第1章 第4話 勝負
2018年 4月1日(日) 11:36
「す、すごいよ主水くん! 全部順調だよっ!」
「今のところ、な。それよりくん付けはやめろよ、芽依。なんか陽キャ感が薄くなる」
「そ、そうだねっ、主水!」
ホームルームが終わり、やるべきことを終わらせた俺と芽依は誰も来ないと知っている校舎裏で秘密の会議を行っていた。
「やー、中々やりますねー、主水さん。ここまでできるとは思ってませんでしたよ」
(特別なことは何もやってないからな。逃げの選択ならいくらでもできる)
俺がやったことといえば、ホームルームが終わった後の時間に、ただ大声で芽依と会話しただけ。
「そうだっ! ライン交換しとこうぜっ!」
「いいねっ! これからよろしくっ!」
入学式が終わってすぐの段階。それは全員俺になったみたいな状態だ。
周りを窺い、必死に友だちを作ろうと考えている。だが突然話しかけられるほど勇気のある人間なんてそうはいない。真性の陽キャを除き、そのほとんどは浮かないよう、失敗しないよう気にしすぎるほどに気にしすぎている。
この状況を俺よりキャリアのある同級生はいない。どんな状況を望んでいるかは俺が一番よく知っている。
それは仕切ってくれる人間の存在。誰かが状況を変えてくることを全員祈っているんだ。
だが俺にそれはできない。ラインに家族と企業の友だちしかいない俺ではどうしたってボロが出てしまう。
そこで流れを作ることに全力を注ぐことにした。それが俺の作戦。ライン交換の雰囲気作りである。
これが思っていた以上にうまくいき、みんな近くの人と連絡先を交換し、終いにはもう帰ってしまった人を除いたクラスラインができていた。ちなみにクラスラインに入れてもらうのは初めての経験である。
俺がしたのはたったそれだけ。芽依以外の人間とは全く話していない。それでもクラスメイト全員に俺と芽依の存在が認知された。誰もが他人任せにしていたクラスライングループを作るきっかけとなった人物だと。
お互いのことを何も知らない状態でありながら、口火を切った人間たち。きっと全員こう思っただろう。
俺と芽依は、クラスを仕切っていく陽キャだと。
「でもわざわざリア充になろうとしなくてもいいんじゃないですか? いえいえそのためにやり直したんだと思うんで別にいいんですけど、死を回避することを優先させるなら、カースト下位の人たちと仲良くなった方がよかったのでは? 主水さんリア充グループで話せるほどコミュ力高くないですよね」
(わかってないな。一番コミュ力を必要としないカースト。それが上位グループだ)
次の作戦のために、芽依にも聞こえるよう声に出して説明する。
「カースト下位って意外となるのにハードル高いんだよ。オタクたちと話せるだけの知識がないといけないからな」
オタクたちは自然とアニメやゲームなんかの共通の話題で盛り上がれるが、俺にそこまでのサブカル知識はない。ある意味であそこら辺はかなりすごいんだ。好きなことをやるだけで友だちができている。カースト最下位のぼっちである俺には踏み入れられない領域だ。
「次にカースト中位だけど、これが一番難易度が高い。上とも下とも話せるコミュニケーション能力。俺や芽依に一番足りないものだ」
「そうだね……わたしなら仲いい人とだけ話していればいいやって思っちゃう」
「そう。仲いい人とだけ話してればいい。それがカースト上位、陽キャなんだ」
仲のいい連中とだけ組み、関係が崩れることを何よりも恐れる友だち大好き集団。それが陽キャだ。入るのは難しいが、一度入ってしまえばそうそう追い出されることはない。そして陽キャ軍団に入るための土壌は今日作った。順当にいけばそのままリア充の仲間入り。だが気をつけたいことが一つ。
「芽依、俺たちはカースト最上位にはならない。その取り巻きが最終目標だ」
「取り巻き……? それってちょっと……ださくないかな……?」
俺の意図を何も理解できていない芽依が首を傾げる。仕方ない、ここで一つ至言を教えよう。
「真の陽キャは生まれた時点で陽キャなんだ」
「? えーと……」
「俺たちがどれだけ努力しようと、ナチュラルにリア充ムーブができる奴らには適わないんだよ。だから俺たちはトップにはならない。いや、なれないんだ」
ここまで言い切ったのは、俺が既にこのクラスで3年間過ごしたからだ。その間ずっとこのクラスを仕切っていた人物が2人いた。一番の勝ち筋はそいつらと仲良くなること。それができればカースト上位の仲間入りだ。
「いいか? 明日のバス、俺たちは最初に一番後ろの五人席に座る。そこに並んできた奴らと仲良くなるぞ。それと一人……真ん中に座ってほしい奴がいる。この子に声をかけるの任せていいか?」
「う、うんっ。がんばるよっ! 主水の言うこと聞いてたらリア充になれるんだもんねっ!」
「ああ、約束する」
元々芽依は陽キャ集団の一員だったんだ。最悪俺の作戦が失敗しても、芽依についていけば何とかなるはず。
もちろんそんなことを口にするわけにはいかないが、それでも初めて見えてきた明るい未来に少しだけ心が踊った。
2018年 4月2日(月) 07:38
バスの座席。それはカーストの縮図だ。なぜかはわからないが、リア充であればあるほど後ろに座り、真面目で大人しい奴ほど前に座る。きっと人間の本能なのだろう。
そんな中、本能に抗う人間が二人。本来なら先生の横に座るような2人が一番後ろの席を奪った。残り3人。きっと習性に従って向こうから勝手にやってきてくれるだろう。
「ここら辺でいいんじゃないか?」
「そうね」
来た。高校3年間、このクラスの、この学年のトップに君臨し続けてきた真の陽キャ。
「ごめん、隣いいかな?」
爽やかな笑顔に、柔らかな口調。ラブコメ主人公のような髪型をブラウンに染めるという、俺がリルから必死に止められたスタイルを完璧に着こなす、俺のような紛い物とは違う真性のイケメン。この学年のキング、樹来紅。
「わざわざ謝んなくてもいいでしょ、自由席なんだし」
日本人であるにも関わらず、リルより明るい金髪がやけに似合っているモデル体型の美女。性格はかなりきついが、それすらも美点に思えてしまうくらいに高貴なこの学園のクイーン、七海文。
まず俺たちは、この本物のリア充に受け入れてもらわなければならないのだ。




