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こんなはずじゃなかったのに。~ボッチだった高校生活をやり直します~  作者: 松竹梅竹松
第3章 高1秋・文化祭

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第3章 第22話 少しの変化も

2018年 10月24日(水) 22:14




「なにそれ」

「板タブ」



 夕食を食べ終わり、しばらく作業に集中していると、十六夜が板のようなものにペンのようなものを打ちつけているのに気づいた。繋げてあるパソコンには猫のようなミニキャラが『ここに並んでね』という看板を持っているイラストが描かれている。



「イラスト描けるんだ。上手いな」

「普通。むしろ下手な方。だから本当なら液タブ持ってきたかったけど持ち運ぶのが怖かった」


「液タブって?」

「液晶タブレット。液晶を見ながら作業できる。板タブだとパソコンの画面見ながらになるからやりづらい」



 へぇ……。何にしても、十六夜が絵を描けるというのは驚きだ。まぁ普段の十六夜を知らないから何とも言えないが、俺みたいな何の取り柄もない奴だと思ってた。



「クラスのみんなには内緒だよ。私がイラスト描くの」

「あぁうん、わかった」



 同じ陰キャ同士、余計な詮索はしない。人には知られたくないことがいくらでもあるんだ。特に陰キャは些細なことでも、「陰キャのくせに」とか、「お前じゃ無理だよ」とか言われがちなので隠し事はデフォルトだ。あと単純にあれだ、恥ずかしい。



「俺には見せていいの?」

「うん。大矢くんならいい」


「私もいるのだけれど」

「……まぁ、しょうがないかなって」



 寂しくてこっちの部屋に来ていた宍戸さんが、画用紙を切りながら口を挟んできた。それに対し、十六夜は露骨に嫌そうな顔をしながらも渋々と受け入れる。にしても、



「……批判するわけじゃないけど、わざわざイラストまでつけることないんじゃないか? それ教室の前に貼るやつだろ。一人はそこにつけるだろうし……」

「私もそう思う。でもせっかくなら最善を尽くしたい。誰も気づいてくれないかもしれないけど、それが私だから」



 十六夜の表情はいつもと変わらない無表情。だが無感情ではない。外からは見えないが、その内にはとてつもない熱量が秘められていることがわかった。



「でもこれは私のわがまま。時間がないし、そろそろ終わらせる」

「いやいいよ。ない時間を作るためにこうやって夜まで残ってるわけだし。これで文句をつけてくる奴がいたら言ってやればいいんだ。お前が残れって」


「私じゃ言えない」

「俺も言えない」

「なにそれ」



 十六夜の顔がわずかに綻んだ。だが時間がないのはどうしようもない事実。そろそろ作業に戻らないと……。



「十六夜さん、あなたどこか部活に入ってる?」



 せっかく話に一区切りついたのに、宍戸さんがわざわざこちらに近づいてそう尋ねた。



「いえ……」

「そう。何か入れない事情があるの?」


「そういう……わけでも……」

「ふぅん」



 自分で話に入ってきたくせに急に顎に指を置いて何か考え出す宍戸さん。知らない人に話しかけられるのは苦痛だろうし止めようと思ったところ、またもや急に口を開いた。



「十六夜さん、あなたイベント同好会に入らない?」

「え、普通に……嫌です……」

「即答! 主水みを感じてますますほしくなったわ」



 あまりにも唐突で直球の勧誘。十六夜は冗談かと思ったかもしれないが、宍戸さんは基本的に冗談を言わない。馬鹿みたいなことでも、全てが本気なのだ。



「なんで……私なんですか……?」

「おもしろそうだから」

「ひょえぇ……」



 絶望的に話が噛み合わないな。十六夜が肉食動物に弄んでから殺される小動物みたいになっている。十六夜の方が背高いのに。



「あなたが入ってくれれば四人。五人になれば部に昇格できるわ。それに私が卒業しても同好会が維持できる。とてもいい案だと思わない?」

「つまり……数合わせってこと……?」

「そうね。部員が増えるのなら誰でもいいわ」



 酷い言い草、と言えばそうだろう。だが宍戸さんは俺たちをちゃんと見ている。



「でも私は、あなただから誘ったのよ」



 下げてから上げる。たぶん陰キャに一番効くのがこれだろう。ディスられるのに慣れている分、そこから上げられるとめちゃくちゃ心に響いてしまうのだ。



 知ってか知らずか、月長にも同じことされたからな。その威力は俺が一番よくわかっている。この勘違い絶対しないマンである俺が一瞬ガチで好きになりかけたほどだ。



「イベント同好会は、イベントを盛り上げるのが活動内容。つまり、あなたのイラストと同じよ。意味はないのかもしれない。むしろ邪魔しているのかもしれない。そんな自己満足を突き通せる人がイベント同好会には必要なのよ」

「でも……私は……」

「ふふ、この感じ、やっぱり主水を思い出すわね。覚えてる? 血の勧誘事件」



 なにそれ超怖い。今の俺はそれを経験していないが、これほど知らなくてよかったと思うこともないぞ。



「わた、しは……」



 やはりまだ緊張しているのだろう。十六夜がぽつりぽつりと。それでも、語り出した。



「変わりたくない……。今のままで、いたい。こんなダメな私でも生きてていいって言ってくれた人がいるから……」



 俺が心の奥底で望み、芽依が求めたもの。その変化というものを、十六夜は拒んだ。



「だから、ごめんなさい。環境とか、そういうのを、変えたくないんです。怖いから……。私はずっと、このままでいたい」

「そう。わかったわ」



 十六夜の勇気を出して口にした言葉に、宍戸さんは驚くほど素直に引き下がった。



「あ、でも……。また、別の機会に誘ってくれたら……!」



 あまりにもあっさりとした退き様に、さっき褒められていい気分になった十六夜の方が逆に手を伸ばす。なんか急に態度変えられたら嫌われたんじゃないかって不安になるよね。わかる。



「ええ。また誘わせてもらうわ」



 そんなわがままな願望を、わがままな彼女は受け入れた。

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