第2章 最終話 少しの変化 2
2021年 3月21日(日) 16:58
「ここまでがんばっても駄目なのかよ……!」
過去へ戻れる1週間が終わり、未来へと帰ってきた。そこに待っていたのは、変わらない現在。
自室で。一人で。卒業アルバムを片手に立ち尽くしていた。
「…………」
何も考えられず、無意識に卒業アルバムを開いていた。体育祭のページ。そこでは楽しそうに笑う樹来と七海の後ろで俺がボーっと呆けている写真があったはずだ。だがその過去は消えた。その時間、俺は体育倉庫前にいたのだから。代わりにあったのは、
「……はは」
俺と月長が二人三脚をしている写真。転びそうになり、二人とも焦って前のめりになっている。もっといい写真あっただろ……くそ。
「なんで楽しそうなんだよ……!」
俺も月長も、確かに笑っていた。楽しそうに。幸せそうに。くそ……くそ……!
「月長……!」
また約束を忘れられたのか……。なんで……なんでだよ……! 月長ぁ……!
いや、これは裏を返せば月長が俺から解放されたということ。
ならよかった。月長が幸せになれたとしたら。よかった、よかった……。
「……よくねぇよ」
死ぬんだぞ。俺は今から。死ぬんだ。死にかけるんじゃなく、明確に死ぬ。
「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ……!」
死にたくない。死にたくない。死にたくない。過去2回死んだが、死への恐怖が和らぐことはない。むしろ死を経験するたびに恐怖が倍増していく。
「たすけて……誰か……助けてくれ……!」
そう願ったところで味方は誰もいない。リルも、芽依も、月長も。誰も隣にはいない。
俺はまた一人で死んでいく……! そのどうしようもない絶望に呑み込まれそうになった時。
「え――?」
電話が、鳴った。
「な……や……あ……!」
こんなこと今までなかった。変わったんだ、未来が! 確かに変化が起きていた。
「つき、なが……!」
スマホに表示されていた名前は、月長水菜。覚えていてくれたんだ。三年前の約束を!
「もしもし~?」
「もしもしっ! 月長っ! 月長っ!」
あぁ、三年前と変わらない声。ついさっきまで聞いていた声なのに、うれしすぎて涙がこぼれてくる。やっと救われた。それなのに。
「がっ……あ……!」
強烈な痛みが心臓を襲った。
「やっぱ打ち上げ出ようよ~。聞いてる~?」
「ぁ、が、ぁ……!」
倒れた拍子に転がったスマホから月長の呑気な声が響く。痛い痛い痛い。警棒で頭蓋骨を割られた時とは比べものにならない痛み。助けてくれ。この痛みから解放してくれ。
「た……す……」
いや、駄目だ。せっかく月長は解放されたのに……!
それに、もう遅い。今さら助けを求めようが、俺は助からない!
全ては俺がしてきたことへの報い。いや、何もしてこなかったことへの報い。たかだか1週間や2週間がんばったところで運命が変わることはなかったんだ。
幸いにも卒業式。もう俺と月長が交わることはない。通話を切ってしまえば月長が気に病むことはないんだ。
だから……この手で……終わらせ……!
「……や、だ……ぁ……」
おかしいな。俺ってこんなこと気にする奴だったか。
こんなはずじゃなかったのに。
「ご愁傷様でーす」
「…………」
気づけば目の前にリルがいて、俺の死体が転がっていた。
「やー、惜しかったですねー。あとちょーっとだったのにー」
「……そうだな」
俺の死体が伸ばした手の先は、わずかにスマホに届いていなかった。もう誰もいない部屋には月長の心配そうな声だけが響いている。
本当に届かなかっただけなのか。それとも、この繋がりを切りたくなかっただけなのか。
わからない。わからないが、
「……クソ」
悔しさだけは死んでも消えなかった。
「さて、次に行きますか」
俺の気持ちを理解しているはずなのに、リルは明るく卒業アルバムを拾い上げた。リルにとっては10回中の2回目を失敗しただけに過ぎない。だが俺にとっては違う。失敗は痛みだ。残り8回……。それを考えると、正直嫌で嫌で仕方ない。
それに。リルには聞こえないよう思考しているが、俺にとってはこれがラストチャンスだったんだ。
もう、次は。あの日なのだから。
「見つけました。次は高1秋・文化祭ですね!」
リルが卒業アルバムの1ページを見せてくる。1年次の文化祭。その終わりに撮った集合写真。
「文化祭と言えばカップル誕生の一大イベント! 次こそは決めてくださいよーっ!」
楽しそうな集団の端で、一際つまらなそうにしている俺が写っている。そう。この日は最悪だったんだ。俺の三年間で最悪の日。
「天使見習い・リル。通ります」
父さんと母さんに会った、最後の日。
ここまで読んでいただきありがとうございました! これにて第2章終了です。次回からは第3章。起承転結の転部分です。ラブコメ成分多めでお届けします。
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