第3章 第15話 陰キャの限界
2018年 10月23日(火) 17:56
「悪いけど、状況教えてくれるか」
現状誰も使っていない生徒会長室の隣の部屋に入り、十六夜に訊ねる。現在のクラスの状況。そして、なぜ十六夜が俺なんかを見て涙したのかを。
「ぇと……その……んー……。……とにかく、時間がたりない」
何から話せばいいのかと言いたげな小さな唸り声を上げ、最終的に大雑把な答えを捻り出す十六夜。
「いま飾りつけをやってるんだけど……。全然終わりそうにない。スペースで表すと5分の1程度。全然駄目」
「それはまずいな……」
一応簡単にだが月長、七海と共にスケジュールを立てたが、この段階で半分は終わらせる計算だった。その計算の半分以下……。そうなった理由は一つしかないだろう。
「人がたりないのか?」
「うん……結局はそれに尽きる。常時クラスにいるのは三人だけ。私と七海さんと霜降さん。でも七海さんは飽きてすぐスマホいじっちゃうし、霜降さんは指示ばっかで手を動かしてくれない。しかも私にだけ注意するの。いるだけ邪魔」
3人か……。元々はもっといた気がするんだけどな。最初の喧嘩でクラスへの足が遠のいたか?
「ごめん、俺も行けばよかった。……ほんとにごめん」
「ううん、大矢くんはいいの。問題なのは霜降さんだよ」
霜降……? あいつは参加してたんじゃ……。いや、十六夜も俺と同じ、友だちのいない陰キャだ。ということはつまり、そういうことなのだろう。被害に遭ったんだ。
「霜降さんはおかしい。あの人本当に来ないでほしい。七海さんより私の方ががんばってるのに……。七海さんに注意できないイライラを私にぶつけてくるの。最初の内は七海さんも私の味方してくれてたんだけど、少ししたらすぐ戻っちゃうから諦めたみたい。カーストトップなんだからもっとがんばってほしい。でもやっぱり霜降さんが悪いと思う。あの人のせいで七海さんずっと機嫌悪い。空気が重くて死にたくなる」
うわぁ……愚痴が止まらない。どんだけ溜め込んでたんだ。でも、
「わかる。霜降うざいよな……」
「わかってくれる……? 霜降さんうざいんだよ……!」
陰口みたいで……いや完全に陰口で申し訳ないが、いいだろこれくらい言わせてくれ。たぶん元の時間で俺に向いていた霜降のイライラが、そっくり十六夜に移動している。つまり俺と十六夜は同じ恨みを抱えている同士なのだ。
言い返す度胸はないが、苦しみを共有することくらい世界も許してくれるだろう。
「あいつなんであんな偉そうなんだろうな……」
「カーストをわかってない。あの人私と同じカースト底辺なのに。自分の方が上だって勘違いしてる」
「あとあれだな。声がめちゃくちゃ……」
「大きい! うるさいの! 耳元でごちゃごちゃ!」
「そんで少し反論するとふてくされてさ……」
「悲劇のヒロインモードになるの! 謝っても調子乗るし、放っておいたら泣き出すし……。もう、やだ! 帰りたいっ!」
どうしよう。十六夜とめちゃくちゃ気が合う。なんで今までこの子のこと認識してなかったんだろう。
いや、ボッチは二人いてもグループになることはなく、ただボッチが二人存在するだけ。こんな機会でもなければ話し合うこともなかっただろう。
「まぁ霜降の悪口はこのくらいにしておこう。話が進まない」
「はぁっ……はぁっ……。そうだね……」
大声を出すことに慣れていないのか、十六夜が大きな身体を上下に揺らして息を整えている。わかるぞ、身体がついてこなくて呼吸の仕方がわからなくなるんだよな。
「それで、他の問題は?」
「そうだね……。細かいところを言うと、コンセプトが決まっていないのが問題だと思う。だからありきたりな折り紙の割っかくらいしか作れない」
「あれ数作るの時間かかるし、その割にスペース余るから一生終わんないんだよな……」
「うん。風船とかあればかなり楽にスペース埋められると思う。でもそんなのばっかだと小学生の出し物みたいになっちゃう。やっぱりコンセプトの制定が最優先だと思う」
「コンセプトか……。店名はなんだっけ?」
「1-Aカフェ。ありきたり。だから看板作りとかもできない。どうやってもしょぼくなっちゃう」
「立て看板と手持ち看板か……。広報関係はセンスある奴に任せたいな」
「私もそう思う。だから七海さんにやってもらいたいんだけど……私じゃ頼めない。怖い」
「わかる。七海怖いんだよな。なんかずっと怒ってるように見える」
「あの顔で怒ってないの……?」
「たぶんな。怒ってる時はあ、完全に怒ってる! って顔になるから」
「へー……。明日見てみる」
よし、これでだいたいわかった。
「十六夜、今日はもう帰ろう。疲れた」
「ぇ、なんでそうなったの……?」
「疲れてると悪口が捗る」
俺はもちろんのこと、十六夜もかなり疲れているはずだ。なんせ、
「俺なんかを見て泣きそうになるほどだ。もう限界だろ」
俺と十六夜は幼小中高ずっと一緒らしいが、交友関係はない。そんな相手を見て安心することがあるだろうか。だからこれは当たり前の判断のはず。そのはずなのに、
「本当に覚えていないの……?」
また意味不明なことを口走り、ふるふると震え始めた。
覚えていない……。てことはなにか約束したのだろうか。話した記憶すらない相手と……。
「とりあえず帰るぞ。そういう話はまた今度だ」
駄目だ、何も思い出せない。というか俺の脳にこれ以上の考え事をするキャパはない。下手くそすぎるごまかしをし、話は終わりだと言うように立ち上がる。
「……でもまだ何も解決してない。クラスの問題が」
「それこそ俺たちだけで話しても意味がないだろ」
「でも大矢くんがなんとかするって……」
言ったな、確かに。でもたぶん解釈の仕方が違う。俺は自分の力を過大評価しない。
「俺はなんにもできない。人を集める人望はないし、コンセプトを決める決断力もない。誰かに注意もできないだろうし、美術の評価は2だ。こんなゴミが主導できるわけない」
俺が人並み以上にできることはない。そしてできないことはやらない。逆に言えば、誰にでもできることに全力を注ぐしかないんだ。
「じゃあ大矢くんはなにをしてくれるの……?」
「単純だよ。駄目押し、一夜漬け、物量作戦。無理矢理にでも終わらせる」
ああ嫌だ。なんで俺がこんなめんどくさいことしなくちゃいけないんだ。
でもこんなことしかできない俺を見ててくれている人がいるのなら。やるしかない。
「俺は明日から合宿所に泊まる」




