第3章 第42話 後の祭
2018年 10月28日(日) 14:06
「みなさん、おひさしぶりですっ」
昇降口で待つ俺、樹来、七海に、いかにも今来ましたよといった様子で駆けてくる実体化したリル。よく見たら傘にほとんど水滴がついていないのだが、リルの容姿にばかり目が行っている二人は全く気づかずに出迎える。
「リル、ひさ……」
「ひさしぶりだね、リルさん。雨大丈夫だった?」
「はいっ。おひさしぶりです、紅さんっ」
一応先輩という立場になっているので率先して声をかけようとすると、樹来がわざわざ俺の前に出て間に入ってきた。
「リル……」
「どこか行きたい場所ある?」
「リ……」
「暦祭の実行委員会をやっていてね。どこでも案内できるよ」
こいつガチだ。ガチでリルを狙いにきている。俺に一切話させず、腰に手を回してさっさと歩いていってしまう。
「ちょっと主水! あの子なんとかしてよ!」
「いやあれから女子を盗る勇気も自信もないよ……」
七海は七海でちやほやされているリルに嫉妬心バチバチだし……。めんどくさすぎて帰りたくなってきた。
「……ねぇ、水菜とはどうなったの?」
と思いきや、気まずそうに小声で訊ねてきた。俺が月長とどっかに行ったのは見られてたからな。告白目的だと勘づいてもおかしくない。
「フった」
「まじか……」
誤魔化すことなどできない。並んで歩くリルと樹来についていきながら事実だけを述べた。すると隣の七海はやはり気まずそうにしながらも話を続けてくる。
「だから元気ないんだ」
「フった方がへこむとか傲慢もいいとこだろ。別にそんなんじゃないよ」
「でもさ、意外とフる方も辛いもんじゃん。突然好きでもない奴から告られて、なるべく傷つけないようにしてもフったら悪者扱い。あたしも結構経験あるからわかるよ」
「一緒にするなよ……。本当にそんなんじゃないんだって」
確かにあれから2回吐いた。月長のことを考えていたら、どうしようもなく気持ち悪くなったからだ。自己嫌悪と言えばいいのだろうか。とにかく、月長を辛い目に遭わせた自分が許せなかった。だから告られ慣れているリア充共とは違うんだ。
「まぁ水菜には悪いけど……芽依のことが好きなんだもんね。しょうがないよ。だから水菜のことは一旦忘れて、芽依を後夜祭に誘うことだけ考えな」
「ああ……」
いやに優しい七海に同意だけしておく。同じことをリルにも言われた。両親は見つからないし、月長をフってしまった。できることはもう芽依と付き合うことしかないと。
そんなことが許されるわけないのに。
「はははっ、そうだね!」
七海と話をしていると、突然前を行く樹来の声が大きくなった。
「リルさん、なにか食べたいものある? 奢るよ」
「えっ!? ほんとです……い、いえ……主水先輩に奢ってもらうまではそういうのしないと決めているので……」
「そうか……。ならお化け屋敷行ってみる? うちのお化け屋敷、少し評判なんだ」
「それはもう主水先輩が行ってるので……先輩がかわいそうです」
リル……一々俺の名前出すなよ……。樹来だから怒らないだろうけど、話してる最中に他の男の名前出すのは最悪だぞ……。
「リルさん、俺はいま君と話しているんだ」
そうリルに念を送っていると、樹来が、動いた。
「もっと君の話が聞きたいな」
で、出た! イケメンポーズ! 立ち止まり、顔を近づけて甘いイケボで囁く。これをやられればいくらリルとはいえ……!
『無理無理無理無理! 気持ち悪いですっ!』
(そうなの!?)
しかしリルの反応は、純然たる拒否。後ろをチラチラと見ながらSOSを送っている。
『絶対これ自分かっこいいって思ってますよ! 気色悪っ!』
(いや実際かっこいいだろ。見ろよ七海の反応。今にもリルのこと殺しそうだぞ)
『知りませんよ! 人間如きの醜美なんてっ! まだ主水さんがやった方がかわいげがあっていいですっ!』
(そうなんだ……)
心の中で適当に相槌を打つと、なぜかリルの顔がボンッ、と赤くなった。
『とにかく! こんな何の得にもならないデートにいつまでも付き合っていられません! いいですか、主水さん! さっさと切り上げて芽依さんとの夜に集中しますよっ!』
(同感だ)
もうこんなことをやっているタイミングではないのだ。こんな、デートなんて青春みたいなこと。月長をフっておいて、俺にやる資格などない。終わらせよう。
「樹来、少しいいか」
リルと樹来の間に入り、リルを七海の方に行くよう促す。そう迷惑そうな顔するなよ、樹来。これはお前にとっても悪い話じゃないんだ。
「お前とリルの間を取り持つ。俺の言う通りにしろ」




