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こんなはずじゃなかったのに。~ボッチだった高校生活をやり直します~  作者: 松竹梅竹松
第3章 高1秋・文化祭

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第3章 第32話 ジンクス

2018年 10月26日(金) 21:34




「中々粋なことをする人もいたものね」



 暦祭初日が終わり、その後の細やかな処理も終わらせて俺の部屋に遊びに来た宍戸さんに怪盗チェリートリニティについての報告をすると、俺が持っている犯行声明と同様の形式のメッセージカードを懐から取り出した。



「他にも二件、同様の犯行が起きたわ」



 宍戸さんが畳の上に広げたメッセージカードにはそれぞれ、『胡椒はいただいた』、『水風船はいただいた』と書かれている。いずれも差出人は怪盗チェリートリニティだ。



「胡椒は料理部、水風船は1年C組の縁日ね。他にもあるかもしれないけれど、実行委員会に来たのはこれだけよ」

「胡椒と水風船とローション……。何か関係あるんですかね?」

「さぁ。私には知る由もないわ」



 同じ部屋にいた芽依、月長、十六夜もメッセージカードに目をやる。ローションの時は真壁に冷たい視線を送っていたが、ここまで来ると興味が湧いてきたのだろう。



「捜査とかするんですか?」

「窃盗だし先生に通してもいいのだけれど……いずれも被害は少額で小規模。料理部も1年C組も特に問題にするつもりはないそうよ。水菜たちも同じでいいでしょう?」


「まぁローションとか必要ないんで~。あ、でもおーくんが水菜ちゃんに……」

「誰かの悪戯だろうし別にいいですよ。むしろ一つのイベントにしてもおもしろいかもしれませんね」

「私も同じことを思っていたわ。怪盗なんて名前をつけているくらいだし、犯行声明だけでなく挑戦状の意味合いも込められているのでしょう。新聞部や放送部に頼んで事件を報道してもらうつもりよ」



 これくらいの出来事なら誰も本気の犯罪だと思わないだろう。むしろ犯行の事実すら疑われるかもしれない。



(リルは何かわかったか?)

「んー……考えてるんですけど、これだけではなんとも……。明日以降にヒントが増えることに期待ですね」


(リルなら片っ端から人の思考読めるんだから余裕だろ)

「そんな無粋なことしませんよっ! ちゃんと自分で解くのでわかっても私に聞こえないようにしてくださいねっ!」



 天使でも参加できるイベントに胸躍らせるリル。楽しそうで何よりだ。



「それより夕食残ってたりする? お腹すいたわ」

「チャーハンがあります。残り物祭りなんで味に自信はありませんけど」

「あなたの料理に自信があったことあったかしら? ありがたくいただくわよ」



 宍戸さんが冷蔵庫に向かう。こっちも今日の営業で壊れた装飾物を修復するかと思っていると、スマホが揺れた。画面には……グループ通話?



「グループ通話ってどうすればいいんだ……?」

「わたしに聞かないでよ……」

「私も知らない」



 クソ陰キャ共め。こういうことは月長に頼るに限る。



「普通に電話出れば大丈夫だよ~」

「普通にって俺にはそれが一番難……うわっ」



 ロックを解除して隣の月長に渡すと、画面に金間と真壁の顔が表示された。しかもこれ……動いてる。もしかしてリアルタイムか……? すごいな今の技術は。いや3年前の技術なんだけど。



「もしもあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



 なんか突然真壁が叫んで画面が揺れ出したんだけど。故障か?



「そういう時は叩くと直るんですよっ!」

(さすがに俺もそこまで古くない)



 しかし何で急に発狂したんだ? あ、なんか俺と画面を覗く月長の映像も映ってる。



「お前なに水菜と一緒にいるんだよっ!?」

「いや合宿所に泊まってるって知ってるだろ」


「だからって同じ部屋にいるこたねぇだろ!? まさか一緒に寝てんじゃ……!」

「んなわけないだろ。あ、でも昨日は……」


「添い寝しちゃったもんね~」

「寝落ちしただけだろ」



 真壁の発狂の原因がわかった。そして今の発言でそれが増したことも。



「まさか芽依はいないよな……!?」

「いるよ、義勇」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



 芽依も画面を覗き、それから少し遅れて金間も叫び出した。あいつら家だろ大丈夫なのか。



「ま、まぁオレはあの馬鹿と違って、ちゃんと状況はわかってる……。でも乱暴されてないよな、芽依」

「は? 当たり前じゃん」

「そりゃよかった……。おい主水、とりあえず外出ろ。女子がいないとこ行け」



 金間に言われ、一人庭に出る。相変わらず秋の夜風は寒く、早く戻りたくて仕方ない。でもそういうわけにはいかないだろう。



「明日の話だよな」

「そういうわけだ。しっかり話し合わなきゃな」



 明日、俺たち男子三人と、部屋の中にいる女子三人でトリプルデートする。つまり芽依と金間、月長と真壁をくっつけなければならないわけだが……正直まだ気が早い感はある。



 特に月長。あいつはたぶんまだ俺に惚れていると勘違いしている。明日中にとなると相当俺もがんばらなければならないが……。



「明日のデートで後夜祭の約束を取りつける」

「後夜祭?」



 肩透かしな決意に思わず聞き返してしまった。だが俺の方が間違っているようで、真壁が馬鹿にするように笑いながら言う。



「おいおい知らねぇのかよ主水! 校庭で開かれる後夜祭! ここで異性に告白すると、火の神様の御加護で必ず結ばれるってジンクスがあるんだぜっ!?」

「明後日台風だけどな」


「雨降っても体育館でやるだろうが!」

「火使えないだろうが……」



 体育館でもいいなら火の神様なんていらないだろ。いや元々神様なんていないのだが。



「どうせ主水のことだからそんなオカルト信じないとか言うんだろ!?」

「いや、ジンクスが存在するってことはつまり後夜祭への誘いに乗った時点で勝ち確ってことだろ。そりゃ結ばれるに決まって……」

「んなことばっか言ってっからおめぇはモテねぇんだよっ!」



 なんかめちゃくちゃ怒られた。でもこういうの便利だよな……。フラれても「ああそう、別に他意はなかったんだけどね?」感出せるし、嫌なら予定あるで回避できる。



 総じて臆病だなと思うが、本気になると怖いものだ。失敗するのが、怖い。だからこういうシステムが必要だったのだろう。



「とにかくいいか? 明日は三人で協力して、それぞれ相手を後夜祭に誘う。そっから先は個人の努力だ! オレたちは絶対に彼女を作るっ!」

「っしゃぁっ!」



 金間と真壁が叫び、電話が切れる。個人の努力、か。



「……がんばらないとな」



 一人そうつぶやき、俺は部屋へと戻った。

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