早く気づけた。動けない状況の中、リルが何をしたのかも。



「畳を踏み抜いて……足を固定した……?」



 リルの左足が畳にめり込んでいる。そしてリルのパワーなら、片足で立つことなど容易。その際、右脚を振り抜くことも。



 さっきとは比にならないほどの何かが砕ける轟音が手元から鳴り響く。その正体が何であるかもわからぬままに、



「が、ぁ……!」



 俺の身体は窓を突き破り、庭の壁に激突していた。



 バケツをひっくり返したような雨が、壁にもたれかかる俺の身体に降り注ぐ。だが雨など全く気にならない。痛すぎる。全身が。めちゃくちゃ痛い。



「パンツ見ててよかった……」



 だがこれだけで済んだのは奇跡だ。リルの行動がわかったおかげで、右手に持っていた警棒で蹴りを防ぐことができたのだから。しかし、



「――くそ」



 それにより、警棒は見るも無残な姿にひしゃげていた。俺の腕がこうならなくてよかったと喜ぶべきか、武器を一つ失ったと嘆くべきか。いや、そのどちらでもない。



「まだ……生きている……!」



 右腕が痺れている。背中の感覚がない。だが動ける。



 生きている限り、俺が負けたことにはならない。動けるのだから。立ち上がれるのだから。だから早く立って……!



 次の瞬間。さっきの炸裂音が、俺の頭上から響いた。コンクリートの破片が雨と混ざって落ちてくる。俺が激突しても砕けなかった壁には、雨に濡れたニーソックスが突き刺さっていた。



「まぁ……こうなると思ってたよ……」



 視線を正面を戻すと、脚を振り上げているリルの姿がそこにはあった。



「私の勝ちです、主水さん」



 霞む視界の中に映る天使は、ひどく辛そうな顔で勝利宣言をしていた。

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