第3章 第11話 男談義
2018年 10月23日(火) 12:11
「死ぬ……死ぬぅ……!」
イベント同好会の活動内容。イベントを盛り上げるに殉ずるために暦祭実行委員会の手伝いを午前中いっぱい勤めた俺は、連日の死の危機を迎えていた。
「こんなことで人は死にませんよ。自分が一番わかっているでしょう?」
(人の許容量にはそれぞれ差があるんだよ。俺は殴られても死なないけど、長時間労働をしたらすぐ死ぬ。心が労働を拒否してるんだよ。肉体労働ならなおさらな)
俺が3時間近くぶっ続けでしていたのは、野外ステージの設営。業者も入れて大々的に行うこの作業は、陰キャ人生を謳歌している俺には地獄のようだった。運搬運搬&運搬。知らない人に指示され、知らない人に怒られ、知らない人に呆れられるこの時間は、俺の心を壊すのに充分過ぎた。
(だいたい俺頭怪我してるってわかるようにしてるよな。なんでそんなかわいそうな俺にみんな厳しくするんだよ)
「主水さんの人柄のせいでしょうね」
(くそ……こんなはずじゃなかったのに……!)
駄目だ、午後はサボろう。サボるっていうか、クラスの方に行く。手先しか使わない内職の方が俺には向いているんだ。どんぐりの背比べだろうけど。
「おつかれ、大矢」
昼食をとりに行く集団から離れてベンチに腰かけていると、学ランを脱いで爽やかな汗を流している樹来が両手に缶コーヒーを持って現れた。
「ずいぶんがんばってたな。みんな適度にサボってたのに」
「サボろうとしたらばれただけだよ」
すごい自然流れで左隣に座って缶コーヒーを差し出してきたが、俺コーヒー飲めないんだよな。しかもブラック。かと言って飲まないのも……。
「もしかしてコーヒー苦手だったか?」
「うん……ごめん」
「いや、俺もかっこつけて飲んでるけどあんまり得意じゃないんだ。おいしいものじゃないしね」
さすがのイケメンぶり……。すぐ飲めないことを察し、フォローまでしてくれた。なんでこんなかっこいい奴が俺の隣にいるんだ?
「ところで文から聞いたんだけど、リルさん暦祭に来るんだって?」
「ぅ」
樹来の言葉に、俺の右隣に座っていたリルが小さく声を漏らした。これが本題だったってわけか。
「何曜日に来るのかな? しっかりとお話したいんだよね」
「確か……日曜日の午後だったはずだ」
「なに勝手に決めてるんですか! 別にいつでもいいですけど」
リルが文句をつけてきたが、この時間帯以外はありえない。だからスマホでスケジュールを確認している樹来には無理にでも空けてもらわなければならないが……。
「日曜日か……。……うん、なんとかなる」
反応的に絶対予定入ってただろ。それを押しのけてまでリルに会いたいなんて、ほんとにリルが好きなんだな。
「あの、主水さん……わかってますよね」
(わかってるよ。俺も樹来に悲しんでほしくない。穏便に済ませるぞ)
どれだけ樹来がイケメンでも、リルと付き合うことは絶対にない。リルは天使。人間ではないのだ。
だから何とかしなければならない。できるだけ自然に、樹来に諦めてもらう。
そのためにはやはりリルが俺のことを好きだと見せつけるのがいいのだろうが……。心は痛む。
だが完璧イケメンの樹来のことだ。たとえ失恋してもすぐ吹っ切れてくれるだろう。
「おう、おつかれ!」
「おつかれ」
樹来と並んでベンチに座っていると、金間と真壁が歩いてきた。なんでリア充共はおつかれって挨拶するんだろうな。いや実際疲れてるからいいんだけど。
「二人は何やってたんだ?」
「オレは軽音部で、淳はバスケ部」
「いやー、マジ疲れたわ! マジマジ!」
俺たちの前に立った二人はわざとらしく疲れた感じを見せてくる。だが俺の方が絶対疲れてるので席を譲るつもりはない。
「正直部活の方行ってる場合じゃねーんだよな。芽依と仲良くなるチャンスだってのに」
「な! オレも水菜の方行きてーわ!」
ああ、金間は芽依が好きで、真壁は月長が好きなんだっけか。
「芽依はわからないけど、月長は合宿所いるぞ」
「マジ!? しゃーねぇ、手伝いに行ってやるかーっ!」
まぁ月長は俺のことが好きなんだが……真壁は悪い奴じゃない。俺なんか諦めて真壁と付き合った方が幸せになれるはずだ。
「ならオレも芽依の方行くかなー。そうだ、さっき覗いてきたけど十六夜さん教室にいたぜ」
「へぇ……。大矢は十六夜さんが好きなんだ。リルさんとダブルデートするっていうのに悪い奴だな」
あ、樹来少しうれしそうな顔した。やっぱりリルのこと本気で狙ってるんだ。
「リルさんって誰?」
「大矢の後輩の女の子だよ」
「なんだとてめぇ二股する気かっ!?」
「いや別に……」
疲れてる時の真壁のノリはいつにも増してうざいな。胸ぐらを掴まれそうになり抵抗していると、樹来があまりにも自然に口を開いた。
「いや、リルさんを好きなのは俺の方だよ」
あまりにもストレートすぎる告白。その爽やかな言い方に、俺たちの方が逆に戸惑ってしまった。
「へぇ! 文じゃないんだ!」
「文はただの幼馴染だよ」
「そのリルさんって子かわいいの!?」
「かわいいというか……なんだろうな」
真壁の食い入りな質問に、顎に手を乗せ少し思案してみせる樹来。そしてその手を開き、まるでインタビューに答える俳優のように語り出した。
「もちろん見た目はすごい可憐だ。顔もかわいい系……と言った方がいいのかもしれない。でも俺が最初に感じたのは、美しさだったよ。水が滴り、清流の反射で煌めいた彼女の姿はまるで天使のようだった」
さすが樹来……。すごいかっこいい言い回しするな。
「いえここまでいくと気持ち悪いです」
(そうなんだ……)
女子の考えることはよくわからん。
「ちなみに主水さんは私のどこが好きですか?」
(顔)
「こっちの方がまだ正直でいいです」
(そうなんだ……)
まじでわからん。俺が樹来に勝つことがあるなんて思わなかった。
「じゃあこれで決まったな!」
リルの講座に辟易していると、真壁が突然手を叩いた。
「オレは水菜。紅はリルさん。義勇は芽依。主水は十六夜さん。絶対暦祭で彼女作るぞーっ!」
「「「…………」」」
「いややれよっ!」
彼女……か。それも今の俺には遠すぎて、よくわからなかった。




