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こんなはずじゃなかったのに。~ボッチだった高校生活をやり直します~  作者: 松竹梅竹松
第3章 高1秋・文化祭

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第3章 第35話 お化け屋敷~碧の場合~

2018年 10月27日(土) 13:49




「大矢くん。ちゃんと照らして」

「ご、ごめん……」



 お化け屋敷に入ってから何分が経っただろうか。1分? 5分? 10分? とにかく長時間だ。永遠にここにいる気すらする。



「そ、そろそろ休憩しないか……?」

「なに言ってるの。まだ1分も経ってない」



 うっそだろ待って……。このお化け屋敷の平均クリアタイムは30分。この時間を、あと、30回……?



「リ、リタイア……」

「ギャァァァァァァァァっ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 か、壁の中から人が……! 血まみれの人が出てきた……!



「落ち着いて。ポリ袋の壁だから中に人が出入りできるみたい。もう戻って大丈夫です」

「あ、はい……」



 十六夜に促された血まみれの人が軽く頭を下げ、カーテン式になっていたポリ袋の壁を閉めて戻っていった。



「てか、十六夜……。普通に知らない人と話せてるな……」

「うん。ちょっと今テンション上がってるから」



 暗くてよくは見えないが、確かに顔からワクワクが滲み出ている。



「大矢くん、怖いなら懐中電灯を消すといいよ。光に集中してるから他の場所からの音にびっくりする」

「た、確かに……」



 言われて懐中電灯を消したが……。



「怖いよっ!」



 何にも見えないっ! 夜目? 陰キャ? 何だそれ辺り一面の闇に比べたら無力もいいとこだ。



「もしかして俺陽キャなのかもしれない……」

「安心して。大矢くんは陰キャ。私も」



 十六夜が俺から懐中電灯を奪い取り、前を照らす。見えるのは黒いポリ袋だけだが、それでもかなり安心する。やっぱり俺、陽キャだったんだ……。



「早く行こう。このままだと他の人たちを待たせちゃう」

「だ、だけど……」

「怖いなら私のエプロン掴んでて。近くなら私が守ってあげられる」



 か、かっこいい……! ありがたくメイド服の腰に巻かれているエプロンを両手で掴ませてもらうことにした。



「大矢くん、それスカート……」

「ご、ごめ……」


「ギャァァァァァァァァっ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「捲れてる……! 捲れてるから放してっ……!」

「無理っ! 今離せない死ぬっ! どうせ見えないんだからいいだろっ!?」

「やっ……やだよぉ……!」



 嫌だと言われても俺だって嫌だ。ここを出た後捕まってもいいから一時でも手を放したくない。



「ち、ちなみにどの辺り掴んでる……?」

「後ろ……! 絶対見ないなんで前屈みなの……!?」


「こ、腰から下がついてかない……!」

「それならい……やっぱよくない……! 絶対前向かないでね……!」



 前なんか向いてたまるか……! 下見てると落ち着く……! やっぱ俺陰キャだ……安心した……。



「ていうかなんで十六夜は平気なの……陰キャなのに……」

「主語が大きい……! 自分を陰キャの中心だと思わないで……!」



 でも芽依も苦手みたいだし……。



「まさか十六夜が陽キャ……!?」

「違う。むしろホラーとかは陰キャ的趣味だと思う」


「好きな映画のジャンルは?」

「サメ映画」

「陰キャに違いない……!」



 サメ映画が好きな陽キャなんてこの世に存在しないからな。陰キャはB級映画が好き。



「大矢くんは?」

「俺映画観ない……」

「間違いなく陰キャ。安心した」



 わかる。陽キャなんか知らないけど映画大好きだからな。しかも洋画。いや全部偏見なんだけど。



「でもあれだよな……。ホラー好きってちょっと意外だよな。十六夜って小動物……いや大きいけどおとなしいから……苦手だと思ってた」



 恐怖を紛らわすための雑談だった。でもそれが地雷だった。



「私も……変だと思う」



 十六夜の足が、止まった。



「きっかけは小学生の頃だと思う。ほら、戦争のアニメ視聴覚室で見させられたでしょ? その時みんなは怖がっていたけれど、私は何とも思わなかった。かわいそうだと思ったし、戦争なんてとも思ったけれど、人が死んでいく映像に、むしろワクワクした。悪いことだと思うから、なおさら」



 人の地雷はわからない。特に俺たちみたいな陰キャは。他人が気にしないような些細な出来事にも、敏感に察知して忘れられなくなってしまう。



「その時だと思う。私が普通の人とは違うってことに気づいたの。でもそれを隠そうとはしなかった。優れているところだと思ったの。大矢くんは覚えていないだろうけど、次の日から私は図書館で借りた変わった本を持ち歩き始めた。初めはラノベだった。でも中学生になる時には世界の処刑とか……そういうものを平然と教室で読んでいた」



 確かに覚えていない。が、なぜか見覚えがある気がする。容易にイメージできるのだ。そういう、典型的な痛い中二病が。



「クラスの人が引いているのを、畏怖しているからだと勘違いしてた。それが気持ちよかった。でもある日気づいたの。醒めたと言った方がいいのかもしれない。私が悪い意味で浮いてしまっているって」



 えっ!? はっ!? ちょっ、まっ!



「こんなのやめて友だち作ろうと……がんばろうとしたけどもう手遅れで……。そんな時言ってくれたんだよ。大矢くんが……あれ、大矢くん、どこ行ったの――?」



 十六夜の話の途中で、突然背後から誰かが襲いかかってきた。口を抑えられ、後ろに引っ張られ、ポリ袋の壁を何層も渡らされる。



「ひぃっ!」



 ようやく解放され、尻もちをついてしまった俺は情けなくそんな声を出した。おそらくこれはお化け屋敷のギミックではない。誰かに、意図的に、連れ去られたのだから。



「……静かにして。碧ちゃんにばれちゃう」



 女性の声だった。顔はよく見えないが、聞きなれた声。その声の主は、俺へと顔を近づけるとうれしそうに微笑む。



「やっと二人きりになれたね、おーくん」



 真壁と一緒にいたはずの月長が、俺の姿を見下ろしていた。

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