第3章 第9話 やりがい
2018年 10月23日(火) 08:13
「おーくんっ、頭大丈夫ーっ!?」
救急車で運ばれ、病院に担ぎ込まれた翌日。教室に入るや否や、珍しく早くから学校に着いていた月長が抱きついてきた。
「うん。本当にたいしたことなかったみたいだ」
最初罵倒されているのかと思ったが、すぐに怪我のことだと察した俺は、罪悪感を抱かせないために嘘で包み隠した事実を伝える。実際はリルによってたいしたことなくしたというもの。病院の先生も困っていた。なんでもう傷口が塞がっているんだって。一応隠すために頭に包帯を巻いているが、その下には傷一つない。
「それより、もうレイアウト決まったんだな」
「ううん。まだ未完成なんだよ~」
「へぇ。俺はこれでいいと思うけどな。これなら回転率も高くなるだろうし」
教室中に散らばっている机の並びは、俺の知っているものとは大きく変わっていた。以前はただ調理場以外は全て机を4つ使用した席だったのに対し、今のは4つ席以外にも6や2人席など様々な席が用意されていた。少し何もない部分が多く、教室の広さを利用できていない部分は気になるけど、特に1人席があるのが気に入った。
「こんな汚い配置でいいわけないでしょ」
俺の意見から真っ向対立してきたのは、1年A組委員長の霜降小雪。相変わらず不機嫌そうな顔で机を睨んでいる。
「そもそもあなたたちが変な騒ぎを起こしたせいで人が減ったし、考えも纏まらなかったんだよ。真面目にやらないなら参加しないで。邪魔だから」
「おーくんのどこが……」
「ご、ごめんなさい! がんばります!」
また月長が絡んでいきそうだったので、慌てて霜降に頭を下げる。ていうかたぶんレイアウトが決まらなかったのはこいつのせいだな。結局自分の思い通りにいかないといつまでもごねるタイプだから。
一応定めた期限では昨日でギリギリだったんだよな。霜降に余計な口を出させないのが成功の秘訣だと思うが、昨日あれから指揮をとったのだとすると、いい大義名分がないと厳しいだろう。
「やっぱり私の言う通り4人席をたくさん作る方が綺麗でいいよ」
「効率より見た目を重視するならな」
「昨日いなかった人が文句言わないで」
「……すみません」
まずいな。三年前は存在感がなくて無視されていたが、下手に存在感が出たせいで人からめちゃくちゃ嫌われている。たぶん俺が何を言っても聞いてはくれないだろう。
「よし、すぐ4人席を作ろう。みんなーっ、うご……」
「俺はこの配置も好きだけどな」
完全に一人突っ走っている霜降の声を遮ったのは、朝の点呼にだけ来る樹来。すっ、と霜降へと近づき、高い背を屈ませ霜降に説明するように意見する。
「確かに4人席は綺麗かもしれないけど、せっかくなら多くの人に楽しんでもらいたいよね。少人数席はニーズに合わせて席を移動させやすいし、悪くない案だと思うけど」
「確かにそうかも……」
「じゃあこれで話を進めようか。小雪さんは昨日がんばったみたいだし、今日はゆっくりしてて」
「う、うん……!」
樹来にたらしこまれた霜降は、顔を真っ赤にして教室の隅に駆けていった。……俺も同じこと言ってたんだけどな。さすがは樹来。俺なんかとは格が違う。
「これでいいだろ?」
「ああ。助かったよ」
ほんとイケメンだな。俺では到底代わりにはならないことを見せつけられた。
「頭の怪我は大丈夫か?」
「……やっぱ樹来はすごいわ」
しかもちゃんと怪我と付けて罵倒に聞こえない気遣いもできるときた。
「でもあれだな……。やっぱりスペースが空いてるのは気になる。確かC組の出し物が縁日で机を使わなかったはずだから、借りれたらいいんだけど」
当然俺にはツテはないから誰か他の人頼みたいな。金間とか運動部の奴らなら他クラスに友だちがいるだろうし、そいつらに……。
「……なんでボーッとしてんの?」
「いや、大矢がここまで考えてくれてるとは思わなかったからな。文化祭とか嫌いなタイプだと思ってた」
何を失礼なことを……。
「嫌いに決まってるだろ。好きになる要素がない」
心からそう思って言ったのにもかかわらず、樹来は少し愉快そうな笑みを浮かべていた。
「その割には楽しそうだけどな」
俺が……文化祭を楽しんでいる……しかも準備で……。
「やっぱありえないよ」
だって今まで楽しいことは何もやってない。レイアウト考えて、指示出して……。こんなことが楽しいわけがない。
「いや、自覚してないのならいいんだ。それより水菜と大矢、落ち着いたら合宿所に来てほしいって」
「合宿所?」
なんだその運動部御用達みたいな場所は。
「学校の敷地から少し離れた場所にある施設だよ。アパートみたいな造りになってて、申請すれば宿泊することもできる。今は作業する場所を探すのも一苦労だからね。暦祭実行委員会が利用しているんだ」
「へぇ……。でも誰が? 俺に実行委員の知り合いなんていないけど」
「ああ、実行委員じゃないよ。もっと上だ」
上? 上って言うと……。
「生徒会長だよ」




