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こんなはずじゃなかったのに。~ボッチだった高校生活をやり直します~  作者: 松竹梅竹松
第3章 高1秋・文化祭

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第3章 第36話 お化け屋敷~水菜の場合~

「つっ、つき……」

「大変だったよ~、淳くん捲くの。でもこれでおーくんと回れるね~」


「つきな……あぁ……!」

「あれ~? もしかしておーくん怖いの~? それとも水菜ちゃんに会えてうれしいのかな~?」


「月長ぁぁぁぁっ!」

「うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



 誰が目の前にいようが、もう抱きつかずにはいられなかった。死ぬかと思った! ほんと、めちゃくちゃびっくりした! いきなり引っ張られたからまじで……! まじで怖かったぁ……!



「ご、ごめ、月長、しばらくこのままで……」

「ひゃっ、ふへっ、ふわぁっ。こ、こんなちょろくていいの……?」


「つきなっ、ぁ、ほんと、こわ……!」

「涙目、かわっ……! はぁっ……はぁっ……やばっ……変な扉が……ふへへ……」


「ぁりがっ、たすかっ……!」

「だ……だめだよおーくんそんな顔しちゃ……! 私、はぁっ……止まれなくなっちゃうよ……はぁっ……!」


「つき……!」

「えいっ」



 抱きしめていた温もりが突如消え失せる。腹を押され、その場で尻もちをついてしまう俺。月長が見えない……! こ、こんなとこに一人で……!



「つきながっ……!」

「水菜、でしょ?」



 どこからともなく声がする。だが見えない。姿も感じない。



「水菜っ!」

「ふわぁっ……! よくできましたっ」



 空を切り続けていた俺の手が温もりに包まれる。だがまだ姿は見えないままだ。



「私のこと好き?」

「好きっ!」


「っっっ! ど、どこが好き?」

「顔っ!」


「と?」

「あ、あと雰囲気とか! 優しいところも、気にかけてくれるところも、全部、好きっ!」


「っ~~~~! じゃ、じゃあ! キ、キス……できるよね……?」

「ぁ、や、それは……」


「ふ~ん。いいんだ~。じゃあ水菜ちゃん行くね? ばいばい?」

「わかったっ! わかったから、置いてかないで……!」

「わかればいいんだよ~」



 暗闇しかなかった視界に、ぼんやりと顔が浮かんでくる。綺麗で、かわいい顔だ。俺なんかと触れてしまったら、穢れて消え失せてしまいそうな気がしてしまう。



「じゃあ……いくよ……?」



 月長の顔が見える。甘い香水の香りが漂う。心臓の音が聞こえる。月長が、そこにいる。



 俺を求めて鮮やかに輝く唇を差し出す月長に、俺は――



「あ、そういうの禁止でおねがいしまーす」

「「!?」」



 すぐ隣のポリ袋の壁から、包帯を巻いた女性が顔を覗かせていた。



「っ、っ、っーーーー!」



 今まで見てきたお化けと比べたら、彼女の見た目はまったく怖くない。それでも月長の柔らかな唇に全ての神経を集中させていた俺が思わず月長を抱きしめるには充分すぎるほどの恐怖だった。



 月長は四つん這いになっていた。当然そうだ。尻もちをついている俺に顔だけを近づけるにはその体勢以外はありえない。



 だから。だから、だ。抱きつけたということは、自然それよりも早く、顔と顔がぶつかることになる。



 当然普段なら避ける。怪我の恐れがあるからだ。いや、この逼迫した状況でも無意識に避けられるはずなんだ。



 だが俺と月長の顔の距離は、そんな余裕があるほど遠くなかった。



 不可抗力。一言で纏めるとこうだ。仕方ない。あれは事故だ。俺も悪気があったわけじゃないし、月長だってそれをわかってくれるだろう。



 それでも結果は消えない。この柔らかな感触は。舌先に感じた仄かなコーヒーの味は。消えてはくれない。



 初めてのキスの時間だけは、決して消えることはなかった。



「おー……くん……」



 唇が重なった時間は、おそらく1秒にも満たない。だがそれだけで月長はへなへなとへたり込み、



「ごめ……ちが……わざとじゃ……ほんと……ごめんっ!」



 俺はその場から走り去ってしまった。



「はぁっ……! はぁっ……!」



 やってしまった。やらかしてしまった。こんな、こんなはずじゃなかったのに!



 キスをしてしまった。月長と。



 当然俺は初めてだ。月長もしたことがないと言っていた。



 これは、まずい。どれだけ計画に支障が出る? わからない。いや、問題は俺の気持ちだ。俺はどこまで覚悟を決められる?



 わからない。わからない。わからない。



 なんにも、わからない――。



「ひぇぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「っ!」



 ポリ袋の壁など気にせずに走っていた俺の正面から、一人の女子がぶつかってきた。小さな身体だ。たいして大きくもない俺の身体に収まるほど、小さい。



「も、主水ぉ! たすけっ、たすけてっ!?」



 月長とあんなことをした直後なのに。俺の身体には、芽依の細い腕が絡みついていた。

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